術後後遺症で歩けなくなってから1年。VRリハビリを始めて、家族に支えられる側から家族を支える側になれた
「感謝の気持ちがコップからあふれてしまい、乱文になりました」。
2024年春、mediVRリハビリテーションセンターに一通のお手紙が届きました。差出人は人見香保里さん。2023年春から週に2回ほど東京リハセンターに通ってくださっている方です。そこに綴られていた温かな言葉にリハセンターの面々は大喜び。人見さんにインタビューを行い、お手紙をくださった理由を教えていただきました。
「これを続けていったら良くなるかもしれない」と感じて
――まずは、お身体の状態を教えてください。
人見さん:脳腫瘍のため2022年3月に開頭手術をしたのですが、その後遺症で歩けなくなってしまったんです。病気自体は抗がん剤や放射線治療により寛解に至ったものの、後遺症として左側の失調症状が残りました。一番ひどいときは車いすで、その後は歩行車を使って何とか歩けるという状態でした。
――なぜ弊社のサービスに関心を持ってくださったのですか?
人見さん:毎日訪問リハビリを受けていたのですが、手つなぎで外歩きの練習をするばかりで、そのまま続けていても生活の質が上がると思えなかったんです。「中央区 自費リハビリ」で検索し、mediVRリハビリテーションセンター東京が2022年10月にオープンすることを知りました。何より刺さったのは、ホームページに書かれていた「あきらめない姿勢に真摯に向き合う」というスローガンです。まさに私が求めていたものでした。
ただ、お問い合わせをしようとした矢先に自宅で転倒して左足を6ヶ所も骨折してしまって。なんとか装具が取れたのは2023年2月で、3月にようやく体験できました。
――「VRでリハビリをする」ことに対して不安はありませんでしたか?
人見さん:ホームページやYouTube、リハノワや中央区民ニュースを読み込み、医師がいらっしゃることや医学的エビデンスをしっかりと積み重ねられていることから信頼できると思いました。もともと私は性善説を採用していて、いいと思ったらすぐに飛びつく人間なんです。でも、次男は物事を俯瞰的に見る力があるので彼にYouTubeの講演動画を観てもらい、念のため私自身も友人のお医者さんに意見を伺いました。それでOKが出たので体験に行ったんです。
――体験してみていかがでしたか?
人見さん:病気になってからずっと肩や首の周りがすごく寒くてスカーフを巻いているのですが、リハビリ動作を60回ほど行ったあたりから暖かくなってきました。その理由はわからないし、根拠も何もないのですが、「これを続けていったら良くなるかもしれない」と感じました。それと、このリハビリでは腕を色々な方向に伸ばすでしょう。高いところにあるものを取ったり、たんすの下段の引き出しを開けたりする訓練にもなるんじゃないかと思いました。私の目標はただ歩くことではなく、生活の質を上げることですから。
新本:最初の頃は「VRリハビリの後は頭がごちゃごちゃする感じですごく疲れる」とおっしゃっていましたね。
人見さん:そうなんです。最初の頃は家に帰った後、何時間も寝ていました。でも、心地いい疲労感でしたし、一度ごちゃごちゃした後は頭の中が整理されてすっきりする感覚がありました。回数を重ねるうちに、そんなに疲れなくなりましたね。
家事ができるようになり、家政婦さんが不要に
――手術から1年経ってVRリハビリを始め、それからまた1年が経ったことになりますね。お身体の状態はどのように変化しましたか?
人見さん:退院後しばらくは家政婦さんやヘルパーさんを雇っていたんです。ひとりでトイレやお風呂に入ることもできなかったし、お茶碗にごはんをよそうのも難しかったから。いまでは食事も自分で作れるようになって、家政婦さんに来てもらう必要はなくなりました。
新本:歩行もだいぶしっかりされましたね。最初は3点杖を持って、ご家族の方に手を引かれて歩いていましたけど、いまはおひとりで歩けますもんね。いつだったかリハビリの後に「もう3点杖ではなく普通の杖でも大丈夫なんじゃないか」という話になり、そのまま一緒に装具屋さんに買いに行きました。普通の杖で問題なく歩けている様子を見て、僕も嬉しかったです。
(※下記の動画の左はリハビリ前、右はリハビリ後)
人見さん:先日、外にいるとき孫に杖を奪われちゃったんです。「自分も杖をつきたい」って。それでも夫に支えられて自分で歩けました。事前に心構えがあればもっとふらつかずに歩けたかな。彼女はまだ小さいので手をつなぐと体重をぐっとかけてくるのですが、転ばないようちゃんと踏ん張れます。家の中で床に座って一緒に遊んだり、抱っこしたりもしています。家族に支えられる側から家族を支える側になれて、本当に嬉しいです。
――変化はすぐに出たのですか?
人見さん:10回過ぎたくらいから、霧が晴れたように感じました。そこからブーストがかかったように良くなっていきましたね。がんの経過観察で定期的に病院に通っていますが、主治医が毎回私の様子を見て驚くんですよ。「ここまで来たか、VRリハビリ」って(笑)。
たくさんの「希望の風船」を胸に
――1年続けるなかで、印象に残っていることはありますか?
人見さん:手術後は、歩けなくなったつらさ、普通の日常が送れないつらさで、外は晴れているのに心が洞窟の中にいるように感じていました。家族からのLINEにすら返信できなくて、精神科の受診を勧められるほど塞いでいて。でも、ここに通うようになって、「歩行を取り戻せるかも」というワクワク感が生まれたんです。
新本先生やセラピストのみなさんは、リハビリの最中にとにかく褒めてくれるし、些細な変化に気づいて一緒に喜んでくれますよね。60歳を過ぎてから褒められることってあまりありません。いつも「人見さん、いいですね、この調子ですよ」とお声かけいただいて、洞窟の中に光が差し込んだように感じました。録音して保存しておきたくなるくらい(笑)。大人になっても褒められるのは嬉しいし、魔法の言葉ですね。何度も通ううちに、どんどん心が前向きになっていきました。
――ほかの病院やリハビリ施設はあまり患者さんを褒めたりしないのでしょうか?
人見さん:私が行ったところは、「今日は何々をします」と説明を受けて、淡々とそのメニューこなす感じでした。理学療法士さんもお医者さんの指示に従って行動するので、あまり余計なことができないのかもしれません。スタッフの人数も多いので、中にはピリピリした人もいて、こっちも気を遣ってしまったり。
新本:大きな施設だと患者さんの数も多いし、時間に追われて余裕がないのかもしれませんね。
人見さん:新本先生もお医者さんだし自分の考えをしっかり持っているけど、理学療法士や作業療法士のみなさんに意見を聞いて受け入れる素直さや柔軟さがあるし、アットホームな雰囲気を作り出しているからこちらもリラックスできるんですよ。みなさん爽やかな方ばかりで気持ちにそっと寄り添ってくれるので、毎回「今日も来てよかった」と思います。
病気になって勤めていた会社を辞め、突然社会と断絶された私には、週2回のリハビリが暮らしの中の楽しみになったんです。最初に抱いた「もっと良くなれるかも」という希望が、半年後には「もっと良くなれる」という確信に変わりました。
新本:mediVRはもともと人を褒める文化が根づいている会社ですし、僕も東京センター長として、トップダウンで物事を進めるのではなく、スタッフみんなが発言できる雰囲気にしたいと意識してきました。それを評価してくださって嬉しいです。
――医師・セラピストと患者さんという関係ですが、お互いに信頼を感じているのですね。
人見さん:新本先生は私のことを熟知しているから、サポートが必要なところにすっと手を添えてくれるんです。どうしても肩が上がってしまうときに手を置いて下げてくださったりして、「そうそう!」と思います。それに、疑問に思うことをちゃんと説明してくれるんです。ちゃんと理解したうえでリハビリができるというのはとても大きいですね。
また、大阪リハセンターのみなさんが毎回リハビリの際、Zoomでサポートに入ってくださるんです。東京と大阪、離れていても気持ちはひとつですね。私の現状をしっかりと把握してPDCAを回し、どうすればもっと良くなるか会社全体で考えてくださっているので心強いです。
――今回、お手紙をくださった背景を教えてください。
人見さん:東京リハセンターのみなさんにはお会いするたびに感謝の気持ちを伝えていますが、大阪のみなさんには伝えきれていないと感じていました。リハビリを始めて1年経って私の心と体の元気度が上がり、いまの気持ちをちゃんとお伝えしたいと思ったんです。
色々な文具屋さんをめぐったのですがピンとくるものがなかなかなくて、ようやく見つけたのが“希望の風船”という名前のレターセットでした。明るい未来への希望を抱かせてくださっている先生方への感謝の気持ちを表すのにぴったりだと思いました。私はmediVRリハビリテーションセンターに通うようになって、心が前向きになったから。
新本:大阪メンバーが「長年理学療法士・作業療法士をしているけれど、患者さんからお手紙をいただいたのは初めて」と喜んでいました。
人見さん:気持ちが溢れて乱文になってしまいました。私だけじゃなく、私の家族も感謝しているんですよ。本当に、ありがとうございます。
もっともっと良くなる人がいっぱいいるはず
――今後の目標はありますか?
人見さん:もっとひとりで歩けるようになりたいですね。家族の迷惑になるのではなく、妻として、母として、祖母として、少しでも家族の支えになりたい。元の自分を取り戻して、生活の質を上げたいです。
新本:僕も人見さんの希望を叶えたいです。ご自宅の前に段差があり、ご近所にお住まいということもあって送り迎えをしているのですが、まずはそれが必要なくなるようにしたいですね。僕にとっても楽しい時間なのでちょっと寂しいですが。
人見さん:近所でもリハビリで歩いている方をよく見かけるのですが、「すぐ近くにmediVRリハビリテーションセンターというところがあるんですよ」と伝えたくなります。知らないと損でしょう。もっともっと良くなる人がいっぱいいると思うんです。VRリハビリ教の信者として普及したくなってしまう(笑)。みんながみんな私のように変化が現れるわけではないかもしれませんが、リハビリをすることで絶対に少しは良くなるところがあるはずです。
新本:僕たちも論文を書いたり学会で発表したりしてVRリハビリの良さを伝えていますが、なかなか信じてくれない方もいます。人見さんの変化を見てもらったほうが早いかもしれませんね。
――同じような境遇の方に向けて、メッセージをお願いします。
人見さん:ひとりで戦うのは難しいけど、まわりの人を巻き込んで支えてもらえたら、できることが増えていきます。「VRでリハビリってどういうこと?」と思うかもしれないけど、まずは体験してみて、自分の体で確かめてみるといいのではないでしょうか。たとえば虫歯がひどくて抜歯すると、痛みは消える一方で体の一部を失うでしょう?VRリハビリにはそういうところがない。良くなるしかないんです。だから怖がることはないですよ。
新本:人見さんのおっしゃるとおりで、手術や投薬治療には侵襲性や副作用があるけど、VRリハビリには大きな侵襲性や副作用がない。医師としてもそれはVRリハビリの大きな強みだと思っています。
人見さん:私も病気になって「なんでこうなっちゃったんだろう」と思ったけど、いまを受け入れて前を向くしかありません。そのときに、mediVRのみなさんが追い風になってくれました。医学を学び知的な情熱を持った医師が、リハビリのプロが、心と知識を寄せてくれます。みんなで「次はこうしよう」と会議を重ねて、ホームページに書かれている言葉のとおり、真摯に向き合ってくれます。医師もびっくりするほど元気になり、生活の質も向上しますよ。焦らず信じていれば大丈夫。私を信じて、一緒にやりましょう。
■株式会社mediVR
HP:https://www.medivr.jp/
リハビリセンター:https://www.medivr.jp/rehacenter/
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(撮影:山中陽平 取材・文:飛田恵美子)
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