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「再現性」と「再現可能性」は、言葉として使い分けたい

先日とある会合で、20年以上の付き合いになる友人とその部下さんと、仕事に関する話をしていて、「再現性」という言葉が出てきてその話になった。

で、その言葉について以下のようなことを伝えた。

「再現性」と「再現可能性」という言葉は本当は使い分けるべきで、ビジネスの世界で言われてる「再現性」は、実は「再現可能性」の話。その違いを適切に認識したうえで、「再現可能性」という言葉を使ったほうが、"再現"させるためにどうすればいいかが見えてくるはず。

そもそもビジネスの世界で使われる「再現性」というのは、主に"結果"の話であって、そのプロセスの部分に目が向けられることはあまりないように思う。強いて言うなら、「再現性」を高めるためにフォーマット化・テンプレート化・仕組み化が必要で、その部分をプロセスとして「再現」という意味合いで使ってるのはあるが。

しかし、ビジネス、社会・経済現象・行為において、ある結果をもたらしたときと全く同じ条件が発生することは非常に稀。実際には常に変化している状況に対応している。

で、「再現性」と「再現可能性」だが、これらに当たる言葉は英語では、repeatability, reproducibility, replicability の3つが存在する。

これらの違いを例えば以下のソースなど複数の資料に基づいて説明をすると、次のように整理できる。

Repeatability: 

  • The ability to get the same results when an experiment is conducted again under identical conditions by the same researcher, using the same equipment, in the same location, and within a short time period. 同じ研究者が、同じ機器・施設を使用し、短期間のうちに同じ条件で実験を行った際に、同様の結果が得られるということ。

Reproducibility

  • The ability of different researchers to achieve the same results using the same experimental methods but in different locations with different equipment. This involves following the original detailed methodology but using independent setups. 異なる研究者が、同じ実験方法を用いて、異なる場所・機器で実験を行っても同様の結果が得られるということ。オリジナルの詳細な方法論に従いながら、独立した環境で検証することを含む。

Replicability

  • The ability to obtain consistent results when conducting a new study that addresses the same scientific question but using different methods, data, or experimental procedures. This tests whether the underlying scientific finding is robust across different approaches.同じ科学的問いに対して、異なる方法やデータ、実験手順を用いて新しい研究を行った場合でも、一貫した結果が得られるということ。

主な違いをまとめると:

  • Repeatabilityは「同じ条件での再現ができること」

  • Reproducibilityは「異なる環境でも再現ができること」

  • Replicabilityは「異なる方法でも再現ができること」

となる。

また、six sigma などでは"R&R"という略語が使われ、この2つの"R"は、repeatable/repeatability と reproducible/reproducibity となっている。

これらの"r"ではじまる3つの言葉は、反復性や再現精度という和訳もあるが、現在マーケティング業界などで「再現性」の語がよく使われるので、両者の違いがわかりやすいであろうと、異なる環境・異なる方法で再現できるという、reproductivity OR replicability (別条件でも同様の結果を得られる精度・可能性)に対する和訳として「再現可能性」という語を選んでいる。「再現」には、同一条件下のもので起きるものと、異なる条件下で起きるもの、という2つがあるということを明確にする意味合いで。

repeatableとreproducible については例えば以下の2つの動画で違いがわかるかもしれない。

reprocucibility と replicability については以下の動画とか。


というわけで、ちゃんとコンテクストと語を理解すれば、「それらの語は同じもの」とはなりませんし、"条件の違い"によって、「再現」へと向かうプロセスなどの違いがあるということも、用意に理解できることだと思います。

さて、先に、「再現可能性」と言ったほうが期待される"再現"を高めることができる、というふうに書きましたが、この理由は、

  • 常に変わらない"条件"

  • 変化する"条件"="変数"

を切り分けて考えることができるから。

ビジネス現場では「再現性」という言葉がよく使われるものの、その"再現"のための条件の構成まで話がなされることはない。

つまり"再現"のための"因数分解"の議論に欠けている。

"条件"が同一でない=変化していても、同様の"結果"を出すためにはどうすればいいか?

これは、結果に向かう道筋を"因数分解"し、(変わらない条件ではなく)どういう"変数"にどのような対応をするかによって、"再現"の度合いを高め、同一の結果="再現"に近づくかの可能性を検討することでできる。

より整理を進めると:

  1. ビジネスで要求される"再現"の特徴

    1. 完全な同一条件での再現は困難

    2. 常に変化する環境への対応が必要

    3. しかし結果の"再現"が重視される

  2. 「再現可能性」を意識することの利点

    1. 変数と不変の条件の区別

    2. 変数への対応方法の検討

    3. 上記を加味した上での、"結果"を得る(="再現")のためのプロセスの体系化

こうした理由からビジネスの現場では、「再現可能性」という用語を用いるほうが良いだろう、ということである。


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