10年ぶりに高額医療機器を導入できた理由とは? 第1回カグフェッショナル・杵築市立山香病院
「カグフェッショナル」は、VRリハビリテーション用医療機器・mediVRカグラを導入している医療施設の代表者にオンラインでディープインタビューを行う新企画です。第1回のゲストは、大分県にある杵築市立山香病院(きつきしりつやまがびょういん)の永徳研二先生。10年ほど高額医療機器の導入がなかったなか、どのようにしてカグラ導入を実現したのか、導入後どんなふうに活用しているか、詳しく教えていただきました。
mediVRカグラ導入による経済効果を詳細に試算しプレゼン
――まずは、mediVRカグラを導入するに至った背景を教えていただけたらと思います。高額医療機器の導入は約10年ぶりだったそうですね。
そうなんです。現場から医療機器を導入したいと提案しても、予算との兼ね合いでなかなか承認が下りない状態が長いこと続いていました。ただ、少子高齢化によって医療需要が高まる一方、働き手世代の医療人材は急減し、効率化や生産性の向上は当院でも喫緊の課題となっていました。そこで3年前にデジタル化推進委員会が立ち上がったのです。私はそのAI・ロボティックス部門に入りました。
職員の負担軽減や患者サービスの向上につながる医療機器の情報収集を行うなかで、2023年2月に開かれた第25回大分県理学療法士学会の特別講演と実技セミナーでmediVRカグラを知り、「これはいいんじゃないか」と関心を抱きました。4月にデモ機器をお借りして数週間現場で使わせていただき、「VRリハビリは疾患によらずかなり高い応用が期待できる」と実感し、導入を希望しました。
この期間に院長・副院長・事務長・看護部長をはじめ、さまざまな部門の職員にカグラを体験してもらったのですが、それが導入の大きな後押しになったと思っています。肩や腰を悪くしている人が多く「リハビリって1回でこんなに良くなるんだ」と自分の身体でVRリハビリの効果を実感してもらえたのです。また、内部の話になりますが、当科では毎年10演題程度の学会発表や地域支援事業などの外部事業を行なっています。そうした積み重ねがあったから、幹部の信頼を得られたのかもしれません。
――導入にあたり、課題はありましたか?
購入費用・年間保守費用と予算の折り合いですね。mediVRカグラ導入後の外来・入院患者数など詳細な試算を作成し、事務方と協議しました。
――差し支えなければ、試算の中身を教えてください。
VRリハビリは座位で行うので、入院患者さんには1単位追加で介入ができるのではないかと考えました。また、VRリハビリの話題性をしっかりと広報すれば、外来患者さんも増えるはずです。それらを踏まえると、カグラの導入によってざっくりですが年間200万円ほど売上が上がり、保守料含めて3年でペイできるという試算結果となりました。
広報に力を入れた結果、VRリハビリによって外来患者が10名増えた
――導入後に直面した課題や困難はありましたか? それをどう乗り越えましたか?
導入前に試算をしたとお伝えしましたが、広報をしないとなかなか患者さんは集まりません。そこで、まずはホームページでVRリハビリを紹介しました。また、当院は市立病院なので、市長の定例記者会見でカグラ導入を発表していただいたのです。報道各社にプレスリリースをお送りしたところ大分合同新聞朝刊に大きく記事が掲載されまして、多数の反響をいただきました。
あとは、お祭りや出前講座でも積極的にデモンストレーションを行いました。“VRでリハビリ”というと、それだけでインパクトがあって注目を集めます。肩が上がりにくい、腰が痛いといった症状を抱える高齢者の方も、5〜10分体験しただけで効果を感じてくださり、「どうすればこのリハビリを受けられるの」と聞いてくださいました。そういった広報活動の甲斐あって、外来患者さんが10名ほど増えました。
――VRリハビリ目当てで、ということですよね。
そうです。県外からの問い合わせもありました。ずっと福岡の病院までVRリハビリ目当てで通っていらした方が、「近くなって嬉しい」と当院に通ってくださるようになって。近いと言っても車で1時間ほどかかるのですが、週に2回通ってくださっていましたね。
――導入前の試算に対し、現状はいかがですか?
導入後8か月が経った現在、外来では200件、入院患者さんには1000件mediVRカグラでVRリハビリを実施しています。想定どおり、1単位追加できる入院患者さんは少なくありません。1日に入院患者さんだけでも4〜5人は介入しているので、少なく見積もって1単位200点としても1日1万円はプラスになるわけです。20営業日で月20万円プラスになる計算ですね。試算よりも早くペイできるかもしれません。
10m歩行スピードが116秒から30秒に。患者さんの喜ぶ姿を見ることが何より嬉しい
――導入後に感動したこと、嬉しかったことがあれば教えてください。
通常のリハビリでは改善が難しい方でも、VRリハビリで改善していく例があるのです。半側空間無視に脊髄小脳変性症で失調が強い方、廃用症候群の方……そういった方々が良くなっていく姿を見ることが何より嬉しいですね。
――具体例はありますか?
たとえば、左半側空間無視の患者さんはPusher症状がかなり強く、介入前は強く支えないと座位が取れないような状態だったのですが、1日2回、20日ほど介入したところ、ほとんど支えなしで座位が取れるようになりました。臨床的体幹機能検査(FACT)も0点から3点に上がっています。トイレは2人がかりで介助していましたが、立位やバランスが改善したため1人が軽介助するだけでよくなりました。
無視に関しても、線分二等分試験が中央から100mm右側へ偏っていたところ、25mm右側まで改善されました。食事の際は食器を右に寄せないと食べ残しが出てしまう状態だったのですが、そうした配慮をしなくても見落としなく食べられるようになり、患者さんご自身もとても喜んでくださいました。
また、脊髄小脳変性症の方は、10m歩行スピードが初回116秒だったところ、5回の介入で43秒になりました。左右にしっかりと荷重がかかるようになり、歩幅も大きくなりましたね。外来で2週間に1回しか来られない方ですが、それでもちゃんと効果が持続しています。現在は介入10回目くらいになりますが、30秒前後にまで改善されています。
――職員のみなさんのなかにも、VRリハビリで肩関節周囲炎が良くなった方がいらっしゃるそうですね。
そうなんです。夕方になるとときどき「いまリハビリお願いできる?」と職員がたずねてきます。
患者さんの平均年齢は85歳。“VRリハビリ“を楽しんでくれている
――新しいものに忌避感がある高齢者など、VRリハビリと相性が良くなかった患者さんはいませんか?
田舎の病院で地域の高齢化も進んでいるので、患者さんの平均年齢は85歳くらいです。それくらいの年齢ではさすがに抵抗があるかなと思っていたのですが、実際に使ってみると、結構楽しく取り組んでくださる患者さんが多いですね。mediVRのみなさんがサポートのときにとても褒めてくださるので、私たちも意識して患者さんを褒めるようにしています。
――副作用などを訴えられた方はいますか?
ヘッドマウントディスプレイをつけてキャリブレーションをしている最中に「めまいがする」とおっしゃった方がいました。そのときはすぐやめて、期間を空けて「もう一度試してみますか」と聞いたところ、「もういい」とのことだったので、その方には使っていません。VRリハビリ自体は相当な回数行っていますが、そういった症状が出たのはいまのところ1回だけです。
「先進機器を使用できること」が職員のモチベーション向上につながっている
――職員に対して、mediVRカグラの操作や利用に関する教育はどのように行っていますか?
職員同士、日々試行錯誤しながら操作練習しています。mediVRのみなさんからリモートでサポートしていただいた後、職員間で「今日はこんなことを教わった」と共有しています。自分たちに足りない視点、患者さんの動きや声掛け、負荷の設定などを的確にアドバイスしてくださって、その通りにすると患者さんが良くなるので、大きな学びになっています。
そのほか、カグラボ(カグラの勉強会)やカグラ座談会(導入施設同士の情報共有の場)への参加、文献の抄読会も行なっていますし、2023年10月にはmediVRリハビリテーションセンター大阪へ職員3名で研修に伺いました。職員はみんな「学ぶことが多く、行ってよかった」と話していました。
――杵築市民病院のみなさまはmediVRが企画するイベントに皆勤賞でご参加くださっていて、いつもありがたく思っています。参加者から「カグラを使用するスタッフの数は限定されているのでしょうか」と質問が来ていますが、いかがですか?
弊院には理学療法士が13名、作業療法士が8名、言語聴覚士が4名いるのですが、このうち「最低でも1回はカグラを使ったことがある」職員が20名ほど。日々患者さんに使っているのはその半分の10名ほどですね。とくに「カグラチーム」を作ったりしているわけではなく、自分の患者さんに使いたいスタッフがしっかりと使っている、という形です。
――mediVRカグラ導入に伴い、職員の意識やスキルに変化はありましたか?
杵築市という田舎にある病院でも、こうしたVRのように話題性の高い機器を使えることで、職員のモチベーションも上がっていると感じています。先月、当科の魅力について職員にアンケートを行った結果、「先進機器を使用できる」という意見が多数出ていました。こういった面でも、導入してよかったと思っています。
VRリハビリは、患者さんのADLや歩行能力を改善できる新しいリハビリの形
――mediVRカグラを使ったリハビリに関する学会発表も行なっていますね。
昨年7月から現在までの間に、VRリハビリに関する発表を合計6演題行ないました。リハビリテーション・ケア合同研究大会2023にて「右視床出血による重度麻痺と半側空間無視を呈した症例に対するVirtual Reality(VR)機器を用いた介入~単一事例研究~」、「転子部骨折術後患者に対するVirtual Reality(VR)機器を用いた荷重訓練の効果について」の計2演題。第37回大分県国保地域医療学会にて「Virtual Reality技術を用いたトレーニング効果の検討~立位バランス、歩行能力に及ぼす影響~」、第26回大分県理学療法士学会にて 「うつ病,食欲不振による廃用症候群を呈した症例に対するVirtual Reality(VR)機器を用いた介入~単一事例研究~」、「Virtual Reality(VR)機器を用いた大腿骨転子部骨折術後患者に対する荷重訓練の効果について」「Virtual Reality技術を用いたトレーニングが立位バランス、歩行能力に及ぼす影響」の計3演題。なお、新規性や高い治療効果を評価していただき、大分県国保地域医療学会と大分県理学療法士学会にて優秀賞を受賞しました。
――もともと積極的に学会発表をされていらっしゃると思いますが、mediVRカグラ導入によって変化はありましたか?
一昨年、昨年とコロナ禍もあって学会から足が遠のいていたのですが、カグラを導入したことで職員のモチベーションが上がり、「ぜひ発表したい」と言われました。発表を見据え、普段から重心動揺検査と10m歩行スピード、TUGを測定するようにしています。
――永徳先生はじめ山香病院のみなさんは、臨床に、広報に、研究にとmediVRカグラをとても有効に活用してくださっていますね。最後に、「あなたにとってVRリハビリとは?」という質問をさせてください。
前置きさせていただくと、私は何もカグラがすべてだと思っているわけではありません。でも、VRリハビリは疾患問わず、患者さんのADLや歩行能力などを改善するきっかけをつくってくれています。そういった意味で、VRリハビリは新しいリハビリの形だと考えています。
――そんな風に言っていただけて嬉しいです。永徳先生、今日はたくさん資料を用意して具体的なお話を教えてくださり本当にありがとうございました。カグフェッショナルは今後も定期的に開催し、導入施設の先生同士で情報交換できる場にしたいと思っています。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
■杵築市立山香病院 http://yamaga-hp.jp/
■株式会社mediVR https://www.medivr.jp/
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<第2回カグフェッショナルレポート>