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第99話 醜いあひるのむすめ神
入り江の内側の穏やかな海は、波の音こそしないけど、心地良い潮の匂いが漂っていた。
横浜市、琵琶島神社。
湾に突き出る細長い半島の先端から、海を臨んで御坐すこちらの弁財天は、スサノオの娘神でありさっぱりと天真爛漫なイチキシマヒメノミコト。
その琵琶島から片側二車線の道路を挟むと後ろの山には瀬戸神社が建っていて、オオヤマヅミ、スサノオ、それから菅原道真といった男神たちが、彼女を優しく擁していた。
そんな男性神たちが、今度は私とけーこという“女性”に深い愛情を注いでくれている。手を合わせると、柔らかい眼差しが返ってくる。
ここ瀬戸神社には、軽く百を越える種類の紫陽花の鉢があり、却ってひとつひとつの品種名が、全部謎解きの鍵のように思えてきてしまう。まだ今の時期は枝葉だけだが、これらの花が一斉に満開を迎えたら、どれだけ素晴らしい眺めになるのだろう。
そして本殿を裏手に回ると、切り立った崖の左右内側にも祠が立ち並び、たくさんの神々がいらっしゃった。
順番に手を合わせながらイワナガヒメの前まで来ると、何の前触れもなく彼女の想いにリンクしてしまった。次々と色んな感情が溢れ、泣いても泣いても止まらない。
まだ当時の私には、その感情の核心まで遡りに行ける技術はなかったけど、それでも多くの悲しみが胸の中に流れてきた。また彼女の涙の出処として、今日ここで出会えたことで、ようやく自分の苦しみが“私という魂”にわかってもらえたという安堵から来るものだということも、痛いほどに伝わった。
神話では取ってつけたように才女の部分ばかりが唯一の褒めどころで、ニニギによって、ただ一度だけ妹神と比較されたというだけで、見た目を悪く扱われることが多いイワナガヒメ。
だけどその神話世界でも、彼女の姿は息を呑むほど美しいものだということは、どういうわけだか私の記憶が知っていた。噂しか信じるものがない他の人には見抜けなくても、まことの彼女は美しい。
私自身も今世では、容姿のコンプレックスに苦しんできた。美人なけーこの横に並んでいるだけで、外見を比較された意識が飛んでくることだってたまにある。だからこそ“イワナガヒメとしての転生当時”の彼女の痛みと重なって、私自身、共鳴してはたくさん泣けた。
実際に、同じ理由で傷ついた経験があるからこそ、その共感から神や人を浄化に導けることがある。
「泣いてる“ひみ”を、いつ抱きしめようかと思った。」と言うけーこには、千何百年もの間、常に妹を引き合いに出され続けてきたイワナガヒメの悲しみまでは受け止められない。私と同期しているその時のイワナガヒメは、けーこの差し出す優しさを完全に拒絶していた。
「今、けーこに抱きしめられたとしても、私はちっとも嬉しくない。私たちのこの痛みは、あなた方になどわかるわけがない……。」
この苦しみを昇華するのは、“あなた”では無理だとそんな風に思った。
けどもちろん逆もあって、けーこが経験してきた痛みだからこそ、私には不可能でもけーこによって、他の人の救いになることだってある。そのことについてはちゃんと頭でわかってた。
つまりこの時のイワナガヒメが心を開いてくれたのは、たまたま同じ傷を持っていた私だったということである。
そしてまた、巡り巡って彼女こそ、同じ悩みで苦しむ人に、同じ目線で寄り添うことができる女神なのだと気づいていた。痛みがわかるその分だけ、彼女は強くて美しい。
私はこの時、初めて本当に少しだけ、今世選んだ自分の容姿がもしかしたらものすごい宝物なのかもしれないとそんな風に思うことができた。他人のものさしではなくて、自分のものさしを愛おしいと思えた。
今日、泣き虫なイワナガヒメに会えたこと。彼女と想いを分かち合えたこと。それはまた、私にとっても心の底から嬉しい出来事として記憶された。
…………
その数日後、夢を見ていた。
咲き乱れる色とりどりの紫陽花に囲まれた瀬戸神社の本殿の前で、愛するスサノオが微笑んでいる。そなたが愛おしくて仕方ないのだと、そんな意識が入ってくる。
両手を重ね、そして優しく抱きしめられると、私と奥で繋がっているイワナガヒメも微かに笑った。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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昨日はここに、ツインレイ以外とも恋愛や結婚の経験ができるのが地球だよと書きました。
今日はそこに付け加えて、
“他人と比較して悩める”のも地球だよと書きますね。
宇宙種族のマイノリティまでは、ごめんなさい、私も転生の経験がそっちにあまりないので無責任なことは言えませんが、それでも今の地球人の多くを占めるマジョリティ種族では、宇宙時代、当たり前に自己とは美しく、当たり前に健康で、当たり前にツインレイがパートナーでした。
(ただ、パートナーではあっても統合はしておらず、深い闇の経験も、たくさん宇宙にもあります。)
なので、
『わざわざ地球に来てまで、いつでもできることを選ばない』といって、
『コンプレックスを味わうチャレンジ』をして楽しんでいるのもあなたです。旅行先では地元にもあるファミレスよりも、どんな味かわからなくても現地のものを食べてみたいですよね。
そんな経験を果敢にしている自分のことが、愛おしく思えてきませんか?
そんな、他人軸バリバリの比較からくるコンプレックスを、自己統合させていこうとチャレンジする自分の存在って、ものすごいと思いませんか?
宇宙にたった一つきりの、唯一無二のどんな自分も素晴らしい。
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