大麻取締法パブコメ例
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私は責任取らないけれど訴えもしないので、好きにパクって好きな所で使って良いよ!)
以下提出したパブコメ全文
今回提案されたΔ9-THC(以下THC)の含有上限基準値につきまして、この値は諸外国と比べてあまりに低く、運用するには非現実的な値であると考えます。
まず理論的な問題としまして、今回のTHCの基準値を定めるにあたり、厚生労働省は欧州食品安全機関の定めた急性参照用量(1μg/kg)を参考にされているかと存じます。
しかし、この値は論文を基に示された実際の最小毒性用量とされる36μg/kgを不確実係数である30で割った値であり、この不確実係数を30とした理由も「データが不十分である為」という物で、根拠とするにはやや正確性に欠けているのではないかと思われます。
更に計算にあたって日本人の体重を50kgと想定されていますが、欧州食品安全機関の定めた急性参照用量を算出する過程では体重を70kgと想定していますので、仮に急性参照用量を採用するのであれば、体重も同じ70kgという値に揃えて算出をするべきです。
尚、実際にどれだけの量のTHCを摂るとどのような悪影響が生じるのか、もしくはTHCをCBDやその他の成分と併用した場合にどのような影響が生じるか、あるいは難治性てんかんに対してTHCがどの濃度で、どれだけ薬として寄与するのかについて断言できるデータは、現時点で不足しています。
その為、十分なデータが揃っていない現状において、世界的な基準値よりはるかに低い日本独自の基準値を設定する事は時期尚早であり、独自の基準値を設定するのであれば、その根拠を十分説明できるだけのデータを揃えた後に設定する事が妥当と考えます。
参考までに、今回厚生労働省が計算の際使用した急性参照用量は、欧州食品安全機関が定めた値ですが、その欧州食品安全機関の所在する欧州において定められているTHC上限濃度は0.2%です。
従って、欧州食品安全機関が定めた値を規制の基準値として採用するのであれば、その値を基にした日本独自の基準値を定めるのではなく、実際に欧州で採用されている基準値に倣うべきであると考えます。
次に、この基準値を実際に運用する事もまた非現実的で、社会に悪影響をもたらす可能性が極めて高いと考えられます。
以下にその理由を述べさせて頂きます。
1 外国人観光客とのトラブル
現在、THC規制の世界的な基準値は、製品の0.2から0.3%とされています。
一方、今回提示された基準値は、世界的な基準値よりもはるかに低い値です。
その為、たとえ海外では合法のCBD製品であっても、日本に持ち込まれた途端に麻薬として扱われる可能性が生じます。
現在日本ではインバウンド需要が高まっていますが、もし今回の値を採用するのであれば、外国人観光客の所持するCBD製品が取り締まり対象になり得る為、観光客が麻薬取締法違反で処罰されかねません。
更に刑事罰のリスクがある国は、娯楽として観光する為の国としては候補に入りづらくなる為、観光業への悪影響も想定されます。
2 CBD業界への壊滅的なダメージ
仮に今回の値を採用した場合、現存するCBD業界は今後存続が不可能になると言えます。
前提としまして、CBDという成分は、現在日本において合法的に利用されている大麻由来の成分です。
CBDは、WHOの呈した「カンナビジオール(CBD)事前審査報告書」において、乱用あるいは依存可能性を示唆する作用を示さず、一般的に良好な忍容性(許容性)があるとされています。
またCBDは、現在フェーズ3試験において純CBD製品(エピデオレックス)を用いたいくつかの臨床試験でてんかんの効果的な治療として実証されている成分です。
現在の日本においては、CBD、もしくはCBDと他のカンナビノイド成分を含有した「フルスペクトラム」と呼ばれる製品が市場に流通しています。
そしてCBD製品による健康被害のデータは、未だ十分に報告されていない状況かと存じます。
しかし、仮に今回の基準値を適用すると、CBD業界は今後存続が不可能になり得ます。
理由として大きく2点、原料に含まれるTHC濃度に規制値が無い事、そしてCBDは自然にTHCに変換する事が挙げられます。
以下にその2点について詳述します。
理由1 原料に含まれるTHC量に規制値が無い
今回規制の基準値が提案されたのは製品に対してのみであり、製品を作る為の原料に対する規制値は示されていません。
その為、輸入する原料についても、いずれかの製品に対する基準値が適用される物かと思われます。
現在において、原料となるCBD粉末やヘンプオイルに含まれるTHCの基準値は、主に欧州の0.2%未満を基準としている物が大多数です。
そして日本で流通されているCBD製品は、CBD原料を海外から輸入し、輸入した原料を国内にて希釈、あるいは他成分と混合等して調製した物を、実際の製品として販売する形態を取っている物が多いかと思われます。
この場合、希釈や混合をした後のCBD製品よりも、加工前の原料に含まれるTHCの量が多くなるのは明らかです。
しかしその原料に対して、製品を前提としたTHC濃度で規制をかけてしまうと、原料となるCBD、もしくはヘンプオイル等の輸入が困難になります。
その為、原料に対する基準値を設けない場合、CBD製品の元となる原料成分の輸入が不可能になるかと思われます。
理由2 CBDはTHCに変換する
次に、仮に基準値を満たす原料を調達できたとしても、そもそもCBDは性質上、THCに変換する成分です。
WHOの呈した「カンナビジオール(CBD)事前審査報告書」において、CBDは規制物質(THC)への容易な転換が示唆されており、また別の文献ではVAPE製品の通常使用に伴う加熱により微量のCBDがTHCに変換する事も示されています。
その為、たとえ販売時のTHC濃度が基準値以下を満たしたCBD製品であっても、時間の経過や保存・使用の状況次第で、1ppm程度のごく微量なTHCが生じ、検出される可能性が十分にあります。
そしてその際、検出されたTHCが最初から製品に混入していた物なのか、消費者の管理方法(高温下に置きっぱなしにした、酸性の成分と混ぜた等)による物なのか、あるいは時間の経過や通常使用による自然な変換の結果かを明確に判別する方法は、現時点で存在しないかと思われます。
故に、仮にこの基準値を超過した製品があったとして、その責任を製造元か、販売元か、あるいは消費者かに帰する明確な根拠がなく、立件そのものができないと思われます。
尚、CBDがどの様な条件で、どれだけの量のTHCに変換するかは、データ不足の為に不明です。
しかし仮に、欧州基準の最大2万分の1というごく微量な値を規制の基準値とするのであれば、この問題は十分に生じ得ます。
一方で、欧州においてCBD製品から自然にTHCが生じ、それが基準値を超えて検出されたという報道は見られません。
この事から、少なくとも欧州の基準値である0.2%を超える量の変換は自然には起こり得ないだろうと思われます。
この事からも、日本独自の基準を設けるのではなく、実際の運用ができている欧州の0.2%という前例に倣うべきであると考えます。
上記の理由により、CBD製品に対するTHCの上限基準値を、日本独自の極めて低い値に設定する事は現実にそぐわず、どころか本来無害な商業分野を崩壊させ、CBD製品を求めている人の手から根拠なくCBD製品を奪い、多数の失業者を生み出す悪影響をもたらし得ます。
これは国として何の利益にもならないどころか、損失をもたらす法案であるという事を私は主張します。
次に、今回の基準値を採用した場合、以下の悪影響が考えられます。
1 難治性てんかん患者の深刻な症状悪化
現在日本において、難治性てんかんの治療の為、CBD製品やフルスペクトラムのCBD製品を使用している方々が存在します。
難治性てんかんとは、十分な量の薬を定期的に投与しても収まらないてんかんを指します。
この病気では、てんかんの発作が繰り返し生じる事により、脳器質性障害や神経学的欠損、知的障害、心因性症状、行動障害、その他抗てんかん薬の服薬が困難になるような特異体質や内科的疾患等を併発する事が頻繁に起こります。
しかし難治性てんかんに対してCBDは治療的な効果を持ち、実際に日本の難治性てんかん患者がCBD製品を摂取した事で、てんかんの発作が収まっているという実例があります。
現在の日本では、CBDは基本的に医薬品扱いではない為、その様な方々は個人でCBD製品を使用しており、中にはCBD単独では症状が改善しない為にフルスペクトラムのCBD製品を使用している方もいます。
そして、それらの方々が使用している製品に含まれているTHC量は、現在の日本における基準値以下の合法的な物です。
しかし仮に今回の低過ぎる基準値を採用した場合、先に記したようにCBD製品の入手が困難になります。
更には、フルスペクトラム製品でしか治らないてんかんに対しては、様々な成分の内どの成分がてんかんの治療に寄与しているのか不明であり、仮にフルスペクトラム製品からTHCのみを抜いた製品を作ったとしても、それが以前と同じ治療効果を発揮する十分な保証はありません。
その為、現在難治性てんかんを抱えている人々の生活に多大な悪影響が生じ、更にはてんかんの頻発に伴う重大な病気を併発してしまうおそれがあります。
2 CBD製品の闇取引化と、それに伴う品質の低下
上記の通り、CBD製品を自己治療の為に使用する方々もいる中でCBD製品を規制するような法案を採用してしまうと、自身の命を守る為に非正規の方法でCBDを入手しようとする人が現れる事は自明の理です。
たとえCBD製品が実質規制の形になったとしても、特に命に関わるような需要がある場合においては、これまでの危険ドラッグと同様に規制を逃れるような形で流通する可能性は十分にあると思われます。
そして非正規で流通する場合、それまで必須であった成分検査の必要が無くなる為、従来の品に比べて粗悪な品が出回り、混ぜ物や違法薬物の混入等による健康被害が生じるおそれが生じます。
3 医療費の圧迫
先の難治性てんかんだけでなく、CBDは睡眠障害や不安感・緊張感の緩和の為に使用される事の多い製品です。
従って、その製品の流通が滞ると、代替品として処方薬に頼る人々が現れる事は明確であり、それまで必要のなかった医療費を余計に生じさせる原因となります。
総じて、現在CBD製品が流通している状況において、それに伴う重大な健康被害や社会的悪影響は報告されていないかと存じますが、この流通を規制した場合に生じる社会的な悪影響ははかり知れません。
最悪の場合には、てんかん患者の病状の悪化や粗悪なCBD製品の非正規な流通による健康被害等、国民の保健衛生に悪影響が生じる可能性も十分にあります。
従って、根拠となるデータに欠ける現状においては、日本独自の低過ぎる基準値を設けるのではなく、既に社会的な運用ができている海外の前例に倣うべきであると考えます。
そして、今回の基準値を設けるにあたり参考にされたのが欧州食品安全機関の定めた急性参照用量なのであれば、実際に欧州で設けられている基準値である0.2%を全ての製品および原料の基準値として採用する事が妥当であり、既存のCBD業界とのトラブルを防ぎつつ、THCを規制する最も現実的な方法であるというのが私の意見です。