第47話 ヤマタノオロチ
文化祭で、スサナル先生がステージに立つとの告知の紙が貼ってある。
昔からギターを弾いていた先生は、うまいことバンドが組める生徒が見つかった年には「○○andスサナルバンド」を結成するらしい。
放課後の誰もいない教室で時々ギターを弾いているという彼は、「僕、そうやって趣味で息抜きしていかないと死んじゃうんですよ。」などと言って、よく私のことを笑わせてくれていた。
バンドの他にもアイドルグループのコピーやお笑いなど、有志でステージ発表をする数組の名前が書かれたポスターは、階段の踊り場や昇降口など校内の数カ所で目にすることができた。
「ねぇ、それって保護者も観れるの?」
それとなくあきらに聞いてみる。
「どうだろうね。文化祭二日目のステージ発表ならちゃんと保護者席あるけど、これ初日のおまけイベントだから生徒じゃないと駄目かもね。スサナル先生に聞いとこっか?」
「だよね、ポスターの内容と同じものが載ってるプリント来てないし、これって多分生徒向けだよね。
あー、うん、聞くのはいいや。わざわざ聞いてもらってまであなたの担任観に行ってもね、そこまではいいかなぁ。」
本当は観たい気持ちがあったとはいえ、敢えて自分から近づくほどの勇気まではなかった。ステージから、生徒しかいないはずの客席に私がいるのが見つかったとしたら、そんな気まずいことはない。
一旦は、あきらにそんな返答をしたが、その後散々思い悩んだ。そこで仲のいい受付職員さんにそれとなく聞いてみたところ、こんな返事が返ってきた。
「毎年PTAのお母さん達がそのへんウロウロしてるから、あきらママ一人混じってても誰も何とも思わないわよ。私達受付も休憩時間には交代で覗きにいっちゃうし、気にせず来ちゃえばいいじゃない。」
あっさり答えが出てしまった。
最後は私の気持ちの問題だけとなった。きっかりあと30分で、ステージが始まる。
さっきから何度目になるか、ショルダーバッグを肩にかけてはため息をついてまた外し、スマホを無駄にタップしては、時間を確認してしまう。学校まで、徒歩でも15分もあれば到着する。体育館までの移動を加味したとしても、今なら何とでもなるだろう……。
何度も逡巡したけれど、結局先生が演奏しているその時間が過ぎ去ってしまっても、最後まで家から出ることができなかった。
スサナル先生がステージで演奏し、そのことに家で私が悶々としていたまさに同時刻。一人の男性の影が、徐々にこちらに近づいてこようとしていた。
スサノオ神話になぞらえて、素戔嗚尊と相対峙するもう一人の主人公『八岐大蛇伝説』から、その男性を「ヤマタ先生」と呼んでいくことにする。
鏑矢が空を飛んでそれを合図に歯車が回ると、深い闇を抱えた寂しき大蛇が目を覚ました。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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4月に小説スタートさせた段階から、この先生(ヤマタノオロチ先生)の名前をどうしようかなーって、ずーっとずーっと考えてたの。
それが、この話を書き出すと同時にスパッとひらめいて、なるほど!だからってなったの。
毎回書かされてる感半端ないよ、本当。
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