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【第5回】アライメント戦国時代の生き延び方
阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳
患者固有のアライメントの再現: 何それ? なんか変
昨今流行の TKA(total knee arthroplasty,人工膝関節全置換術)での“患者固有のアライメントの再現”という風潮には違和感が強い。というのは,私自身MA(mechanical alignment)でアライメントを(大幅に)変えて来て,患者さんに「脚が真っ直ぐになりました」と感謝されてきたからである。それにアライメントを変えることを基本理念とする,“骨切り術”を考えれば,この考え方自体が無理・矛盾を孕んでいることがおわかりだろう。
MAだけがアライメントではない! うーん,そらそうよ…
MAは1970年代初頭にMr. Freemanにより導入され,その後Dr. Insallの教科書により世界中に広まった。その経緯については note¹⁾に書いたが,元はといえばMAとは“高度変形例における術中目標”として設定されたものである。だから,それが正常膝の平均値や分布と乖離していてもなんら不思議はない(むしろ当然である)。歴史的に見て Parratte Sの論文²⁾やBellemanらの “constitutional varus knee”が衝撃的であったのは,われわれが“MA一神教”に陥っていたことの証左でもある。その意味でMAだけがアライメントではない! と言われれば“うーん,そらそうよ…”なのである。なぜなら,その成り立ちからMAとは正常膝(解剖学)とは関係のない“実用品”なのだから。
アライメントをS+V+Oのフレームワークでとらえよう
具体的な構成要素(選択肢)としては,
S:誰が(一般整形外科医,専門家;術者適応)
V:何をする(TKA,UKA)
O:誰に(お膝様,膝野郎;患者適応)
ということになる(図1)。このなかで,“お膝様”とは変形が軽く矯正容易(<KL分類-Ⅱ)な膝を,“膝野郎”とは変形が強く矯正困難(>KL分類-Ⅳ)な膝を示す造語である。言うまでもなくこれらは両極端であり,両者の間には連続したスペクトラムが存在する。
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間違いだらけのアライメント選び
このフレームワークのなかで決定的に軽視されているのは,最初の「S:誰が」という部分である。学会やセミナーの議論は,これが“専門家”である場合であり,決して一般整形外科医ではない。そもそも論で言えば,
・一般整形外科医がTKAを行うなら適応は膝野郎に限定すべきで,アライメントに関してもMA一択で選択の余地はない
・一般整形外科医がUKA(unicompartmental knee arthroplasty,人工膝関節単顆置換術)を行うなら(その是非はともかくとして)適応はお膝様に限定すべきで,その際は KA(kinematic alignment)が理にかなっている
のである(図2)。このように主語(術者適応)を曖昧にしたまま論議するから,アライメントが不毛の論議になるのである。
もう一つの問題が“患者適応”であり,専門家達(自称,他称含めて)がこの(一般整形外科医が守るべき)原則を “challenge”という美名のもとに破ってしまう。具体的にはTKAをお膝様に,UKAを膝野郎に行おうとするのである。そうしないと学会で発表できないし論文も書けないから(もちろんセミナーにも呼んでもらえない)。すると,彼らのアライメントに関する考え方は,すべからく“患者固有のアライメント”を尊重するべきということになってしまう(図3)。
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こんな状況下で貴方が予備知識なく学会へ行ったりセミナーへ参加したりして,いわゆる“専門家”達の話を聞いていると,“MAは少数派?”で“MAって時代遅れの悪者?”と思い込まされてしまうことになる。しかし,ここで“専門家達の闇”の部分に考えを巡らせて踏みとどまろう(騙されてはいけない)。彼らには自分のための学問的,経済的COIがありまくりなのである。そして貴方が“善良な”一般整形外科医であれば,TKAの適応は膝野郎,UKAの適応はお膝様という原則に忠実であろう。そうすればアライメントについていろいろ悩む必要もないのである。
最後にもう一度強調しておくが,患者適応を守れば一般整形外科医にとって TKAはMA,UKAはKAが合理的だし,他に選択肢を考える必要はない。貴方が“患者固有のアライメント”を考えるのは10年早いのである。
そして,この割り切りこそがアライメント戦国時代をどう生き抜くか? という問いへの私の答えでもある。
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文献
1)https://note.com/medicalview/n/nca401ef2518c
2)Parratte S, Pagnano MW, Trousdale RT, et al. Effect of postoperative mechanical axis alignment on the fifteen-year survival of modern, cemented total knee replacements. J Bone Joint Surg Am2010;92:2143-9.
(『関節外科2025年 Vol.44 No.3』掲載)