ケアとまちづくり視点での行動経済学【予想どおりに不合理】
突然ですが!
Amazonでギフト券1000円分を無料で受け取るのと、700円分のものを購入して2000円のAmazonギフト券を受け取るのとではどちらを選択しますか?
(実際にやっている訳ではありません、すいません笑)
700円出した方が300円分お得になるのに無料で1000円分のAmazonギフト券を受け取る人は結構多いです。
こんな現象が起きるのはなぜでしょう。
それに少なからず関係してくるのが
“無料”
の力です。
ほとんど無料に近い値段でも有料なら多少踏みとどまることはできるが、無料だとあらゆるものに飛びついてしまう。
きっと人生で何度か経験があるのではないでしょうか。
又、こんな事実もあります。
これだけ医療費が高まる現在、予防医療のほうが、現在の治療による医療より、個人にとっても社会にとっても費用対効果が大きいことは誰でも知っています。
しかし、内視鏡検査など検査が辛いのを理由に定期的な健康診断を怠ったり、血液検査でさえ避けている人もたくさんいます。
そのため、長期的な健康と長生きの決め手はこうした検査を受けることなのに、一時しのぎに先延ばし、先延ばしを繰り返しています。
このような人間の行動の不合理について語られているのが、今回紹介する
「予想どおりに不合理」です。
さて、今回も3本立てでいきましょう。
・この本を読むに至った経緯
この本に出会ったのも、前回の紹介させてもらった「入社1年目の教科書」を読む最後の後押しをしてもらったinochi Gakusei Innovators’ Programの中で紹介されていたことがきっかけです。
他の本は出会ってから結構考えてから悩みに悩んで買うことが多いのですが、今回は外出自粛期間ということもあって時間もあり、行動経済学という分野はあまり知らない分野で興味もあったので、kindleで試し読みをしてすぐに買ってしまいました!
・本の内容
この記事の冒頭で紹介したように人間の行動にはたくさんの不合理があります。
この“不合理”を引き起こす感情や相対性、社会規範などの力が実際にどのようなものかを紹介しているのが本書であって、こうした力によって私たちの生活がどう影響されているのか知ることができます。
他にも
「現金は盗まないが鉛筆なら平気で失敬する」
「頼まれごとなら頑張るが、安い報酬ではやる気が失せる」
「同じプラセボ薬でも高額な方が効く」
「買う予定はないのにセールだと買ってしまう」
など、様々に出くわす不合理が行動経済学の観点から次々に解明されていく面白さを感じました。
これら本書に出てくる不合理を知ることは、いつどこで間違った決断をする恐れがあるかを理解でき、より慎重に決断を見直すことができる他、この不合理性は逆に利用することもできます。
その例として先程の“無料の力”についてもう少し話します。
「無料だとつい手を出しやすくなる」
この状況を利用した社会政策として以下のようなものが考えられます。
先程も述べたように予防医療は社会にとって費用対効果がかなり大きく、病気の早期発見の重要性はお分かりいただけると思います。
定期的な結腸鏡検査や糖尿病のチェックは自己負担額を下げて、検査費用をやすくするのではなく、重要な検査は“無料“にする。
これが、ときに必要な社会政策になりうるのではないでしょうか。
社会保障費削減が叫ばれるなか、何かを無料にするのは確かに直観に反していますが、ちょっと立ち止まって考えれば無料は絶大な力を持ちうるし、それを利用するのは大いに理にかなっています。
(無料の経済効果ですね。)
この本で数多く紹介されている不合理についてもっと紹介したいところですが、別の話題にも少し触れたいのでこの辺で…
(行動経済学に少しでも興味を持った方は是非一読をオススメします!)
・どんな人にお勧めするか(本の処方箋)
この本の著者であるダン・アリエリーさんはアメリカのニューヨークで生まれ、イスラエルで育ちましたが、イスラエル軍にいた18歳のとき、訓練中に全身の7割に思いやけどを負って、その後の3年間を病院で過ごすことになりました。
この不自由な状況が人間の行動について深く考えるきっかけになったと言います。
COVID-19の影響で我々の行動は制限された今、もう一度日々の行動について再考するチャンスだと思います。
例で示したような不合理に一度でも遭遇して疑問に思った方、行動経済学に興味がある方はもちろんのこと、現在の不自由な状況にもどかしさを感じている方にも「予想どおりに不合理」という処方箋をお渡ししたいと思います。
(なぜ“処方箋”なのか、はこの先を読んでみてください!)
・ケアとまちづくり視点での行動経済学
さて、ようやくタイトルに行き着きました。
先日、inochi Gakusei Innovators’ Programの活動の中で、屋台を引いて街を練り歩くYATAI CAFE(モバイル屋台de健康カフェ)や地域診断といったケアとまちづくりに関する活動をされている、家庭医療専攻医の守本陽一先生(もりもんさん)のご講演を聴く機会がありました。
(NHKの所さん大変ですよ、などのメディアにも出られています。先日紹介した社会的処方の共著者でもあります。)
ちょうどその時期に「予想どおりに不合理」を読んでいたこともあり、もりもんさんが仰った言葉の中に隠れていた行動経済学的視点がスッと頭に入ってきたのでこれを紹介したかったです。
この本で紹介されていた不合理の中に
「予測の効果」
というものがあります。
例えば、雰囲気が高級であれば味も高級に感じてしまう、とか。
知識が先か後かで経験は変わってしまいます。
(この例の場合、味わうよりも前にお店の雰囲気や高級感などの先行知識があります。)
この知識や事前情報による予測はステレオタイプ(固定観念)をも形成し、これが時に経験の受け取り方にも行動にも好ましくない影響を及ぼす可能性があります。
今回のもりもんさんの場合、
「医者である」
という前提で話が進んでしまうことで、相手との距離や関わり方が変わってしまうため、
“屋台の周りに地域の学生から高齢者まで集う小さな公共空間を作っているのが実は医療者だった”
という考え方が大切だと仰っていた、その理由がとてもよく分かりました。
同じような考え方でいうと、認知症などのワードはどうしてもマイナスな感情で捉えてしまいがちですが、実際にそういうものを抱えながらも働いて社会貢献されている方はたくさんいます。
事前情報によってフィルターがかったイメージでものを見ている人が、
認知症などを抱えている方が営む食堂と認識してお店に入るのと、食堂に入っておいしい食事を食べた後に初めて、実は働いている人は認知症などを抱えている、
という事実を知るのとでは病気やそれらを抱える人の印象はきっと異なってみえるはずです。
“捉え方次第で大きく変わる印象”
今回紹介した「予想どおりに不合理」が日々遭遇する不合理を知り、理解する助けとなり、自分自身の行動を改善するきっかけになれば。
そう思ったこの頃でした。それでは。
忘れてました。もりもんさんがYATAI CAFEでの処方箋として本を渡していたということで、本の処方箋という表記にしてみました。改めて、それでは。