産後うつを防ぐ「オンラインによる2週間健診」 -CLINICSを利用した臨床研究から-
はじめまして。事業連携推進室の梶山です。
以前こちらの記事で紹介したオンライン・セカンドオピニオンのように、メドレーでは医会や学会といった医療の団体や地方自治体と協力しながら、オンライン診療を広める活動をしています。
今回のnoteでは、日本産婦人科医会と連携しておこなった「オンライン産後2週間健診」の取り組みについて紹介したいと思います。
どうして医会との連携が必要なのか
本題に入る前に、なぜオンライン診療の普及に、医会・学会といった組織との連携が必要なのかについて少し触れたいと思います。なお、医会というのは特定の地域や診療科の医師の集まり(例:東京産婦人科医会)のことです。
オンライン診療の活用については、1997年から議論が重ねられてきましたが、最初に大きな変化があったのは2015年でした。「離島や僻地だけでなく都市部の患者にも利用可能である」ということが公式に認められ、その後、様々な紆余曲折を経て、徐々に広まってきました。そして、2020年の新型コロナウイルスの流行によって、活用できる地域や対象疾患が拡大され、普及が進んでいます。ここ数年で「オンライン診療」という言葉を急に目にするようになったと感じている方も多いのではないでしょうか。
メドレーは、オンライン診療が限られた地域や診療科だけでなく、できるだけ幅広く、かつ適切に、対面診療と組み合わせながら活用されるべきと考えています。
そのためには、治療の在り方や医療提供体制の構築を担っている医師会や学会、医会といった組織と連携して、「適切なオンライン診療」を普及させるための取り組みを行っていくことが大切だと考えています。
この活動の一環として、この度、埼玉県産婦人科医会・日本産婦人科医会による「オンライン2週間健診の取り組み(臨床研究)」を、メドレーがオンライン診療のシステムや運用面をサポートする形で実施されました。
妊産婦のメンタルケアと産後2週間健診
近年、産婦人科領域では「妊産婦のメンタルケア」が注目されています。
2020年に実施された産科医療機関向けのアンケートでは、「メンタルヘルスの支援が必要な患者がいる」と回答した産科医療機関は93.3%にものぼり、その割合は2015年の56.9%から年々増加していることが報告されています。(妊産婦メンタルヘルスケア推進に関するアンケート/日本産婦人科医会)
妊産婦のメンタルの不調の代表的なものとして「産後うつ」が挙げられます。産後うつは、出産によるホルモンバランスの変化や、慣れない子育てへの不安やストレスから発症する疾患で、極度に悲しくなる、気分の変動が激しくなる、日常生活や子供への関心が持てなくなる、といった症状がみられる疾患です。
症状は似ていますが、出産後短期間でおさまるマタニティーブルーとは別物で、産婦の7人に1人(10-15%)が経験するとも言われています。(日本産婦人科医会HP)
今回の取り組みのテーマである「産後2週間健診」は、文字通り産後2週間頃を目安におこなわれる健診のことですが、主な目的は「母親の心身のケア」と「子供の健康確認」となっています。
特に、産後うつの予防には、産後の母親の育児不安がピークになる時期と言われている産後2週間のタイミングで母親の状態を確認し、早期にリスクを発見・対処することが重要とされています。そのため「産後2週間健診」では、産後間もない母親のメンタルケアに重点が置かれていて、厚生労働省も受診を推奨しています。
産後2週間健診が抱える課題とは
母親のメンタルケアにおける重要な役割を担っている産後2週間健診には、次に挙げるような課題があります。
課題1:自治体/医療機関により実施状況に差がある
出産に係る医療の提供体制は、医療機関や地域によって異なり、一律に同じではありません。厚生労働省は、妊娠週数などに応じて健診のタイミングや回数を推奨していますが、実際の実施状況は医療機関によって異なります。産後2週間健診をする医療機関もあれば、出産後は1ヶ月健診まで通院がない医療機関もあります。
前述した調査によると、産後2週間健診の実施状況は年々増えているものの、まだ8割程度となっています。
課題2:外出そのものの負担が大きい
生まれたばかりの赤ちゃんを連れて外へ出かけること自体が、産後には大きな負担です。産後の母体が回復するには1ヶ月以上かかると言われています。上の子がまだお留守番できない年齢であれば、連れていかなければなりません。加えて、冬場やコロナ禍では病院に行くこと自体が赤ちゃんや自身の感染リスクを高める可能性もあり、あまり外出したくないという方もが少なくないように思います。
課題3:地域や医療機関によって費用が異なる
健診費用の自己負担かそうでないかについても地域によって異なります。出産費用は公的補助の対象なので、自治体からクーポンが発行され一部の自己負担が免除されますが、産後2週間健診がクーポンの対象となる地域もあれば、対象外なので「受診したい場合は自費で受けてください」という地域もあります。
住んでいる地域や受診した医療機関によって、無償で受けられるかどうかに差が存在してしまっているのです(ちなみに今回取り組みを実施した埼玉県内でも、同じ県内でも市によって無償のところとそうではないところがありました。)。
オンライン産後2週間健診が目指すゴール
こういった課題を背景に、日本産婦人科医会・埼玉県産婦人科医会による「CLINICSによるオンライン産後2週間健診の取り組み」にメドレーは協力しました。
今回は、単にCLINICSを利用してオンラインで実施するというだけではなく、今後の産婦人科 × オンラインの分野に役立つ取り組みとするため、「臨床研究」というしっかりとした研究として実施したのが特徴です。
この研究は「2週間健診そのものが有用であること」と「オンラインでの2週間健診が有用であること」の2つを検証することを目的におこなわれました。
前述のとおり、現状では産後2週間健診を受けられる人と受けられない人が存在しており、受ける人の中にも無料で受けられる人と自分で費用を払って受ける人が混在しています。
「そもそも1ヶ月健診まで病院にいく機会がなかった」「自費なので受けなかった」という人の中に産後うつの兆候がある人がいた場合、見逃されてしまったり、対処が遅れてしまっている可能性があります。
とはいえ、なんでもオンラインで実施すればよいということではなく「オンラインでも問題ない」ということが確認されていないと、医師も産婦さんもお互いに安心して受けることはできません。
そのため、今回の研究では「産後うつの早期発見」にフォーカスし、「対面で健診を受けた人」と「オンラインで健診を受けた人」を比較して、同等の効果が得られるのかを検証しました。
オンライン健診は多くの利用者から満足度が高かった
この研究は、2021年11月から2022年3月末までに埼玉県内の8医療機関で分娩をした妊婦さん270名を対象としておこなわれ、オンラインで健診を受けた方のアンケートでは、受診した方の95%が満足しているという結果になりました。(結果の論文化について現在医会の中で検討されています)
また、具体的なよかった点として多く挙げられていたのは
外出しなくてよい(自宅など希望する場所で受けられる)
相手の顔が見える
待ち時間が少ない
といったものでした。コロナ禍では、病院に行ってもずっとマスク越しの会話となるため、画面越しであってもお互いの顔がみられることに安心するという方は多いようです。
日頃からオンライン診療をおこなっている医師からも「患者さんの表情や顔色がマスクなしでみられることはメリットだ」という声をよく聞きます。
オンラインをうまく活用して受診しやすい環境をつくる
冒頭に紹介した調査では、補助の対象となっている場合には2週間健診の実施率は95%とほとんどの医療機関が実施をしていますが、対象でない場合には60%の実施率にとどまることが報告されています。
今回の取り組みによって、オンライン診療を取り入れる医療機関が増えて「外出は大変だけどオンラインなら受けてみたい」という産婦さんが増えたり、(すぐには難しいかもしれませんが)今回の研究結果が全国的な公的補助の導入の後押しになって、全ての産婦さんが2週間健診を無償で受けることができるようになることにつながることを願っています。