第110話 観音の手
生ぬるい気温の中を、ぽつぽつと弱い雨が降ってたり止んだりしている。通りに面したゴミ捨て場にその日収集のゴミを捨て終わると、歩いてくるけーこの存在に気がついた。ペットに引っかかれて穴の開いた、おまけに毛まみれの上着を着ていて、傘の代わりにフードを被って雨を凌いでいた。
なんとなく、お互いにちょっとだけよそよそしく、だけど自然に手を振り合った。
「……で、ひみは、夏至は?」
「前に少し話したとこのヒーリング。今度は夏至ワーク受けるの。それもそうだし、あとはもう毎日何時間も内観してるかんじかな。」
「ああー、ひみだね。私にはそれできないからなぁ……。
私はさ、前にひみと行った琵琶島に、もう一回呼ばれてるんだよね。だけど行くのすっごく怖い。超怖いの。
何が起こるかわからないけど、こんだけ怖いってことは、行って、なんも起こらん訳がないじゃん。今回は、できれば本当、行きたくない。」
「んー、私、まおちゃんのに申し込む時すごく怖かったんだよね。それでさ、その時『怖い』に潜っていったら、急に私の中から「楽しい!」って声が聞こえたの。
だから多分それで合ってる。魂は楽しいことがわかってるから怖いんだと思うよ。行けばなんとかなっちゃうよ。
私はお化け屋敷もジェットコースターも好きだよ。怖いから。」
「あーね。確かにそうかもね。じゃあ覚悟して行ってくるかなっ。」
それでも何度も「怖い怖い」と言いながらも、ポケットに手を突っ込んで両足でピョンピョン跳ねてるけーこを見ていると、彼女の奔放な女性性に対して卑屈な自分が出てきてしまう。
けーこに比べて私はなんて、こんなに窮屈なんだろう。
殆ど止んでいた雨が、再び少し降り出した。
……
その後、琵琶島に行ったけーこの身に一体何が起こったか。それを彼女の口から聞いたのは、七月も半ばになってから。
押し潰されそうな恐怖を抱えてその細長い島を渡ると、彼女自身が観音となった。
順を追って説明すると、今回の転生より遥か大昔からとある龍と共にいたけーこは、今世でも早いうちからその“ファミリー”との再会を果たしていて、その後、この五年間の間になんと、計四柱もの龍遣いとなっていた。
その一体一体に名前があり、個性があり、色も基本サイズも性格もそれぞれなのは、隣にいる私もよく話を聞いて知っていた。(※)
その龍神たちを迎えるたび、一体融合するごとに高熱を出したり意識が飛んだり。人体との擦り合わせ、“調整”というものをギュッと一点に凝縮してくるけーこが時に死の限界すれすれなのを見るたびに、私は素直に尊敬していた。
そしてその四体の龍神が琵琶島の先端でひとつとなり、十本の手を持つ“千手観音”の姿になって、けーこと同化したのだという。
帰宅してから徐々にエネルギー調整が為されると、けーこの肉体と千手観音とが重なって見えるようになったとのこと。
自分の視界から見える二本の手の周りから、孔雀の羽のようにニョキニョキと生えている十本の手。
神々の世界に対し、未だ冷めたところを残した私ではあったけど、それでも感嘆せざるを得なかった。ただ……。
「これでさあ、あっちのものをヒョイ、こっちのものをヒョイでしょ?手が十本て、楽だよねー。いたずら心しか湧かんよね。」
天は一体、彼女になんてオモチャを与えたんだと笑いつつ、どれほどこっちが努力して、今度こそ引き離したと思ったけーこが結局先を行くことに、諦めにも似た惨めさを感じた。
※……meetoo活動初期にやっていた有料画像販売ですが、こちらの画像はそのうちの一柱そのものです。そもそも司るものが大きな龍神で、故にこの写真もものすごいパワーですよ!
(細かい話ですが、分離してるものを統合するにはそれなりに段階が必要ですが、統合しているものに関しては、意図的に分離、再統合が可能です。よってこの時は見事な龍体なのです。)
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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書いてて笑ってしまったのだけど、まーた4つが1つになったね!
“弁財天けーこ”の眷属は龍だけど、“弁財天ひみ”のかつての眷属は狐の「こっこ」。ガイド交代しちゃったので今は一緒にいないんだけど、私が子供の頃、何より大事なぬいぐるみがキタキツネの「キキ」だったんだ。
私に邪(=蛇)が取り憑こうとしてるのを、こっこが噛んで、防いでくれたこともあるの。
鳥居がいっぱい系お稲荷さん、倉稲魂命(ウカノミタマちゃん)のところに行けば、運が良ければみんなもこっこに会えるよ笑
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