
メディカルイラストレーターが選ぶ『こころの健康がみえる』の推しイラスト!(後編)

こちら、前回の記事からの続きになります。
今回も『こころの健康がみえる』の制作に関わったイラストレーターに、お気に入りのイラストやこだわりなどについて語ってもらいました!

p.205 自閉スペクトラム症-症状経過

自閉スペクトラム症(ASD)の症状の経過を説明した図です。
ASDの特性や対処法、環境の関係を“円錐形”、“水量”、“火力”に例えました。
ASDの特性は人それぞれ違うことや、症状の目立ちやすさは対処法や環境によって相対的に変化すること、これらを視覚的に分かりやすく説明するために編集者と推敲を重ねながら制作していきました。

これはASDの気づかれる症状を”地面の高低”、環境の変化を“天気の変化”で表現する案でした。
対処法を積み重ねることにより気づかれる症状が減っていく…という経過を表現しようとしていたのですが、
環境の変化=“天気が小雨から嵐になる”、気づかれる症状=“地面が低くなっていく”という描写に繋がりがない。
対処法を積み重ねても気づかれる症状が無くなる訳ではない。
対処法の描写が分かりにくい。
などの点からより良い表現を検討していくことになり……
対処法を当事者本人が積み重ねていく様子を表現するためにコンクリートブロックを重ねてみたり、
地面が低くなっていく様子が分かりやすいように石や土を配置してみたり……

海にしてみたり……

その後も少しずつ案を出してはみるのですが、どれも視覚的に“ASDの特性と対処法の習得、環境の関係がみえる”とは言えない……
根本的に表現の仕方を1から考え直した方が良さそうだとなり、編集者が監修のDr.にご意見を伺ってみることに。
監修Dr.『ASDのよくある表現としては“氷山”ですかね』
しかし、氷山の例えだと、ASDの特性の一部が症状として現れることは表現できるが、時系列的に症状が目立ったり目立ちにくくなったりすることを表現するのが難しい……
そこで編集者が何かより良い表現が無いか「うーーーっ(本当にうーっと考えていたそうです笑)」と考えていたところ、
「💡」
“コンロ”なら、特性の大きさが同じでも水量(支援やスキル)によって症状の目立ち度が変わること、水量が環境(コンロの火加減)によって変わること、特性の大きさが患者によって違うこと、を表現できることを思いつきました!

※ちなみにイラストやテキストの上に付いている✓(チェック)マークは、指示をデータに反映したときにペンで付けているものです。
忘れている事が無いか確実に確認するには今でも手書きが分かりやすいですね!
その後はスムーズにイラスト制作が進みました。
シンプルなコンロとビーカーのイラストですが、読者が見たときに単純すぎず、うるさすぎない塩梅を意識してデフォルメしました。

ただの四角い容器に三角形を入れただけでも説明は成り立つのですが、

単純すぎると記号のようになり、見た人は内容を理解するために、この図は何を例えているのかを考えるところから始まってしまいます。
簡潔に説明するために記号を用いることは便利なのですが、読者にとって自閉スペクトラム症の症状経過の説明にコンロ、または三角形や四角形を用いるという概念が広く浸透していないと考えられる場合は、パッと見て何を表しているのかがわかる程度にリアルに描くようにしています。

ではビーカーの部分をリアルに描写してみるとどうでしょうか。
間違いなく、瞬時に理科の授業で見たことがあるビーカーだと認識できると思います。しかし、リアルな図にすると、実際の理科室での実験風景に意識が向いてしまい、概念を伝えるという意図が薄まってしまいそうです。
このように、リアルさよりも想像することが必要な例えの場合は、あえて精細に描くことを避けています。
今回は以上のような紆余曲折を経て、“コンロ”のイラストに辿り着きました。
もちろん監修の先生にもご確認いただき、晴れてイラスト完成となりました。
これらは一例ですが、みえるシリーズのイラストや図は1つ1つ、単純なイメージ図であってもより正確に伝わる表現になるように細部までこだわっています。
読者のみなさんがイラストや図を見たとき、この表現には理由があるのだなと思ってもらえると嬉しいです!
コーポレートサイトのカルーセル広告

本文のイラストではないですが、こちらは私が作成した弊社サイトTOPに掲載した『こころの健康がみえる』の販促物です。
このカルーセルには、本書内で当事者やメンタルヘルスに関わる人々として登場したキャラクター達を載せました。
各キャラクターは、本書の内容と読者の皆さんを繋ぐもの。
本書の内容が、各々の立場にある読者の皆さんの笑顔に通じてくれたらという願いを込めました。

p.49 錯覚
錯覚の例のイラストです。


こちらは原案での打ち合わせの際に、編集者とイメージを共有しながら描いたイラストです。
特に、パレイドリアのイメージは、1カットで天井を見せつつ、寝ている人自身も描きたかったので、実際の絵におこした際はかなりダイナミックな構図になりました。
自分が子供の時、祖父母の家で風邪を引いて寝込んでいた時に天井を見たら模様が顔に見えたことを思い出し、懐かしさを感じながら描きました。
p.84 視床フィルタ機能障害

人物のイラスト部分、背景のキャラクターの主線ですが、正常のイラストでは、グレーにして目立たなくさせ、色々な情報が気になってしまう時は、主線のカラーを茶色にするという使い分けで、患者さん自身にとっての「情報の強弱」を視覚的に表現してみました。
p.431 ワンオペで余裕がない

二人の子供の世話をしている様子と帰ってきたパートナーの様子を1カットで描いたイラストです。

原案では文章での指示のみで特にイラストはなかったので、イラストレーター側で0からビジュアルを考えてみました。部屋の散らかり具合を見せるために、俯瞰の構図で全体の状況を見せるイラストにしました。
父親が帰ってきて母親に話しかけてる流れがスムーズに読めるように、上から父親が出てきてそれに答える母親を配置、人物の状況に合うように台所を配置、という流れで全体を構成していきました。
自分の部屋もこんな感じになってしまっている時、よくあるなあ…。
最後に、推しイラストというわけではないですが…
今回の『こころの健康がみえる』では疾患の説明だけでなく、疾患への対応をビジュアル化しているページがあります(書籍の小口部分がピンクになっているページ)。ここに出てくるハートのキャラなのですが、

実は精神症のページだけ、監修いただいた先生の希望で、先生に似たビジュアル(眼鏡とひげ付き)になっています。

気づいた方いらっしゃいますか?

完成した書籍の中のイラストはどれも、制作過程で色々な変遷を経てかたちになっています。
本書を読んだ際に、各編集者やイラストレーターのこだわりを見つけてくれたらとっても嬉しいです!
