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【クマ対策】ドローンはクマ撃退に最も有効

元モンタナ州魚類野生生物公園局(MFWP)のハイイログマ専門家で後にモンタナ大学(University of Montana)の研究者となったWesley M. Sarmentoの研究実験によってグリズリー(ハイイログマ)撃退にドローンが最も有効な手段であることが確認された。ドローンによるクマ撃退の成功率は91%、次いで車両の85%だった。

本研究結果論文「Drones outperform dogs for hazing bears: a comparison of carnivore aversive conditioning tools」はプレプリント段階の昨年(2024年)11月から海外大手マスメディアで取り上げられ、広く知られるところとなったが、この2025年1月27日に『Frontiers in Conservation Science』(Front. Conserv. Sci., 27 January 2025, Sec. Human-Wildlife Interactions, Volume 5 - 2024)に掲載された。

Wesley M. Sarmento
Drones outperform dogs for hazing bears: a comparison of carnivore aversive conditioning tools
Frontiers in Conservation Science
Front. Conserv. Sci., 27 January 2025, Sec. Human-Wildlife Interactions, Volume 5 - 2024
DOI: 10.3389/fcosc.2024.1478450
Drones could be the ‘magic tools’ we need to chase bears away from people
『Frontiers』Science News

『Frontiers』

ドローンはクマ撃退に最も有効

Hazing grizzlies away from humans by using drones was highly effective. Image: Wesley Sarmento/Montana Fish, Wildlife, and Parks.

クマに対するHazing、つまりクマ撃退ツール(手段・方法)を比較検証実験した本研究結果におけるドローンのハイイログマ(グリズリー)の撃退成功率は91%で最も高かった。次いで車両の85%、飛び道具の74%だった。

しかも、ドローンは撃退したクマの逃走経路を迅速に適切なルートに変更させ、逃走先を誘導することができた。これは他の方法にないドローン特有のメリットである。

ドローンのパフォーマンスが低かった唯一のカテゴリーは飛行させることができなかった暴風雨などの悪天候だった。これは本研究実験で使用されたUAV(ドローン機体)であるAutel Robotics社のカメラドローン「EVO II」の性能によるところが大きい恐れがあるので、全天候型ドローンによる更なる研究が進められることを期待したい。

クマがドローンを苦手としていることはアメリカクロクマを対象とした別の研究「Bears Show a Physiological but Limited Behavioral Response to Unmanned Aerial Vehicles」(Ditmer M. A., Vincent J. B., Werden L. K., Tanner J. C., Laske T. G., Iaizzo P. A., et al. 2015『Current Biology』)などでも明らかだが、今回の研究実験でもクマがなぜドローンを苦手としているのか理由までは判明していない。この点も更なる研究が期待される。

ある生物学者によるとゾウはドローンのプロペラ音が苦手で逃げて行くということなので、クマもドローンの音を嫌がっている可能性が考えられる。少なくとも今後の研究でクマがドローンを嫌がる理由が判明するまでは、クマ撃退のUAV(ドローン機体)には本研究と同様マルチコプターを使用しなければならないので注意が必要である

往々にして動物にはドローンを苦手とする傾向が見られる。但し、オオカミに関してはドローンに興味を示してしまい逆効果であることが報告されている。これらも今後の研究課題である。

犬はクマ撃退に有効ではない

逆に本研究によって犬(猟犬)はクマ撃退に有効でないことが判明した。犬によるクマ撃退の成功率は57%だった。本研究論文において犬はクマ撃退に効力があまりないことが強調されており、本研究者が注意喚起している。本研究以外を見ても犬がクマ撃退に効果的だと示すエビデンスは存在しない。

There is little comparison to our study as there is scarce published peer-reviewed evidence on dog use for hazing carnivores despite it being a common tactic and widely promoted. One rigorous study performed with dogs at Lake Tahoe found that this method was not effective at aversive conditioning bears over one month (Beckmann et al., 2004). Another study was conducted in Russia, however, it lacked any quantitative results (Gillin et al., 1997).

本研究論文「4.3 Dogs」

然るに、自治体やドローンスクール(ドローン操縦教習学校)といったドローンの知見に乏しい団体が、科学とデータに基付かない思い込みによるクマ対策をやたらと実施しようとしているのは不可解である。多くの自治体はクマ撃退ではなく、ドローンを使用することや運用協定を締結すること自体が目的となってしまう「手段の目的化」に陥っており、本末転倒。取り分け、災害時のドローン活用に関しては殆どの自治体で舎本逐末が顕著である。

ヒグマとツキノワグマでの検証が急務

本研究実験を踏まえ、日本は早急にドローンなどのHazingツールによるヒグマとツキノワグマの撃退成功率を検証すべきである。

ドローンによる鳥獣害対策

尚、ドローンを使用した鳥獣害対策としては以前の記事『【カナダ】空港からのドローンデリバリー開始』で触れたバードストライク対策も知られている。

エドモントン国際空港は2017年からハヤブサ型ドローンをバードストライク対策として使用している。ハヤブサ型ドローンがバードストライク対策や田畑の鳥害対策に有効という研究結果にはUniversity of Groningen、Università degli Studi della Tuscia、Roflight社、オランダ王立空軍による「Deterrence of birds with an artificial predator, the RobotFalcon」(2022『Journal of the Royal Society Interface』)がある。

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