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医療DXを進めるためのお金の話〜R6年度概算要求を読み解く〜


1.はじめに

こんにちは、メドレーの政策渉外部です。

これまで私たち政策渉外部は、行政や制度に関する記事をお届けしてきました。去る8月31日に各省庁の概算要求が公表されたことを踏まえ、今回のテーマは、「厚生労働省令和6年度概算要求から見る、医療DX工程表関連の予算について」です。
医療DXといえば、直近では、オンライン資格確認や電子処方箋への対応が記憶に新しい方もいらっしゃると思います。一方でそうした政策にどのくらいのお金が使われているのか、来年度は何にお金を使う予定なのか、分かりにくいところです。今回は医療DX工程表関連の政策について、具体的な直近の予算規模や傾向を見つつ厚労省が何に力を入れていくのか解説してみたいと思います。
本記事では、まず行政に馴染みのない方向けに「概算要求とは」を冒頭で解説し、その後に詳細を記載しましたので、本題から入りたい方は、「3. R6年度の厚労省概算要求における『医療DXの推進に関する工程表』 」関連予算とは」からお読みください。

2.そもそも概算要求とは

概算要求とは、「次年度に国が実施する政策の見積もり(予算)」として各省庁が財務省に提出するもので、毎年8月末に締め切られ、その内容が公表されます。

財務省は各省庁からの概算要求を精査し、財務省原案を策定、閣議決定がなされると、「国会審議」を経て、年度末に予算が成立します(下図参照)。この流れを経て、翌年の4月以降に政策が実施されますが、概算要求はあくまで財務省の査定前のものであり、国会で成立したものではないので確定事項ではありません。しかし、省庁として実行したい政策・予算が記載されているという点で、方向性を理解するには十分な内容といえます。

令和6年度の各省庁の概算要求は、財務省の「令和6年度一般会計概算要求・要望額​​」のページから確認することができます。
全体(国債費を除く)で86兆2,427億円のうち、厚労省は33兆7,275億円を要望していることがわかります。​​

出典:財務省ウェブサイト「令和6年度一般会計概算要求・要望額​​」

新たな方向性を確認するポイントは「新規予算と拡充予算」をチェックすることです。
多くの省庁の施策集において、それぞれの政策について【新規】(=次年度からの新政策)、【拡充】(=当年度比予算増の政策)などの記載があります。
厚労省であれば、例えば、「電子処方箋の有効活用のための環境整備事業」(上図:医薬・生活衛生局)に「新規」の記載があり、新たに次年度から実施したい予算であることがわかります。拡充については、例えば、「保健医療情報拡充システム開発事業」(下図:医政局)が昨年比+3.9億の4.6億円となっており、次年度に力を入れたい予算になります。
なお、現年度と次年度の予算規模を比較する際には、単純に「当初予算」同士を比較するのではなく、現年度に執行する補正予算も考慮に入れる必要があります

出典:「令和6年度予算概算要求の主要事項」厚生労働省

それでは本題の、工程表に関連する予算を見ていきます。ご興味の有る方は、工程表についてを解説した「「骨太の方針2023」が示す「医療DXの推進に関する工程表」を読み解く」(2023/7/6)もあわせてご覧ください。

3.R6年度の厚労省概算要求における「医療 DX の推進に関する工程表 」関連予算とは

部局ごとにある「医療 DX の推進に関する工程表 」関連予算

厚労省の概算要求を見るには、各部局ごとの内容を見ることになります。
下記から確認ができます。

「ホーム > 政策について > 予算および決算・税制の概要 > 予算 > 令和6年度厚生労働省所管概算要求関係 > 令和6年度各部局の概算要求

工程表に関連する予算を扱うのは、医政局、医薬・生活衛生局​​、老健局、保険局ですので、各局がそれぞれ出している概算要求についての資料を確認することになります。
保険局の「令和6年度予算概算要求(保険局関係)の主な事項」を例にあげると、2ページ目に「医療分野におけるDXの推進」という項目があり、それぞれ下記①~⑥の通り予算が記載されています。

出典:保険局「令和6年度予算概算要求(保険局関係)の主な事項」厚生労働省

工程表に関わる各局が「DX」関連として記載している内容をまとめると、下記の通りとなります。

※「令和6年度各部局の概算要求」(厚生労働省)をもとに、(株)メドレー作成

(注1)事項要求とは、政策(事業)の内容だけを記し、必要な予算額を示さずに要望すること。例えば、保険局の「『医療分野におけるDXの推進』計39.9億円+事項要求」は、「(概算要求に)記載されている39.9億円分の事業に加え、予算が確定していない政策(事業)も合わせて要求されている」ことを意味する。

(注2) デジタル庁一括計上とは、該当の予算をデジタル庁に一括計上し、各省に配分して執行する仕組み、を指す。なお、デジタル庁以外にも遠隔医療については総務省が概算要求しており、​​厚労省だけに限らず、省庁を横断して計上されることがある。

上記の通りそれぞれの部局の内容を見ていくと、「DX」の範囲は幅広いことがわかります。次の項では、その中から工程表に関連するものに絞って解説をしていきます。

R4年度2次補正〜R6年度概算要求分にみる、工程表関連の医療DX予算の規模と傾向

例えば医政局では、R6年度概算要求の中に医療DXの項目は8項目ありますが、工程表に関わってくるものは、そのうちの6つとなります。さらに、R6年度概算要求分に加えて直近のR5年度、R4年度2次補正予算の内容も見ることで、傾向が理解できます。
※テクニカルな話になりますが、R4年度2次補正予算の執行はR5年度にかかるため、今回はR4年度2次補正とR5年度予算の2つを見ています。
     
このような形で、各局(医政局、医薬・生活衛生局​​、老健局、保険局)のR4年度2次補正〜R6年度概算要求分を整理してまとめると、下記のようになります。

出典:医政局 「令和6年度 概算要求の概要」(厚生労働省)

「R4年度2次補正〜R6年度概算要求」に記載されている、工程表にかかる予算一覧」

令和6年度各部局の概算要求」をもとに、(株)メドレー作成

それでは、この表と、第4回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料で明らかになった「医療DXの推進に関する工程表を踏まえた今後の進め方」と「診療報酬改定DXの今後の進め方(案)」から読みとれる内容をまとめていきます。

  • R4年度2次補正とR5年度当初予算の特徴

    • 「R4二次補正」(計445.7億円)では、「(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速」の費用(344億円)と「(2)全国医療情報プラットフォームの構築」(101.7億)の2つに予算が投入されているが、約80%が「(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速」に配分されている。

      • 「(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速」の費用の内容は「オンライン資格確認の用途拡大等の推進」。オンライン資格確認導入に関する医療機関・薬局への財政支援や、訪問診療時等で利用するためのシステム改修を実施。

      • 「(2)全国医療情報プラットフォームの構築」は、半分以上を「電子処方箋の安全かつ正確な運用に向けた環境整備・保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)の普及」が占め、電子処方箋システムの改修やHPKIカードの普及拡大を実施。

    • 「​​R5年度当初予算」(計307.27億円)では、「(2)全国医療情報プラットフォームの構築​​との内容」と「(3)電子カルテ情報の標準化等 」に予算が投入されているが、約98%が「(2)全国医療情報プラットフォームの構築​​」に配分されている。

      • 「(2)全国医療情報プラットフォームの構築​​」の内容は主に「医療情報化支援基金による支援」であり、オンライン資格確認や電子処方箋の導入に関する医療機関・薬局への財政支援となっている​​。

      • 「(3)電子カルテ情報の標準化等」に紐付く予算が計上。「保健医療情報利活用推進関連事業」、「高度医療情報普及推進事業」の2つ​​。電子カルテで使用する医療用語等の標準マスターの整備・普及などを実施。

  • R6年度概算要求の特徴

    • R4二次補正・R5年度当初予算に比べると、事項要求をのぞく金額で48.6億円と規模感は抑えられている。令和6年度の概算要求でこのうち最も大きなパイを占めるのは「(2)全国医療情報プラットフォームの構築」。

    • 注目のポイントとしては、

      • 「(2)全国医療情報プラットフォームの構築」 で前年比で拡充となったのが、「介護関連データ利活用に係る基盤構築事業」と「保健医療情報拡充システム開発事業」。介護情報を共有する基盤整備に向けた要件定義等の実施や、救急時に医師が患者情報を閲覧できるシステム構築を実施。

      • 一方で、これまで予算の多くを占めていた「オンライン資格確認や電子処方箋」関連は、施策が一巡(システム構築や導入支援からランニングフェーズへ)したこともあり、減額されたと推察される。

      • (4)診療報酬改定DXが初めて計上。使途は5.1億円の「施設基準の届け出の電子化」と、事項要求の「共通算定モジュールの開発等」。

      • 一方、工程表にある「医療情報化支援基金の活用による電子カルテ情報の標準化を普及」については、言及がないため、現在基金に積まれている約150億円の中で対応していくと推測される。

      • また、標準型電子カルテに関する「α版の調達・システム開発」についても言及はなかった。デジタル庁の概算要求の概要資料では個別事業に言及がないため、詳細は明らかになっていない。

4.最後に

今回は、工程表にかかる予算を、R4年度2次補正〜R6年度概算要求​​を通じて確認しました。
R5年度までは、オンライン資格確認と電子処方箋関連に配分されていた予算が、両システムが運用フェーズに入ったこともあり、次は電子カルテ情報や介護情報に関する全国医療情報プラットフォームの拡充、診療報酬DXへと配分が移行し始めているように見受けられます。このように、予算規模の大小が全てではないですが、予算により政府の方向性が理解できると思います。
また、現在、経済対策についての議論が開始されているため、令和5年度補正予算についても注目していきたいと思います。
やや複雑かつマニアックな内容とはなりましたが、本記事で皆さんの医療DXに関する予算への疑問が、少しでも解決されたら幸いです。