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第80話 たまゆら



 卒業式を間近に控えた中学校では、緊急職員会議の回数が増えてきていた。いつものように待合スペースで読書をしながら待っている間、放課後活動のためにすれ違う先生達の姿は今やめっきり減っていた。

 それでも三年間通わせてもらった校舎の中を少し歩くだけで、守衛さんや清掃の方々、それから受付職員さんなど、顔見知りになった多くの方から行く先々で声をかけていただいた。

「卒業したら寂しくなるね。これからは、なかなか難しいかもしれないけど、いつでも親子で顔見せに来てね。」


 少しすると、あきらがエレベーターで降りてきた。声をかけると、

「ちょっと待ってて。こないだの美術展の賞状、今から校長室で表彰してくれるんだって。」

 そう、返事が返ってきた。

 そして気がつくと、階段を降りてくる子供達の足音が急に増えてきて、あっという間に待合スペースは人だかりになってしまった。一体これは何だろうと思って、近くにいた同じクラスのゆめちゃんに聞いてみたところ、部活動などで表彰のある団体や子供たちが順番に校長室まで行くとのこと。

 なるほど、だからこんなに混雑してるのか。ちょっと時間がかかるのかな。

 それならば、今日は外で待っていたほうが良さそうだと思い、私は靴を履き替えると暖かい校舎を出て誰もいないベンチへと向かい、持ってきていた本へと視線を落とした。


 しばらくすると、ジャラジャラと派手な金属音が聞こえてきた。建物沿いの、多目的室に通じる外扉を施錠しているスサナル先生の姿を見つけた。

「あっ。」

 躊躇している暇はなかった。鞄から手紙を取り出すと小走りに近寄って、先生が持つ書類の束の一番上に、その手紙をそっと重ねた。

「……これは?」

 とても柔らかい声だと思った。
 だけどその声には応えずに、私は先生に背中を向けてゆっくりと歩き出すと、くるっと回ってシマトネリコのベンチへと腰を降ろしてスカートの裾を整えた。
 追いかけてくる視線のどちらに焦点を合わせたらいいか、彼の右目と左目とを交互に何往復か捉えると、お互いにほんの少しだけ顔が赤くなったのがわかった。

「……あ。そういえばあの映画、やっぱり春休みになんとか公開できるみたいですね。僕、昨日ちょうどそんなニュースを目にしました。」

「あ、ああそうなんだ、楽しみですね。だけど前の話、どんなだったか復習しておかないと、忘れちゃってて駄目ですね。」

 それこそ私たちのほうがよっぽど中学生のようだなと思いつつ、ぎこちない、他愛ない、それでも貴重な会話をひとつひとつ慎重に選びながら二人で紡いでいった。

 本当はそのまま映画館に誘ってもらえたら、どれだけ嬉しいだろうとそんなことを思ってみた。
 だけどスサナル先生からも、いきおい私を誘いたい感情と、現実的に今この場で誘ってしまうのは難しいという葛藤とが、どういうわけか伝わってきた。
 卒業式の練習の話、修学旅行の時の話、明日に控えた合格発表の話。今までの日々の延長みたいな、それでも探り探りの会話は、いつもより高い位置で鳴っている心臓のせいでふわふわと危うくて心地良い。勿体ない、今この瞬間だけの至福。夢を見ているようだった。


 視界の隅に、車椅子が戻ってきた。
向こうにいないと思ったら、二人してここで喋ってたのかとあきらの顔に書いてある。

「なんか、すごい副賞もらった。」

 県内の港から出る遊覧船のペアチケットを、あきらがヒラヒラさせていた。うわーすごい、おめでとうと、ひと通り三人で盛り上がると、
「じゃあ、あの……僕はそろそろ。このあとまた会議なので。あきらさん、いよいよ発表だね。気をつけて行ってきてね。」と、エールをもらって解散した。
 急ぎ用意した手作りマスクの下で大きく微笑んでお辞儀をすると、スサナル先生も目を細めて、ゆっくり微笑み返してくれたのが伝わった。


 そしてその日の夜。
 政府から、全国の小中高等学校等へ向けて、週明けから春休み一杯までの臨時休業の要請がなされたという緊急ニュースが、学校からの一斉メールで送られてきた。
 篩い分けが、本格的に始まろうとしていた。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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たまゆら、とは、勾玉と勾玉が触れ合ってシャララーンってなる、ほんのひととき、一瞬のこと。

でね、わたし的には、陰陽太極図は平面の追いかけっこのみならず、上昇螺旋と下降螺旋の3D構造の一瞬の触れ合いを、CTみたく輪切りに見てることも含まれてると思ってる。
螺旋、最近出てきましたこちら。
第69話 ふたご星の統合

ほらね、6というデザインも、9というデザインも、トルネードになってるの。で、相似形。
ツインレイって、同じ魂なのね。一つの心を共有しているというか、一緒。

そしてそれは螺旋。
ツインレイの、特にサイレント期間。心は地獄のように辛い…んだけど、サイレントの、とある時期以降はあなたが上昇する分だけ、相手も押し出されるようになる。だからあなたが取り組まなければ、相手も上がって来られない。

私が引っ張るからさ。教えられること、頑張って書くからさ。
その代わり耳の痛いことも書くけど、先に地獄を通ってきた者の想いとして、私の経験を踏み台にしてもらえるならそんなありがたいことはないよね。

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