第71話 出雲からの預かり物
行きのバスにいるうちに、自分の祖先に当たる氏族とタケミカヅチとの関係を明らかにしておいたことは正解だったらしい。
以前からこの日に参拝すると決めていたのに、出発前の昨日になって、急にタケミカヅチの態度に“そっけなさ”を感じて戸惑っていたのだが、「自分のルーツをさっさと調べなさい」と促されていたのに気づけずにいたことが原因だったと思い至った。
ギリギリでの謎解きが間に合ったことでそれらの反発も払拭され、無事に鳥居をくぐると彼は、「今年もよく来たね。」と、私を笑顔で迎え入れてくれた。
ここ鹿島神宮にも多くの名のある神社と同じように、本殿とは別に、摂社や末社と呼ばれるたくさんのお社が合祀されている。
奥宮である荒魂に始まり、スサノオとクシナダの仲良し夫婦、お稲荷さんの一面を成すウケモチノカミ、東国平定時のトリックスターであるタケハヅチなど、多くの神々との再会を果たせる。
そのなかで、丘を下った境内最奥に祀られているのがオオクニヌシノミコトだった。
神話では、「国を譲れ」と攻撃を仕掛けた天津神(あまつかみ)のタケミカヅチと、最終的に降伏に至った国津神(くにつかみ)のオオクニヌシという「勝者と敗者」の構図がある。『出雲の国譲り』と言われているのがその逸話。そんなオオクニヌシにご挨拶に行く。
「お側に参りました。」
この鹿島の敷地内において、神話で語られている力関係など意にも介さないといった風格の、力強い男性神のエネルギーが漂ってくる。手を合わせてご挨拶をしていると、どうも、螺鈿のような装飾の施された剣の“鞘”をいただいたらしい。
……空っぽの、さや?
中身がないことが気になったが、その答えは境内の戻り道にありそうだと直感していた。そんなオオクニヌシのお社から望める紅葉は、今年最後の美しさで真っ赤に燃えていた。
再び長い坂を登り、先程通った参道を楼門に向けて戻って行くと、程なくして末社である熱田社へと行き当たる。来る時にもご挨拶をしたスサノオに手を合わせ、もう一度軽くさようならを言おうとした時、どこか呼び止められたような感じがした。
少し意識を集中させると、今しがた手に入れた鞘にぴったりの剣をいただいた。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます。」
大きく頷いて微笑んでいるのと同時に、「頼んだよ。」と、スサノオに何かを託されたような気がした。
……
「ただいま、お待たせー。」
移動に約8時間、実働たった2時間弱の長旅を終えて家に着くと、駅ビルで買ったお弁当で、あきらと二人の少し遅めの夕飯を済ませる。
帰りは毎回満員になる高速バスの渋滞をあらかじめ見越してはいても、それでも結局帰宅が遅くなってしまうのだが、こうしてあきらが不平も言わずに協力してくれるのは本当にありがたかった。
すっかりパジャマに着替え終わって、あとは寝るだけとなった頃。今日が開校記念日であることすら知らない旦那は、見えない世界で粛々と事が進んでいるともつゆ知らず、帰宅するなり無言で自室に上がっていった。
雷(いかづち)の音は遠くから、ゆっくりと耳に届き始めていた。
written by ひみ
⭐︎⭐︎⭐︎
実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
⭐︎⭐︎⭐︎
行きでは抜き身の剣を持たなくて済むように先に鞘をいただき、それを手にしてから剣をいただいて……。ひとつひとつ、配慮されてるのがわかると、
ちょっときゅんとなってしまう。大切にされてるなって。
いやまあ、幽体(剣と同じ霊的レベル)からしたら危ないからって言ってしまえばそれまでなんだけどね。
でもひとつひとつが嬉しいのです。
ちなみに参道の途中にある熱田社(名古屋の熱田神宮に纏わる、まんま“剣”のお社)ですが、こちらにはスサノオとクシナダがお揃いで、以前は「七夕社」と呼ばれていたそう。なるほどね。
それから、改装でなくなっちゃったのか現在公開されてないんだけど、鹿島神宮に以前あった宝物殿に、フツノミタマっていう剣とそのレプリカがあったの。その長さなんと、2.7メートル!!(レプリカのほう、2本のチェーンで吊るされていて、実際持ち上げてみることができたんだー。)
そしてフツノミタマ、のちにイワレビコ(神武天皇)が手にすることになる。
もうね、そんな大剣を振るう武甕槌もイワレビコもゴリゴリゴリラだね。
⭐︎⭐︎⭐︎
←今までのお話はこちら