共和党は及び腰 ハンター・バイデン「公開証言なら受けて立つ」の真意は?
外国との事業をめぐる疑惑が取り沙汰され、米議会下院監視委員会から証言録取のため召喚を受けていたバイデン大統領の息子、ハンター・バイデンが28日、代理人弁護士を通じて「公開形式なら議会で証言する」と表明しました。これに対し下院共和党のジェームズ・コマー委員長は、「みんな最初は非公開でやってるんだから、ルールに従え」ということで、ハンター側の要求を認めない意向です。
ハンターの召喚の日程は来月13日ですが、私はハンターがトランプと同様に日程を遅らせる戦法に出るんじゃないかなぁと思っていたので、ちょっと意外でした。
公開証言を求める理由としてハンターの代理人、アブ・ロウェル弁護士はコマー委員長宛の書簡で「これまで非公開の公聴会が、都合の良い解釈や事実の捻じ曲げ、誤情報の拡散に利用されてきたのを我々は見てきた」と説明しています。ちなみに、非公開じゃないと絶対ダメということだったら非公開でもやるのか、もしくは召喚取り消しを求めるのか…ということには言及していないようです。
ところで、疑惑はもともとバイデン氏が現職の副大統領だった2010年代を中心に、ハンターがウクライナや中国をはじめとする企業とファンドマネジメント契約を結んで多額の報酬を受け取っていて、これがバイデン氏の影響力を利用したものだったのではというもの。ハンターへの証言録取が実現したとして、委員会はざっくりと以下のポイントに焦点を当てています。
ハンターが、バイデン副大統領とのコネを“売り物”にしてビジネスの取引をしていたか
ハンターのビジネスがバイデン副大統領の地位ありきのものだと、バイデン氏本人が知っていたか
バイデン氏自身が、ハンターのビジネスにより利益を得ていたか
1については、以前ハンターのビジネスパートナ、デボン・アーチャー氏が「ハンターは取引先との会食中などで、バイデン氏とのつながりをチラつかせていた」(おそらく「俺の父ちゃん、副大統領なんだぜ〜」というノリ)という証言をしているので、かなりクロに近いでしょう。
ただハンターは一般人なので、これだけならギリギリセーフ。問題は2と3です。いずれも当時公職者だったバイデン氏が直接関わっていたことになるので、該当すればさすがにアウトでしょうが、疑惑の調査が始まってから5年、今に至るまで2と3の証拠になるものは何も出てきていません。TIME誌などは、ロウェル弁護士がそもそも確固たる証拠なんて出てきようがないと踏んで、公開証言という強気な態度に出たと分析しています。
今回、公開証言が実現すれば最大級のメディアの注目を浴びるのは必至で、CNNあたりはずっと生中継でしょう。ただ、ハンターはあまり表に出ることに慣れた人ではないようで、実は本人がメディアに出て話している映像は数える程しかありません。亡くなった兄ボーの葬儀で弔事を読んだ時も、11歳年下の妹アシュリーがユーモアを交えて気丈な面持ちで読み上げるのに比べ、ハンターは何度も紙に目を落としたり落ち着きない様子が目立ちました(状況が状況だけに性格の問題とは言い切れませんが)。そんなハンターにこれほどの多大なプレッシャーの中で証言させるという戦略を代理人が取るかなあ…というのはちょっと疑問です。「どうせ公開じゃダメって言ってくるだろうから、だったらこっちも証言しないよって言おう」という駆け引きなのかなあ…とも思いますが、本気で公開証言を求めているのだとしたら、なかなかのスパルタですね。
ちなみに、ハンター側が公開証言にこだわるのは前述のとおり、ハンターの言ったことを、他の誰かの解釈を介すことなくダイレクトに国民に伝えるため、ではありますが、進め方にも若干の違いがあるようです。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、公開形式の場合は委員会の出席者一人ひとりが数分ずつ質問する時間を与えられ、共和党、民主党、共和党、民主党…と各党の議員交互に順番を回すのだそうです。この形式だと、例えば共和党が自分たちに有利なポイントを引き出した場合、直後に民主党はそのポイントを覆すことを狙って質問ができます。
一方、非公開形式では、まず共和党に特定のポイントを深掘りするだけのある程度まとまった時間が与えられ、その後民主党に同じだけ質問の時間が与えられるのだそう。前出のアーチャー氏が議会証言した時はこの形式で、結果として、バイデン氏本人がハンターのビジネスの場に居合わせたような印象を証言から引き出し、共和党に有利に運ぶことができたようです。
ということで、公開形式では非公開よりも論点がまとまりにくい傾向がある一方で、民主党の援護射撃をより効果的に受けられる利点があります。ロウェル弁護士もこの点を考慮に入れて公開形式を求めたのかもしれませんね。
ところで、監視委員会のコマー委員長は、これまで散々「ハンターに議会に出てきて証言すべき」と求めていたのですが、いざハンターが公開証言ならやると言った途端に「召喚に応じるのはウェルカムだけど、非公開でね」と及び腰になったことには、ちょっとした批判もあるようです。
同じ監視委員会のメンバーで民主党のラスキン下院議員からは、「盛大な恥晒し」と言われる始末。結局、ハンター側の株を上げることになってしまったわけで、今回はロウェル弁護士の作戦勝ちでしょう。
12月13日に本当に公開証言があるのか、結局非公開になるのか、それとも延期になるのかは引き続き追っていきますが、公開証言になったら仕事なんかしてる場合じゃないなあ、と思う今日でした。