パラグラフが書けないあなたのためのパラグラフの書き方

2024年9月15日 16:16

はじめに

　「論文が書けないあなたのための論文の書き方」のnoteでは、パラグラフライティングについての詳細は、参考文献に丸投げしていた。一部、論理的なパラグラフを「機械的に」書くための方法論の概要を書いたが、このnoteでは、パラグラフライティングの方法論について、生命科学系の論文を例に、より具体的に説明する。この、論理的なパラグラフを「機械的に」書くための方法論の利点は、研究内容についてのはっきりとしたストーリーがなくても論理的なパラグラフが書ける点である。欠点は、はっきりとしたストーリーがなくてもパラグラフが書けてしまうので予定したストーリーに落ち着かないかもしれない点である。しかし、別noteで議論するが、学生や初学者にとって、ストーリー先行型（または仮説検証型）の研究の進め方（論文の書き方）は非常に危険なので、データ駆動型（やってみて考える）の研究の進め方、つまり、実験結果から論文のストーリーを構築する本方法論の利点は大きいと考えている。以下、転写因子タンパク質PAX6の結晶構造を解いたという架空の実験結果を例に進める。

　なお、方法論が異なるため、イントロダクション編とディスカッション編に分けて説明する。また、パラグラフのつなげ方については、別note（予定）で説明する。

トピックセンテンスの作り方：Introduction編

　Introductionにおけるトピックセンテンスの作り方には、次の２つの方法がある。

定義からはじめる
宣言からはじめる

定義からはじめるトピックセンテンス

　A（トピックとなる名詞） is B（トピックを限定する名詞）+ C（Bについての説明）の形をとる。CはBを具体的に説明する句、もしくは、Bに価値を付加する情報がつづく。

例）PAX6 protein is a transcription factor containing the paired box and homeobox domains.
例）Pax6 is a gene belonging to the pax gene family.

　これらのトピックセンテンスでは、A = B という形でトピックAを定義し、さらにBに対してCという情報を追加している。主に、情報の提供に重点がおかれている。

宣言からはじめるトピックセンテンス

　A（トピックとなる名詞）is B（価値を示す形容詞）+ C（Bについての付加情報）、または、A（トピックとなる名詞）+ B（動詞）+ C（Bの目的語）という形をとる。

例）Pax 6 is essential for brain development during early embryogenesis.
例）Pax 6 plays a vital role in eye formation in vertebrates and invertebrates.

　これらのトピックセンテンスでは、トピックAに対する価値判断に重点がおかれている。

コンクルージョンセンテンスの作り方：Introduction編

　トピックセンテンスに強く関連したコンクルージョンセンテンスを作る。この際、キーワードとして必ずトピックセンテンス中の語を用いる。

トピックセンテンスの意義・重要性を述べる

例）Topic sentence: Pax6 is a gene belonging to the pax gene family.
Conclusion sentence: Therefore, Pax6 is the critical regulator gene in various organs.

トピックセンテンスの反証・矛盾を述べる

例）Topic sentence: Pax6 plays a vital role in eye formation in vertebrates and invertebrates.
Conclusion sentence: Recent reports, however, suggested that Pax6 also has critical roles in the maintenance of beta cells in islets of Langerhans.

トピックが重要であるにも関わらず、情報がない・少ないことを述べる

例）Topic sentence: PAX6 protein is a transcription factor containing the paired box and homeobox domains.
Conclusion sentence: Despite its significance as the transcription factor regulating various genes, the 3D structure of PAX6 remains to be determined.

サポーティングセンテンスの作り方：Introduction編

　トピックについての引用文献をともなった複数の具体例を、トピックセンテンスをコンクルージョンセンテンスの間に、各１センテンスで挿入する。２〜４センテンスになるはずである。ここでの注意点は、ABT構造（And, But, Therefore）または、AAT構造（And, And, Therefore）を意識し、似た情報は近くに配置することである。

　よくある不適切なAAT構造として、情報が交互に繰り返されるパターンがある。

悪い例）Xの記述。Yの記述。X'の記述。Y'の記述。

　似た情報は近くに配置し、一つの塊を作るようにする。

良い例）一連のXの記述（XとX'）。一連のYの記述（YとY'）。

　　よくある不適切なABT構造として、１パラグラフ内に逆説の接続詞が２回以上でてくるパターンがある。

悪い例）Xの記述。But Yの記述。However, Zの記述。

　ZはYの反対ということは、ZはXと同じなので近くに配置する。

良い例）XとZの記述。But Yの記述。

トピックセンテンスの作り方：Discussion編

　Disucussionでは、あなたの実験結果と過去の報告を比較する必要がある。現代において、先行研究がまったくない科学研究などありえない。完全に同じ研究は無いにしても、似た研究対象、似た実験デザイン、似た研究材料の報告はあるはずである。よって、あなたの実験結果を表す文章には図表の番号が、比較する先行研究の文章には引用文献が示されていなければならない。ただし、コンクルージョンセンテンスとしての意見の記述には、図表番号も引用文献も示されない場合がある。Discussionにおけるトピックセンテンスの作り方には、次の２つの方法がある。

実験結果の簡潔なまとめからはじめる
先行研究の要約からはじめる

実験結果の簡潔なまとめからはじめるトピックセンテンス

例）Our results showed a specific interaction between side chains of AA293-297 and a major groove of double-strand DNA (Fig. X).

先行研究の要約からはじめるトピックセンテンス

例）Previous studies reported the partial PAX6 structures of paired-box or homeobox domains [Ref A, Ref B].

サポーティングセンテンスとコンクルージョンセンテンスの作り方：Discussion編

実験結果と先行研究は、必ずトピックセンテンスとサポーティングセンテンスのペアとなる。トピックセンテンスを実験結果の簡潔なまとめからはじめた場合は、先行研究の要約と説明がつづき、先行研究の要約からはじめた場合は、先行研究の具体的な説明と実験結果の簡潔なまとめがつづく。コンクルージョンセンテンスでは、先行研究との相違点、先行研究と矛盾しない／する、もしくは、先行研究から支持される／されない、こと述べ、結果の意義、もしくは、相違点・矛盾点の可能な説明を記述する。以下のトピックセンテンスとサポーティングセンテンスのペアの場合のコンクルージョンセンテンスの例を挙げる。

Topic sentence: Our results showed a specific interaction between side chains of AA293-297 and a major groove of double-strand DNA (Fig. X).
Supporting sentence: Previous studies reported the partial PAX6 structures of paired-box or homeobox domains [Ref A, Ref B]. （以下、引用文献AおよびBの簡潔な説明）

先行研究と矛盾しない場合

例）Conclusion sentence: Our result is consistent with these studies.　This result suggests a significance of AA293-297 in a robust protein-DNA complex.

先行研究と矛盾する場合

例）Conclusion sentence: Our result showed a discrepancy in the interaction between AA 295 and DNA, possibly caused by the difference in DNA sequence from the previous studies.

落穂拾い的なこと

　学生や初学者が陥りがちな罠として、パラグラフライティングにおける構造を意識せずに（もしくは誤解して）、構造が乱れた文章を書くことである。上述の「パラグラフが書けないあなたのためのパラグラフの書き方」は、一つ一つは単純なルールの積み重ねである。論文が書けないあなたのために必要なことは、原稿を推敲する際に、これらのルールに沿っているか、徹底的に確認することである。この「パラグラフが書けないあなたのためのパラグラフの書き方」によって、「機械的」に論理的なパラグラフを書くことができ、指導教官や共著者に原稿を確認してもらう際に、論理展開の破綻に起因する放置プレイや速攻差し戻しをくらう確率が低くなれば幸いである。