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第31話 見つめる


あきらのリハビリは週に2回。
5時間目の授業が終わったら、クラスメイト達より一足先に早退して、車で病院へと向かう。

例の電流事件のあと、今日で4回目のリハビリになる。けれども不動さんとの現実面はその日も何も動かなかった。
ラファエルに「心と体のバランスが悪いよ」と教えてもらって自分に正直に生きると決めたからこそ、今日は思い切ってひとつ新しいことに挑戦したというのに。


…………


その日は初めてスカートを履いて、リハビリルームに付き添った。結婚してからはほぼ毎日パンツスタイルだったから、この病院に関わるようになった2年間だけに限ってみても、初めての大きなイメージチェンジだった。

もちろんそれまでは、当たり前にデニムが好きだから履いているのだと疑いもしなかったが、天ノ川で寝そべって以来、徐々に何かが変わってしまったらしい。毎朝の着替えの度に感じるようになった違和感を、次第に無視することが難しくなってきていた。
その違和感の正体を求めて通販雑誌をめくっている時に、意外なことにもしかして私は、本心ではスカートが履きたいのかもしれないと思い至ったのだ。

誌面の中で、モデルさんが着ているフレアスカートがとても魅力的に見えた。今までだったら「何がいいのか今ひとつわからない」と、敬遠どころか毛嫌いまでしていた苦手な丈だった筈なのに、それをうっかり「美しい」とすら思ってしまった。腕を組んでしばらく逡巡した挙げ句、やっぱり買おうと決心した。

届いた段ボール箱を開けると、この季節の海をそのまま閉じ込めたような、落ち着いた青が広がっていた。さっそく身につけてから改めて姿見の前に立つと、涙が頬を伝ってきて、我ながらびっくりしてしまった。
本当はずっとスカートに憧れていたんだなぁと改めてその本心に気がついた時、頑なに拒絶していた心の奥の『感情』が、その抑えてきた本音をポツリポツリと教えてくれた。

「私、我慢してたんだもん。」

……そうか、私は我慢していたのか。

「うん。私は履いちゃだめって、ずっと我慢してたんだもん。」

『私』(※)に話を聞いてもらえて安心したのか、うわーんと泣き出した自分の感情に「そうだったんだ」と納得した。それから嬉しさと、気恥ずかしさとを感じつつ、裾をつまんでひらひらさせてみた。

それなのに。

今日病院であった変化といえば、担当の男性療法士さんがスカート姿の私に気を遣って、いつもは親子で行っているカリキュラムを所々引き受けてくれたことと、それから受付の職員さん達から「似合っている」と褒められたこと。
もちろんそれも嬉しかった。だけど期待はそこじゃなかった。

不動さんとは今回も、何ひとつ、全くもって、それらしい進展がなかった。
いつもと違う私のことも視界に入っているはずなのに気にかけてくる様子もないし、歩行練習で近くを周回していても「無関係オーラ」そのもので、なんだか透明人間にでもなったような気分だった。

自分の心が本当にわからなくなっていた。ツインレイってこんなにも、全くときめかないものなのか。現実の彼は私をまったく認識していないくせに、無意識層では静電気のように不快なエネルギーが纏わりついて、その不一致さにちょっとだけ気分が悪い。

これで不動さんがツインレイだって言われても、やっぱり私は嫌だな……。
これが正直な感想だった。

ただ注意しなければならないのが、エゴセルフにはそもそも「勘違い」する性質があるということ。仮に「不動さんは嫌だ」と言っているのが私の魂ではなくて、エゴセルフの可能性だとしたら。
だからこそ、結論は焦らずにもうちょっときちんとした『心の観察』が必要かもしれない。
それに「お互いに第一印象が悪いツインレイ」という場合もあるというし、それなら尚更焦ってはいけない。

この先を思うと一気に疲れが襲ってくる。
息抜きにチョコレートを食べようと、個包装された包みを取り出す。大袋のパッケージの中で、なぜだか手に取ったその一粒にだけ「Good Job!」と印刷されている。

「この派手なメッセージの寄越し方は天使たちでしょう。」
少しむくれた私の視界に、また一つ光が跳ね上がった。


※私…顕在意識であり、観察意識


written by ひみ


⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。


⭐︎⭐︎⭐︎

2024/12追記:
この時から、基本ずっとスカートなの。
今は庭仕事用にジャージを一本しか残していないのね。
ツインレイやってると何が副産物かって、自分が本当に好きだと思って集めたりしていたものが、ただの逃げの道具(ガラクタ)だったって気づくようになる。
人ってどんどんシンプルに、本質的になっていく。
偽物の自分から脱していくからとても快適で軽くなるよ。


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