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論文が読めないあなたのための論文の読み方〜「書き方シリーズ」番外編

はじめに

 AIを使いましょう。以上。と言ってしまうと身も蓋もないので、AIを使わない論文の読み方を解説する。もちろんAIを使用しても、本noteで解説した方法は有効であるので、本方法に従ってAIを活用し、効率をどんどん上げるとよい。
 例のごとく、生命科学領域で、どんな研究室に行っても成り上がっていける「優秀」な方むけではなく、研究に興味はあるが研究者としてやっていけるかどうかは自分でも自信がない・決めていない「普通」の方むけへの記事となっている。

 論文紹介で、短いからという理由でNatureやScienceの論文を選ぶ研究初心者は多い。しかし、研究初心者にとってNature・Scienceの論文は鬼門である。なぜなら、これらの論文はページ制限のため情報量を極限まで圧縮しているので、十分な事前知識がないと本文だけでは理解できないからだ。短いので楽そうに見えるが、結局は背景知識を得るために、その10倍くらいの論文を読む羽目になる。

下準備

適切な辞書や教科書を使う

 生物学辞典や医学辞典など、専門用語がキチンと説明されている辞書・辞典を使用する。科学用語は特殊な語句・言い回しが多いので、一般の辞書を使っていると正しい意味を見つけるのに手間かかる。また、生命科学の教科書も辞書代わりに使える。英語の索引が充実しているものを選ぶこと。実験医学 onlineの実験医学キーワード集もオススメ。AIを使用する際は、SciSpaceAvidnoteなど、科学論文特化型AIを使用する。

https://typeset.io

実験手法の教科書を参照する

 研究初心者が躓きがちな点は、図で用いられている手技・手法を理解できていないことである。何をやっているのかわからなければ、何を意味するのかわかるはずがない。材料と方法に手技・手法の名前が書いてあるはずなので、以下のような教科書を適宜読んで理解する。

読解編

 よくある間違いが、論文の頭から、つまり要旨と序論から読み始めることである。論文を読み慣れていると最初から読み流しても内容が把握できるようになるが、研究初心者には厳禁である。知識の絶対量が足りないことと、ほぼ全てが新しい情報となるので、記憶量のキャパを超えてしまうからだ。研究初心者には、以下の順番をお勧めする。

タイトルを理解する

 よいタイトルは、論文の内容を端的に表している。最初にタイトルに書いてあるすべての言葉を完全に理解しよう。そして、それを心に留めながら論文を読んでいく。

図を解読する

 まず、図のレジェンド(図の説明)を読む。通常、図の説明のタイトルが結論を示しているはずである。今どきの論文は、一つの図が複数のパネルで構成されている。各パネルのタイトルは何を調べたかの説明のはずだ。この時点では、各パネルの結論は完全に理解できなくとも良い。しかし、「何を」「どのような方法で」「測定または解析した」か、正しく理解する必要がある。
 例えば、免疫染色像であれば、1次抗体は何か、各色はどのタンパク質か、どのような顕微鏡を使用して写真を取ったのか、どの組織・領域・細胞か、などである。定量結果であれば、縦軸の単位は何か、標準偏差・標準誤差か、相対値か絶対値か、どのような機器を使用して測定したのか、どのように定量化(標準化)したのか、サンプル数はいくつか、などである。

材料と方法を理解する

 図を解読し、概要を理解したうえで、各図で用いられている材料と方法について詳細を確認する。

  • 細胞の種類や動物・植物の系統、ステージ、性別

  • バッファーなどの試薬の組成

  • サンプルの調製方法の詳細

  • 実験・解析方法の詳細

  • 統計処理の方法

結果を読む

 図を参照しながら、結果を読んでいく。その際、事実の記述と意見(解釈)の記述の区別に注意しながら読む。例えば、意見(解釈)の記述は色マーカーで線を引くとよい。意見の記述には、たいてい "suggest" とか "indicate" とかの動詞が使用されているはずである。ただし、"show" という動詞には注意する。"show"は通常「表す」という事実の記述であるが、「証明する」や「示す」という意見や主張の記述にも使用される場合がある。
 紙に印刷する場合は2部印刷して、片方は書き込み用、もう片方は図の参照用とする。モニター上でPDFで読むことは、あまりおすすめしないが、Adobe Acrobatは「New window」という同じファイルを別のウインドウで表示するメニューがあるので、それを利用する。もしくはファイルをコピーし、別々のファイルとしてひらく。図と文章を同時に参照できるようにするためである。

論文のストーリーを理解する

 結果を読み終えた段階で、何が書かれているかについては把握できたはずだ。つぎに、論文のストーリーを解読する必要がある。結果の提示順、図の並び順には、なんらかの理由があるはずだ。なぜ、そのような順番なのか。最初の図と最後の図は、論理的に矛盾なく繋がっているかを確認する。

議論を読む

 議論では、該当論文における結果と先行研究の結果を比較しているはずだ。図表の番号と参考文献との対応を理解しながら読む。図表番号がないパラグラフにおいても、必ず結果の中に対応する部分があるはずである。もし対応する部分が存在しないのであれば、分量を稼ぐために直接関係ない記述を入れたか、査読者からの指摘で、そのパラグラフを追加せざるを得なかったかである。

序論を読む

 序論では、全体的な研究の歴史や、研究全体の中での論文の立ち位置が記述されているはずだ。この段階では、該当論文の結果とその意味について、結果と議論のセクションで把握できているはずである。研究の流れを意識しながら、文章展開が結果から読み解いた論文のストーリーと合致しているかを意識しながら読む。たまに、序論のストーリー展開と、結果から導き出せるストーリーが合致しない、ねじれた構成の論文もあるので注意する。

全体を流して、もう一度精読する

 最後に、全体を通して頭から終わりまで読む。その際に、すべての参考文献まで読むことが重要である。このことで、各論文が一連の研究の流れの中でどこに位置するのかが理解できる。それとともに、上述のステップを必然的に繰り返すことで、論文読解の経験値も蓄積していく。これは、論文読解初心者から抜け出すために必須な過程である。

付録:査読履歴を読む

 最近の論文は、査読履歴がOnline materials として Webページに掲載されている場合が多い。査読者がどこを指摘したのか。それに対してどのように対応したのかを読むと、おもしろい。

おわりに

 上述の一連のステップに従って5本も論文を精読すれば、論文読解初心者から抜け出せる。論文1本あたり約40本の参考文献があるとして、関連領域について200本近く読むことになるだろう。おわりに、論文読解に研究支援AIを使用することの危険性についても述べておきたい。現在、様々な研究支援AIが使用できる。「研究支援AIは学力を2極化する」でも解説したが、現代においてAIは使用せざるを得ない。重要な点は、単に「楽をするため」にAIを使用するのではなく、「効率を上げる」ために使用することだ。これは、AIの解説を日本語で読んだ後に、本文の英語もしっかり読み込むことを意味する。おそらく、研究初心者はAIの日本語の解説だけで全てを終わらせる誘惑に駆られるだろう。しかし、それはAIの奴隷となる堕落への第一歩であることを認識するべきである。

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