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【第50回】正直アライメント-2(起承転結):MAの原点を求めて:MAの5W1Hとは?
阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳
MA(mechanical alignment)についてネット検索したり成書をひもといたりしてみると,その提唱者としてDr. Insallの名前が出てくる。彼の書いた“Surgery of the knee”が世界中のTKA surgeonに及ぼした影響は絶大であり,まさに“Bible”と呼ぶべき名著であったことは疑いない。そしてその中にMAに関する記載が確かに存在する(下図)。
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私には研修医時代に読んだ初版と,自分で始めて買った第2版が印象深い。
第3版で日本語訳のお手伝いをさせて頂いたのも良い思い出である。
この“Surgery of the knee”が世界中で読まれた事により,MAがTKAにおける普遍的な概念として広まった事は間違いなかろう。しかし原点を探っていくと,MAの本当の意味での始祖(考案者)はMr. Freemanだった可能性が極めて高い(あくまで筆者が調べた範囲なので異論は認める)。
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右にtensorと“MA”を示した模擬骨が見える
前置きが長くなってしまったので,そろそろ5W1HのフレームワークでMAの成り立ちを見てみることにしよう。
① When? Who? Where? いつ誰がどこで?
MAが初めて具体的に記載された論文は
Freeman MA, et.al: ICLH arthroplasty of the knee: 1968-1977. J Bone Joint Surg Br 1978; 60-B(3):339-44.
だと思われる。ICLH(Imperial College London Hospital)という機種が導入されたのが1970年で,その後1975年にかけてデザインや手術手技の改良が順次行われたと記載されている。だからMAという“概念”とそのための“手術手技””については
When? : “1972〜73年頃に”
Who? : “Mr. Freemanにより”
Where?: “London Hospitalで”
考案され,実用化されたと考えられる。年代的にはDr. InsallがTotal Condylar Prosthesisをデザインしはじめた頃で,時代としてはまさにTKAの黎明期にあたる。
② How? いかにMAが実現されたか?
MAを術中に確立するためには“tensor”の導入が不可欠であり,それと“軟部組織バランスの調整法の確立”が両輪となってそれが実現可能になった。
下図はFreemanが当時(1973年前後?)に導入したtensor(A)とその使用法(B)を示したものである。Tensorにより内側と外側に独立して引き離し力をかけつつ,軟部組織バランスを調整し,中央に配置したbarが大腿骨頭および足関節中心を通るように骨切り位置を決定するというのが基本的な流れになる。
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この図は1993年のInsallの教科書を基に作図したものだが,1978年のJBJS論文ではそのオリジナルを見ることができる(https://www.semanticscholar.org/paper/ICLH-arthroplasty-of-the-knee%3A-1968--1977.-Freeman-Todd/000a8fea2271d79643e86daeebc833c7deee6e4d:下図にシェーマ)。それにはtensorと外反膝に対する関節外ITB切離(矢印)が図示されており,当時の症例が主に外反膝であったことが窺われる。
しかし論文中に具体的な手技が記載されているわけではなく,術後レントゲンによるMAの確認が示されているにすぎない。その中で,近位のbarは正確には大腿骨頭の外側と通過しており,やや内反位で,Legendの中にこれはacceptableだとの記載がある。外反膝が多かったことを考えればやや過矯正を推奨していることになり,その意味からも興味深い。
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もう一度Tensorを用いたMA手技の流れを整理しておこう。
① 脛骨骨切り(遠位barが足関節中心を通るように)
② Tensorにより内側と外側に独立して引き離し力をかける
1.軟部組織解離によるバランス調整(近位barが大腿骨頭中心を通るように)
(1)外反変形:関節外ITB切離
(2)内反変形:MCLの付着部解離
③ 大腿骨遠位端の骨切りレベルの設定
というように全体としてGap techniqueの原点となった手技だと言える。何よりもこの論文において初めてアライメント“目標”としてのMAがGap techniqueともに記載されたという点でMilestone的な意義を持つものであると言えよう。
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MAの発祥を記載したMilestone的な論文である
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