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第20話 暗闇に駆ける閃光
その晩、食べきれないほどの郷土料理と温泉とを堪能し、ロビーでひと通り喋り倒してから各自が部屋に戻ったのは、夜10時を回った頃だった。
持参した二枚の額を、今は壁際に寄せられた座卓の上に揃えて並べ、見える角度を整えてから布団に転がった。
「ねぇミカ、これ両方ともあなたの別人格でしょ?この二人は一体誰?何のために飛行機にまで乗ってきたの?」
そこそこの声量で独りごちてから神経を研ぎ澄ませてみても、静寂に混じるのは遠く微かな川の音とコロコロ鳴いてる虫の声だけ。こんなに特別な非日常なのに、ミカエルからの応答はない。それにスサノオも、タケミカヅチからも。
部屋の位置によるのか曇りがちな天気のためか、窓の外には明かりひとつ見当たらない。『生き物が入るから開けないでください』と窓に張り紙がある上しっかりと施錠もされているので、星を見ることも叶わない。
なんとなく、星空アプリを開いてみる。
「ええと新月は……北北西の地中深く……。」
うつ伏せの状態から体をくねらせ、変な体勢のままで敷布団に向かってスマホを傾け、地球の裏側のその先の、手の届かない月の位置を確認する。
「反対側だし!」
地表面からほんのちょっとでも顔を出してくれれば少しはテンションも上がったものを、月までもからそっけなくされることになるなんて。
我に帰ると急に疲れを思い出し、スマホを充電器に挿してから目を閉じる。
疲れたな、今日はゆっくり休もう。
すぐに気持ちよく寝入った筈なのに、気づいたら、肉体はきちんと寝ているのに意識がふわふわ起きている、ある種の変性意識状態になっていた。そして何を思ったか、せっかくこの意識状態なのだから、色んな人に日頃の感謝を伝えに行こうと考えた。
何故か真っ先に思い浮かんだのが、病院のリハビリルームの人たちだった。
私としては、普段からもっと深くお世話になっている人……例えば家族や友人や小学校の先生や、仮に同じ病院だとしても主治医や医療チームの先生達から先に会うとの予想だったので、「なんで?どうしてこの人たちから現れたの?」と少し躊躇してしまった。
出てきてしまったものは仕方ないので、皆さんに一列に並んでいただく。手に持ったバスケットには、人数分と思われる花束を用意した。
だけどあの人は最後がいいな。いろんな人に渡したあとで、最後に何者か確かめよう。
先頭に並んでくれているのは、あきらの担当の男性の理学療法士さん。お花を渡し、お世話になっている感謝を伝え、軽くハグする。いつもありがとうございます。
その次にいたのは副担当の女性で、お手伝いいただくのは時々だけど、会えば話が盛り上がるので私にとっても嬉しい方。そうして「ありがとう」と言ってから、籠からお花を取り出して顔をあげると、目の前にはその彼女ではなく例の男性が立っていた。不動明王みたいに実直で、生真面目さが伝わってくる目をしていた。
あらら。あなたは一番最後にしようと思ってたんだけどなぁ……。
「すみません、私はあなたをよくわかっていないのだけど、よかったらお花、もらってください。」
そう伝えてからハグをしたら、いきなり心臓から身体中に電流が駆け抜けた。よくある心理的な比喩表現などではなく、ビリビリバチバチと、リアルに肉体感覚を伴った刺激が四肢に向かって広がっていった。
ぱっと目が覚めた。覚めてしまった。
未知の感覚は驚きと疑問をたくさん残した。
「今のは、なに……。」
しばしの間放心し、スマホを手繰り寄せて時刻を確認する。まだ、2時を少し過ぎたところ。充電マークが満タン近くになっていることに気がついて、コードから引っこ抜いて枕元に放置する。
皮膚に残るたった今の記憶にすっかり目が冴えて困ったのだが、ちょっと風が出てきたのか、波のように繰り返す葉擦れの音を子守唄に、やっとのことで再び眠りに落ちていった。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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あきらの学校にも貼り紙で「小動物が入るから」って書いてある扉があるんだけど、それがさらに「生き物が入る」って言われると、カテゴリとして広すぎん?
明るい時間帯でだったら、どんな子かちょっとお会いしてみたいなーと思ってしまうのは怖いもの見たさの為せる技。
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