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研究支援AIは学力を2極化する

 筆者は、ほぼ毎日AIを使っています。主なものは、ChatGTPとGrammarlyです。課金もしています。加えて、文章生成AIは、Gemini、Claude、Notion AI、Copilot、検索はFelo、Genspark、Perplexity、研究関係として、SciSpaceやConsensusなどを使用しています。その他、触ったことのあるAIのリストは「文章生成AIサイト・研究支援AIサイトまとめ」note記事にまとめています。

 AIの出現によって研究活動は格段に便利になりました。実験キットによって、実験の効率化が進んだのと同じですね。このことは「実験キットの功罪」のnoteでも書きました。

 例として、AIの出現以前と以後で、筆者が行っている論文検索から始まる情報収集の仕方を比べてみましょう。

AI以前

  1. PubMedでざっくりと「キーワードサーチ

  2. 最新のレビューを2〜3本読んで、さらにキーワードを追加したり、組み合わせを変えたりして、「本格的に検索

  3. 重要論文を最近のものから2〜3本読みつつ、「類似論文(Similar articles)と被引用論文(Cited by)を検索

  4. 最重要論文を2〜3本同定したら、「引用論文をすべて読む

AI以後

  1. SciSpace、Consensus、Elicit、Copilot、Felo、Perplexityで、「知りたい情報について質問する

  2. 示唆された論文・引用情報を吟味し、深堀りしたい情報について、「AIが提案するプロンプトを選ぶ&出力内容を確認

  3. AIが出力した情報が適切かどうか、「原著論文を読んで確認する

  4. 必要に応じて、AI前の方法も併用する

 情報収集は適切な良い論文を見つけるまでが一番大変です。一度、道標となる論文を同定できた後は、その論文を中心に文献を検索して、知識を広げていきます。AI以前は、検索の仕方に経験とセンスが必要でした。学生が「論文が見つけられませんでした」と言ってきても、筆者が検索すると適切な論文が見つかることが、よくありました。筆者の専門は生命科学領域なので、「GoogleとBaidu (百度)は使用せず、PubMedとGoogle Scholarを使用する」よう指導していました。一般的な検索エンジンを使用すると、ウェブ上にしかない裏が取れない怪しげな情報も引っかかってくるからです。

 また、論文の読解についても、これまでは、学生がわからなかった箇所を質問して、指導者がそれについて説明するという形で指導されてきたと思います。しかしAIを使用すると、PDFファイルをAIサイトにアップロードすれば、Chat相手に同じことが可能です。AIの説明や回答には、読み取りがまだ少し甘いところがありますし、たまにピントのズレた出力をすることもありますが、十分及第点です。いずれ精度も上がるでしょう。なによりも、AIは回答疲れしませんし、自分の都合の良い時に使うことができます。24時間の個人指導を受けているようなものです。

 論文作成についても、研究支援AIで書きたいことをキーワードでいくつか指定すれば、IntroductionからDisucussionまで、アウトラインを作成し、文章も作成してくれます。パラグラフの数を指定することも可能です。ユーザーはAIが出力する文章を受け入れるか書き直すかを指示するだけで、論文を最後まで書き上げることができます。筆者は、さすがに最初から最後までAIに頼るようなことはありませんが、誤字脱字や文法チェック、わかりにくい箇所の検出と修正には、日常的にAIを使用しています。AIを使用するようになって、英文校閲には出さなくなりました。体感的には、情報収集や論文作成の効率が3〜5倍に上がりました。正直言って、もうAI以前の方法には戻れません

 今どきのデジタルネイティブな学生は、息をするように研究支援AIを使用するようになると思います。しかし、ここに新しい問題が生じます。あまりにも便利すぎるのです。

 自己研鑽を「効率よく」積みたい学生は、AIを利用して爆発的に能力を高めることができるようになります。論文検索ではAIが示唆した重要な論文から優先的に読み、論文読解ではAIの解説で内容を把握してから原文を理解し、論文作成ではAIで作成したアウトラインをもとに自分で英文を書き、AIに推敲してもらって文章の質を上げていくでしょう。一方、ただただ楽をしたいだけの学生は、AIが示唆した論文しか読まず、AIの日本語解説を鵜呑みにして英語原文を読まず、AIが作成した文章を無批判に受け入れ、自分の知識を積み上げることはないでしょう。「できる」学生は、いずれはAIから自立し、AIを便利な道具として使いこなすようになります。しかし、「できない」学生は、AIがないと何もできないAIの奴隷となる可能性が高いのではないでしょうか。結果として、研究支援AIを使用することにより、「できる」学生と「できない」学生の学力格差が顕著になるのです。

 大学院の研究教育指導については、系統的に進めるべきだと「大学院修士・博士課程は自動車学校と同じであるべきだ」note記事で書きました。今後は、研究支援AIの使用についても同様に、系統的な指導が必要になると思います。もっとも、指導者側の教育からはじめる必要があるでしょうが。


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