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脊髄小脳変性症と診断されて3年。VRリハビリ入院をして、「いろんなことをあきらめなくていいんだ」と思えるようになった

「昨日は杖なしでほぼふらつきなく歩けて、何年ぶりかの“普通に歩ける”感覚を思い出して、懐かしい友達に再会したみたいで嬉しくて、用もないのに病棟をぐるぐる歩き回っちゃいました」。

ご自身のブログにそう綴ってくださったのは、脊髄小脳変性症患者のよつばさん。岩砂病院・岩砂マタニティへVRリハビリ入院する度、リハビリの様子やお身体の変化を細かく発信してくださっています。岩砂病院・岩砂マタニティには、よつばさんのブログを読んだ患者さんからのお問い合わせがたくさん届いているとのこと。

2025年1月、3回目のVRリハビリ入院中のよつばさんと、担当セラピストの安藤のぞみ先生に会いに行きました。

左によつばさん、右に安藤先生。よつばさんの顔にはモザイクをかけています

治療法のない難病。VRリハビリを知って、「これしかない」と思った

 ――まずはよつばさんの病歴について教えてください。

よつばさん:数年前からめまいに悩まされ、最初は原因がわからず色々な病院にかかりました。そのなかで小脳橋角部に小さな髄膜腫が見つかって手術をしたのですが、めまいは治らなくて。どんどんひどくなっていったので脳神経内科で検査入院をしたところ、脊髄小脳変性症と判明しました。2021年のことです。 

――めまいはどの程度あったのですか?

よつばさん:頭の中がずっとふわふわしていて、歩くと酩酊歩行になってしまい、危ないので屋外では両手に杖を持っていました。家事などは行なっていましたが、疲れやすさも感じていましたね。

――診断後はリハビリを受けていたのですか?

よつばさん:デイケアで週2回、運動中心のリハビリを行なっていました。でも、体力や筋力を維持するためのリハビリだったので、めまいは特に変わらず、でしたね。リハビリは続けながらも、「めまいそのものを改善できるものはないのかな」とずっと思っていました。

ーーVRリハビリを知ったのは何がきっかけですか?

よつばさん:髄膜腫を経験されて私と同じ失調症状やふらつきに悩んでいる方が、ブログに「VRリハビリを体験した」と綴っていたんです。「VRリハビリってなんだろう?」と思って調べるといろんな症例がヒットして、「もうこれしかない、絶対やりたい」と思いました。

ただ、最初にお問い合わせした近隣の病院には、「確定診断から日が経っていて、すでに介護保険も使っているため医療保険が使えない」と断られてしまって。そのときは本当にがっくりしましたが、あきらめきれずmediVR社に直接電話したところ、隣県にある岩砂病院をご紹介いただいたんです。入院なら受け入れられるとおっしゃっていただき、2024年5月に入院しました。

mediVRカグラの画面
mediVRカグラを使ったリハビリでは、VR空間上に現れる的に向かい、左右交互に手を伸ばす動作を繰り返します

――ご自身の症状に効果があるかわからないなか、最初から入院というのはハードルが高くなかったですか?

よつばさん:でも、遠方から何度も通うのも大変ですから。それに、悩んでいても何も進みません。「やってみるしかない」という気持ちでした。また、遺伝性の病気なので、将来自分の子にも同じ症状が出てしまう可能性がないとは限りません。そうなってしまったときに、「こういうリハビリがあって、私の場合はこうだったよ」と手渡せるものをひとつでも多くつくりたいと思ったんです。

安藤先生:私たちも脊髄小脳変性症の患者さんを受け入れるのは初めてだったので、「遠方から来てもらって効果を出せなかったらどうしよう」という不安もあったのですが、別の病気の方がVRリハビリによってふらつきが改善したので、少しでも貢献できればと思いました。

数年ぶりに、めまいを感じずに歩けた

――VRリハビリを行なった感想を教えてください。

よつばさん:実は、最初は半信半疑というか、8割ほど疑っていたんです。「こんなゲームみたいなもので本当に何か変わるのかな」って。でも、20分間のリハビリをした後にリハ室を歩いてみたら、もう全然違ったんです。ふらつきが減って、普通に歩けるようになって……めまいを感じずに歩ける状態なんて数年ぶりでした。歩いているときも、座っているときも、横になっているときも、常に頭が回っているような状態があたりまえだったのに、それが消えていたんです。

進行性の病気だし、この先悪くなることはあっても良くなることはないんだろうなと半ばあきらめていたから、嘘みたいで、夢のようで。嬉しくて嬉しくて、無駄に院内を歩き回って、看護師さんに「えっよつばさん!? 普通に歩いてる!」と二度見されました(笑)。

安藤先生:すぐに変化が出たので私たちも本当に驚きましたし、「これはいけるぞ」と思いました。8日目にはもう杖がいらない状態になりましたね。2週間の退院が終わる頃にはフリーハンドで階段も登り降りされるようになって。毎日「え、これもできるようになったの?」「これも?」と衝撃を受けてばかりでした。

よつばさん:階段ではいつも片方に杖をついて、片方で手すりを持って、ほとんど腕の力で上がっていたんです。それが杖も手すりもなしで問題なく上がれるようになったので、自分でも信じられない気持ちでした。

治療経過を表したスライド(岩砂病院作)
よつばさんの治療経過。入院中は1日2回VRリハビリを行なったそう

――めまいがあると、VR酔いをするのではという不安はありませんでしたか?

よつばさん:それが、VRゴーグルをつけると、横を向いたり上を向いたりしても全然めまいが起きないんです。先生たちも心配して「大丈夫ですか」と何度も確認してくれたけど、全然酔わないしめまいも起きないので、本当に不思議でした。

安藤先生:おそらく、VRゴーグルをかぶらない状態で同じ動きをしたらふらっとするのではないでしょうか。没入しているからなのかめまいが起きず、リハビリ動作に集中できたおかげで効果が現れたのかなと思います。

――岩砂病院では、2週間の入院前後にBBSや10m歩行、TUGを計測されていますよね。その数値はいかがでしたか?

 安藤先生:すべての項目が大きく改善しました。とくにTUGは独歩のタイムは14.4秒から9.3秒と大きく短縮しましたね。杖あり歩行よりも杖なし歩行の方が速くなってびっくりしました。

――めまいやふらつき以外に変化はありましたか?

よつばさん:2023年の11月に肩腱板断裂の手術をして、それから痛くて肩が上がらなかったんです。週に2回ほど電気治療やマッサージなどのリハビリを受けていましたが、「わずかに上がるようになったかな?」と感じる程度でした。そちらはとくに期待していなかったのですが、先生に「VRリハビリは肩にも効果があるみたいだよ」と言われて、入院が終わる頃に試してみたんです。そしたらすっと上がるようになっちゃって。退院後、もともと通っていた病院の先生に肩の状態を見せに行ったら「リハビリいらないじゃん!」とすごく驚かれました。 

最終評価を表したスライド(岩砂病院作)

「3歩進んで2歩下がる」を繰り返して、病気の進行を遅らせられたら

――退院後はいかがでしたか?

よつばさん:退院の日は雨だったので、最初に「杖がないと傘がさせるんだ!」と思いました。それまで両手に杖を持っていたので、雨の日は外出できなかったんです。また、写真を撮るのも好きなのですが、杖がないとさっと撮れるんですよね。いろんなことが楽にできて、「そっか、良くなるってこういうことだ」と嬉しくなって。家族旅行にも行けました。

 ――リハビリの効果は継続しましたか?

 よつばさん:最初の1ヶ月はだいぶ元気でしたが、ふらつきはだんだん戻ってしまいました。週に1〜2回でもVRリハビリを続けられたら違うのかもしれないけど、通える範囲にはmediVRカグラの導入施設で通院を受け入れてくれるところがないんです。

――一度良くなった分、症状が戻ってしまうとお辛いのではないでしょうか。

 よつばさん:でも、4か月後にまた入院することを決めていたから、「VRリハビリをすればまた良くなる」と思って。それがお守りになっていたから、そこまで落ち込むことはありませんでした。 

よつばさんの横顔。胸にはクローバーのブローチが光る

――2回目の入院はいかがでしたか?

よつばさん:先生たちに再会できて嬉しかったです。身体の方は、「最初に入院したときと同じくらいに戻っちゃったかな」と思っていたんですが、入院初日に計測したら数値は良かったし、VRリハビリをするとまたすぐに歩けるようになって安心しました。

安藤先生:私たちもよつばさんからお身体の状態を聞いて「やっぱり4か月空くと厳しいのかな」と思ったのですが、BBSやTUGの数値は1度目の入院時と退院時のちょうど中間くらいでした。だから、入院中に上がって退院後に少し下がって、また入院して上がって、を繰り返せば、少しずつでも良くなるんじゃないかと希望を抱きました。

よつばさん:3歩進んで2歩下がる、ですね。少しでも進行を遅らせることができたらありがたいです。ちなみに、肩は1回目の入院で前に上がるようになりましたが、2回目の入院では横にも上がるようになって、こっちは効果がずっと続いています。

――4か月ごとに2週間の入院を行い、現在3回目の入院中ということですよね。今回の入院でめざしていることはありますか?

よつばさん:方向転換のときにすこしふらつくので、それを治せたらいいなと思っています。退院後はきっとまた元気になれるから、推しのコンサートのチケットを買いました。3月、4月と遠征する予定で楽しみにしています。

笑顔で向かい合う安藤先生とよつばさん

VRリハビリを知って、「いろんなことをあきらめなくていいんだ」と思えた

――ブログでVRリハビリ入院のレポートを書いてくださった背景を教えてください。

よつばさん:1回目のリハビリですごい変化が出たから、「これはブログに書かなきゃ!」と思ったんです。自分の記録用という意味合いもあったけど、やっぱり同じ病気や障害に悩む人にお知らせしたくて。私も知人がブログを紹介してくれたおかげでVRリハビリを知ることができたし、治療の選択肢として伝えたいと思いました。知らなければ選びようがないから。

――発信してみていかがでしたか?

よつばさん:たくさんの方がコメントをくださいました。最初は病院名を書いていなかったから、「どこの病院ですか?」という問い合わせもたくさん来たんですよ。だから、これは書いたほうがいいのかなと思って、途中から病院名も出すことにしました。

安藤先生:1回目の入院の最後の頃によつばさんが「実はブログで発信しているんです」と教えてくださって、すぐに拝見しました。VRリハビリのことだけじゃなくて、私たちセラピストについても書いてくださっていて、本当に嬉しかったです。自分たちの言動の振り返りにもなりました。

よつばさん:みなさん本当に明るくて褒め上手で、チームの雰囲気も良くて、ちょっと気持ちが落ち込むことがあっても、先生たちと話していると元気になれるんです。何かできるようになると小さなことでも「すごい!」と一緒になって喜んでくださるし、身体の変化や症状に合わせて「じゃあ次はこうしよう」と一所懸命考えてくださるから、すごく心強い。

VRリハビリ自体ももちろんすごいけど、岩砂病院の先生たちだったから私にはよかったんじゃないかな。退院後は、また入院してみなさんに会うのが待ち遠しかったくらい(笑)。もし今後近くでVRリハビリができるようになっても、入院は岩砂病院でするつもりです。

安藤先生:ありがとうございます。私たちセラピストは普段、患者さんが退院した後の暮らしぶりを知る機会はほとんどありません。でも、よつばさんがブログを教えてくださっていたから、「コンサートを楽しめたようでよかった」「すごい、こんなところにも行ったんだ」と喜んだり、「症状が戻っているみたいだな、次の入院でまた良くしてあげられるといいな」と心配したり、様子がわかって新鮮でした。

また、よつばさんのブログを読んだ方からたくさんのお問い合わせをいただいて、本当にありがたいなと思いました。一方で、「期待していただいている分、もっと技術を高めないと」とプレッシャーも感じました。現状は、VRリハビリをされた方全員によつばさんほどの変化を出せているわけではないんです。だから、mediVR社のサポートを受けたり、YouTubeの学習動画を見たりして自己研磨の機会を増やして、患者さんを見る視点を学ばせていただいています。よつばさんのように目に見える変化が出て、行きたいところに行ける、やりたかったことに挑戦できる方を少しでも増やしたいと思っています。

よつばさん:最初に脊髄小脳変性症と診断されたときは、何を見ても「治らない病気で症状はどんどん進行していく」「5年で車いす、8年で寝たきりになる」と書かれていて絶望しました。ずっと休みなく働いてきて、「仕事を引退したらあれもやりたい、これもやりたい」と夢想していたけど、何もできずに終わるのかなって。暗くなるとふらふらするからコンサートも厳しいし、旅行もたくさん歩くようなところには行けない。いろんなことをあきらめなくちゃいけないと思うと落ち込んでしまって、精神科の病院にも通いました。

でも、VRリハビリに出合って、「あきらめなくていいんだ」と希望を持てるようになったんです。入院したら元気になれるから、「あれもやろう、これもやろう」と意欲が湧いてきました。先のことはわからないけど、いまは悩んだり落ち込んだりしている時間がもったいない、動けるうちにやりたいことをやろう、と思っています。VRリハビリ入院は、私にとってお守りのようになってくれています。

椅子に座ってVRゴーグルをかぶり、コントローラーを持った左腕を前方に突き出すよつばさんと、それを後ろから支える安藤先生
 

心身の変化に、自分でびっくりしている

ここで、インタビューに同席してくださったみいたんさんにもお話を伺いました。みいたんさんは進行性核上性麻痺の患者さんで、よつばさんと同じようにブログでVRリハビリ入院レポートを発信してくださっています。よつばさんとはブログ上で交流し、前回の入院時に初めて顔を合わせ、意気投合したとのこと。今回も入院時期が重なり、お互いに再会を喜んだそうです。

――みいたんさんもブログでVRリハビリを知ったのですよね。

みいたんさん:進行性核上性麻痺の情報を調べるなかでVRリハビリを知りました。でも、私の住んでいるところの近くには自費リハビリしかなくて、この先ずっと続けるのは難しいなと感じる金額でした。そうしたなかでよつばさんが岩砂病院の紹介をされていて、保険適用と書いてくださって。岐阜は遠いけど、行く価値があると思いました。ちょうどよつばさんの2回目の入院と時期が重なったのでご挨拶して、それから仲良くしていただいています。

よつばさん:初めてお会いしたときから話が弾んで止まらなかったですね。みいたんさんも初日からすばらしい効果があったと聞いて、私もすごく嬉しかったです。

みいたんさん:私はVRリハビリをするまで、本当にメンタルが落ち込んでいたんです。周囲の人は「きっと生きているうちに新しい治療法が出てくるよ」と励ましてくれたけど、とても信じられなくて。でも、VRリハビリの症例動画を見て衝撃を受けて、実際に体験して変化を感じられて、気持ちがぐっと上がりました。それまでブログなんて書いたこともなかったし、コメントすらしたことがなかったけど、ついに自分のブログを立ち上げて発信するようになりました。

安藤先生:本当に、見違えるほどお顔が明るくなりましたよね。

みいたんさん:退院後、マンションの交流会でシャンソンの弾き語りをしました。シャンソンはずっと続けてきたけど、この病気になってからは歌う気持ちにも聴く気持ちにもなれなれず、教室もお休みしていたんです。それなのに、お誘いを受けて不思議と「やってみようかな」という気持ちになりました。自分の心身の変化に、自分でびっくりしています。

望む人みんながVRリハビリを受けられるように

 ーーよつばさんもみいたんさんも、mediVRのオンラインインタビュー企画「カグフェッショナル岩砂病院編」を視聴してくださったそうですね。

よつばさん:医療従事者向けの企画なので対象外かと思いましたが、私たちの症例も紹介されると聞いて、許可をいただき視聴させていただきました。あのなかで、原先生が「希少難病の保険収載を取りに行く」とおっしゃってださったでしょう。私、驚いて泣いてしまいました。

ブログにコメントをくださる方のなかには、「通える範囲にmediVRカグラの導入施設がない」「自費リハビリしかなくて、金銭的に難しい」とおっしゃる方も多いんです。治る病気なら多少費用が高くてもがんばろうと思えるけど、進行性の病気の場合はこの先ずっと通い続ける前提で計算しないといけない。病気で仕事を辞めた人も多いから、1回1万円以上かかるとなると、続けられる人は限られます。「保険適用でVRリハビリができる人がうらやましい」というコメントをたくさんいただいて、「いつかどこでも誰でもVRリハビリができるようになったらいいな」と思っていました。

だから、原先生が「患者さんのブログを読んで保険収載を取ろうと決めた」と言ってくださって、私のようないち患者のブログに目を通してくれていたことにも驚いたし、「望む人みんながVRリハビリを受けられる日がちょっと近づいたのかな、そのきっかけになれたのかな」と思うと嬉しくて、嬉しすぎて涙が溢れてしまいました。

安藤先生:mediVR社のみなさんは、患者さん一人ひとりの声にちゃんと向き合おうとしていて、こんな会社ほかにないんじゃないかなと思います。私たちも、VRリハビリでもっと患者さんに貢献できるようがんばります。

――よつばさんやみいたんさんのブログを読んで、私たちmediVRのスタッフも大いに勇気づけられました。本当にありがとうございました。よつばさん、最後にご自身と同じように難病と闘っている人に向けて、メッセージをお願いします。

よつばさん:治療法のない難病と診断されて、昔の私と同じように落ち込んでいる方はたくさんいらっしゃるはずです。そういう方に、「VRリハビリという新しい方法でこれだけ良くなった人もいる」と知ってほしいです。その上で何を選ぶかはその方次第ですが、選択肢のひとつとして考えてもらえたら。「いろんなことをあきらめなくてもいいんだよ」とお伝えしたいですね。

集合写真
左から矢代先生、萩野先生、永井先生、みいたんさん、よつばさん、安藤先生、伊藤先生

■mediVR https://www.medivr.jp/
■岩砂病院・岩砂マタニティ https://iwasa-gifu.or.jp/

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