アヤワスカは最強の薬となるか?~第1章,アヤワスカ、DMTって何?~
1-1,アヤワスカとは
「民族儀式とかに使われる幻覚剤です!」
とか言うとドン引かれる事山の如しなので、以下にきちんと説明をします。
アヤワスカとは、宗教的儀式の為に用いられる、催幻覚成分を含む植物をドロドロに煮込んで作られる飲み物です。
これはペルー等のアマゾン北西部において、宗教的儀式や医療行為を行う「シャーマン」と呼ばれる人々が作り、また儀式を行う際に、現地文化でいう先祖や精霊と対話する為に用いられる物です。
幻覚剤は多くの場合、各国の法律で規制されている事は、これをお読みの皆様ならご存じの事でしょう。
アヤワスカは幻覚を引き起こす飲み物ですが、これに含まれる「DMT」という物質は、世界においては「向精神薬に関する条約のスケジュールI」という麻薬カテゴリに入れられ、また日本では「麻薬及び向精神薬取締法における麻薬」として、所持・使用が禁止されています。
しかし一方で、「DMT」を含有する動植物の所持や使用は規制がされておりません。(その理由は後述します)
また、ペルーではこのアヤワスカは文化遺産に指定されており、その使用についても「向精神薬に関する条約 第32条4項『含有する植物の自生国における伝統的な宗教儀式への使用は規制から除外する』」(要約:「伝統宗教儀式としてなら使っていーよ!」)という理由で特別に使用を許可されています。
アヤワスカの見た目は黒くドロドロしており、味は非常に苦くて臭いと言われています。
飲むとほぼ必ず吐き気を催し、そして大抵の場合は吐き、また下痢を起こす事が知られていますが、現地ではそれを「浄化」と見做し、またそれに伴う神秘的な幻覚を見る事で、儀式や民間医療を摂り行っています。
1-2,アヤワスカの成分①含有植物
アヤワスカは主に、以下の①②の中からそれぞれ1種、もしくは2種以上の植物を組み合わせ、更に別の植物等を加えて煮込む事で作られます。
メイン植物①
サイコトリア・ヴィリディス(Psychotria viridis)
(チャクルーナとも呼ばれる)
ディプロプテリス・カブレラナ(Diplopterys cabrerana)
(チャリポンガ、チャクロバンガとも呼ばれる)
(アヤワスカ・アナログの場合)
ミモザ・テヌイフローラ(Mimosa tenuiflora)
アカシア・コンフサ(Acacia confusa)
ハイクサネム(Desmanthus illinoensis)
ビロラ・カリフィラ(Virola calophylla)
メイン植物②
バニステリオプシス・カーピ(Banisteriopsis caapi)
(ヤヘとも呼ばれる)
(アヤワスカ・アナログの場合)
シリアンルー(Peganum harmala)
チャボトケイソウ(Passiflora incarnate)
(植物ではないけれど「MAO-A阻害剤」もここに含まれます)
これらの他に、タバコ葉や、時には他の葉を混ぜる事もあります。
メイン植物①の植物達は、再幻覚成分である「N,N-ジメチルトリプタミン(通称DMT)」を含んでおり、メイン植物②は「ハルマラアルカロイド」と呼ばれる成分を含んでいます。
1-3,アヤワスカの成分②DMTとハルマラアルカロイド
アヤワスカは、主に以下の2成分がメインとして働く事で幻覚を見せています。
・N,N-ジメチルトリプタミン(以下DMTと呼びます)
・ハルマラアルカロイド(MAO阻害剤。後述します)
その他成分が含まれている事もありますが、アヤワスカとして幻覚を起こすのはこの2成分の働きです。
それでは、以下に2種の説明を。
DMT(N,N-ジメチルトリプタミン)
アヤワスカに含まれる代表的な催幻覚成分です。
DMTはアルカロイドと呼ばれる構造を持つ物質で、植物や動物の体内等、自然界の様々な物に含まれています。
実はDMTはヒトの体内にも微量に存在していて、入眠時、もしくは低酸素状態に陥った時に多く分泌されます。
ヒトにおけるDMTの効果としては「低酸素状態の時に脳を保護する効果」が知られています。
例えば死にかけて身体が低酸素状態に陥った時、肺からDMTが大量に合成されて脳へ届き、酸素が少ない事による細胞への負荷や死から脳細胞を守るよう、遺伝子やタンパクの発現(簡単に言えばそれらの量)を調節する役割を持っています。
(しかしDMTは幻覚物質である為、これが脳に届くと幻覚を見てしまいます。
ちなみにDMTの見せる幻覚は、神や精霊、上位の存在と遭遇するような非常に神秘的な感覚を伴う事が多く、これが死の淵に瀕した人が体験すると言われる「臨死体験」の原因なのではないかと、一説として言われています。)
ハルマラアルカロイド
もう一つの成分は、ハルマラアルカロイドという成分で、具体的な名前としては「ハルミン」「ハルマリン」等があります。
こちらも植物・動物・ヒトの体内など、自然界に広く存在しています。
ハルマラアルカロイドは、ざっくり言いますと「DMTがちゃんと脳まで届くように」入っている成分です。
実はDMTだけを飲んでも基本的に幻覚は見ません。
DMTは主に胃腸、そして脳の中で「モノアミンオキシダーゼA」と呼ばれる酵素により分解される為、効果を発揮する前にバラバラに壊されてしまいます。
モノアミンオキシダーゼAというのは、神経の伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンを分解して、増え過ぎないように調節している酵素ですが、DMTはセロトニンとよく似た構造をしている為、この酵素がDMTを分解してしまうのです。
ですので、DMTだけを飲んでもダメという訳です。
そこで、この「ハルマラアルカロイド」が役に立ちます。
この成分は、モノアミンオキシダーゼAを働かなくさせる「モノアミンオキシダーゼA阻害(MAO-A阻害、もしくはMAOI-A)」という効果を持ち、飲んでしばらくの間モノアミンオキシダーゼAが働くのを抑えてくれる働きを持つのです。
その為、アヤワスカはDMTと一緒にハルマラアルカロイドを摂る事で、DMTが脳まで届き、幻覚を見られる様にしているのです。
1-4,アヤワスカの成分③成分濃度
アヤワスカに含まれるそれぞれの成分の濃度は、一般的に
DMT:0.5mg/kg~1.76mg/kg
ハルマラアルカロイド:0.5mg/kg~5mg/kg
とされており、基本的に、DMT濃度が高い程ハルマラアルカロイド濃度は少なめ、DMTが低い程ハルマラアルカロイド濃度は高めになるようです。
……しかし、文献ではこの様に書かれてありましたが、日本におけるユーザーの話を聞く限り、ハルマラアルカロイドの代用であるMAO阻害剤を用いる事で、更に高い濃度のアヤワスカを作っている人もいるようです。
ちなみにDMT単体でも、スニッフィング(鼻から吸入)や静脈注射をする事で幻覚を引き起こす事ができ、文献によると
・静脈注射の場合
低用量:0.01~0.05mg/kg
高用量:0.2~0.4mg/kg
・喫煙、吸入の場合
平均1回量:40~50mg(60kgのヒトの場合0.7~0.8mg/kg)
となるそうです。
ただ、私はDMT単体で使用された方の話を聞いた事が無いので「あくまで文献によると」の数字ですが……。
1-5,アヤワスカを飲むとどうなるの?
(注意!この部分は「1-7,アヤワスカ・アナログ」における「アヤワスカ・アナログ」を使用した際の感想を元に説明しております。
「アヤワスカ」と「アヤワスカ・アナログ」の違いにつきましては、先にそちらの項目をお読みください。)
個人差はありますが、アヤワスカの幻覚効果は飲んでから30~40分後から始まり、成分の濃度により少なくとも1時間、最大で6時間程続きます。
(ちなみに、DMTをスニッフィング、もしくは静脈注射した場合は吸った(打った)後すぐに幻覚が始まり、30分程続くそうです)
【ここ重要】
アヤワスカを飲んだ際非常に重要な事として、「吐き気」「寒気」「意識の混濁」が伴います。
事前に吐く用のビニール袋やタライ等を用意しておき、またアヤワスカが効いている間は物事を上手く考えられなくなりますので、必ず部屋を暖かい状態にし、火気は必ず消し、刃物や尖った物は置かない様にしましょう。
さて、幻覚というと、目を開けた状態で目の前に見えている物が色とりどりに見えたり妖精さんが現れたりするイメージがありますが、アヤワスカが見せる幻覚は、それとは全く異なります。
アヤワスカは主に「閉眼幻視」といって、目を閉じる事で、意識を保ったまま夢を見る様に幻覚を見ます。
また面白い所として、個人により異なるのですが、アヤワスカの幻覚は第1フェーズと第2フェーズが存在し、「カラフルに彩られた万華鏡の様な幾何学模様(第1フェーズ)→若干のストーリー性のある、非常に神秘的な夢の様な幻覚(第2フェーズ)」と移行して幻覚を見ます。
(これは個人の主観なので、万人に共通する訳ではありませんが……。)
各フェーズについて説明します。
まず第1フェーズの幾何学模様ですが、言葉で説明するのはとても難しいので、お手持ちのスマホで「DMT」と画像検索してみてください。
出てきた画像が360度展開される、幾何学模様の世界に放り込まれるのが第1フェーズです。
さて、それらの幾何学模様の一つ一つが何か啓蒙的な意味がある様に感じられたりして、それらを感動しながら眺めていく内に第2フェーズに入るのですが、そこでは幾何学模様を交えながら、花や空や、場合によっては虫や髑髏などといったモチーフが出現します。
また、ヒトより高等な存在に遭遇したり、自身の精神の深遠を垣間見たりする、神秘的な体験をするのもこのフェーズが多い気がします。(あくまで個人の主観です)
この時の幻覚は幾何学模様の完全な幻覚というよりは、起きながらにして見る夢のようなもので、目を閉じる事で意識を保ったまま不思議なストーリーを見ている様な幻覚を見ます。
これら2つのフェーズに共通するのが、高容量を飲まない限り目を開けた状態では幻覚は見えない事、
そして何より、アヤワスカの見せる幻覚は、単に物の見え方が変わるのではなく、意識や思考、感情、または無意識そのものが変容し、映像化して目の前に現れる事です。
その為、使用者が恐怖すると幻覚もそれに伴ったおどろおどろしいものに変わったり、また不適切な場所での使用や用量を守らない使用(特に高容量)により、錯乱を起こし暴れる事もあります。
1-6,アヤワスカの法規制
……と、そんな凄まじい物ですので、アヤワスカの主成分DMTは「向精神薬に関する条約」という国際的な条約でその所持と使用が制限され、また日本では麻薬及び向精神薬取締法における「麻薬」として規制されています。
一方で、「DMTを含む自然物を所持・使用する事」に関しての規制は現時点で特に定められておらず、国際麻薬統制委員会(国際連合の機関の一つ。国際的な薬物の条約を決めている。)においても、DMTを含む植物は規制対象とされていません。
理由の1つとして、DMTはヒトを含む多くの動植物の体内に存在する為、これを規制するとヒトを含めた大量の動植物種が日本から姿を消す事になるからです。
例えば、日本の和歌に詠まれたヤマハギもDMTの類似物である5-Meo-DMTが含まれていますし、レモンやオレンジの果汁にもDMTがほんの少量含まれています。
その為「DMTを含有する物」についての規制は中々難しいのではないかと思われます。
また、アヤワスカそのものについても、アメリカやブラジルでは「伝統的な宗教儀式としての仕様であればOK」として、宗教的儀式におけるアヤワスカの使用を認めています。
ちなみに、日本ではアヤワスカを使用する宗教が存在しない・もしくは明るみになっていない状況ですので、日本におけるアヤワスカ使用の可否についてはそもそも議題に上がった事が無い為不明です。
しかし、法で規制されていないDMT含有植物(アカシア・コンフサ等)を所持する事・それらをお茶として飲用する事についての可否については、2020年8月現在、丁度その裁判が行われている真っ最中です。
1-7,アヤワスカ・アナログ
先程からチラホラ出て来た「アヤワスカ・アナログ」、こちらはアヤワスカを語る上で重要な事ですので説明しなければなりません。
そもそもアヤワスカという言葉は、「アマゾン北西部で伝統的儀式に使用される幻覚剤」です。(更に狭義で言うと「アヤワスカの原料の一つであるバニステリプシス・カーピ」を指す言葉です。)
アヤワスカは「“伝統的儀式に使用される”幻覚剤」であり、元は民族的宗教と密接に繋がった、宗教的に神聖な物とされています。
その為「本来の意味での、飲み物としてのアヤワスカ」を飲むとなると、現地へ赴き民族儀式に参加しなければならなくなります。
しかし、アヤワスカの幻覚作用は既に「DMT+モノアミン阻害剤」として知られている事、また「1-2,アヤワスカの成分①含有植物」で記した通り、主要成分を含む植物もしくは薬品を組み合わせる事で「アヤワスカと同成分の幻覚剤」を作る事が誰でも可能な事から、「アヤワスカと同じ作用をする飲み物=アヤワスカ・アナログ」が生まれ、このアナログが各国で広まりました。
現在各国の個人使用者が使用しているのは主にこの「アヤワスカ・アナログ」です。そして私もその一人としてこの文章を綴っています。
「1-5,アヤワスカを飲むとどうなるの?」の内容は、「アヤワスカ・アナログ」の体験を基に記載しています。
また仮に「アヤワスカ」と同じ原材料を使用されている方でも、そこに宗教的意味合いをもって使用しているかどうかは不明である為、“宗教的儀式に使用する飲み物”としての「アヤワスカ」の意味に該当するかどうかは不明です。
アヤワスカ・アナログ使用者においては、そこに宗教性を見出す人々もいれば、娯楽用途で使う人々、もしくは医療に使えないかと研究している人々もいます。
勿論、私個人がそれについて言及したり、ましてや善悪を判断する事はございません。
1-8,このnoteにおける「アヤワスカ」の定義
さて、その上で、このnoteにおける「アヤワスカ」という言葉の定義をさせて頂きます。
このnoteでは、
「アマゾン北西部の宗教的飲料としてのアヤワスカと、アヤワスカ・アナログを区別せず、DMT+MAO阻害剤の組み合わせを『アヤワスカ』と記載します。
また、バニステリプシス・カーピという植物種は「アヤワスカ」と記載しません。」
とさせて頂きます。
現地の方々からすれば不敬極まりない纏め方ですが、理由としまして
・論文に記載されている物は「アヤワスカ」「アヤワスカ・アナログ」問わず全て「DMT+MAO阻害剤=アヤワスカ、と称している」
・「アヤワスカ」と「アヤワスカ・アナログ」の境界線が曖昧で、それらを区別すると「これはアヤワスカに違いない」「これはアヤワスカではなくアヤワスカ・アナログだ」という線引きの問題となってしまい話が進まなくなる
という都合上、大変杜撰ではありますが、このnoteでは以降「DMT+MAO阻害剤」を「アヤワスカ」と呼ばせて頂きます。
今回はここまでお話しました。
次回は「アヤワスカには抗うつ作用があるのではないか」というお話を、ヒトで実験した論文を元にお話していこうかと思います。
追記1:「1-5,アヤワスカを飲むとどうなるの?」で説明した幻覚の内容ですが、身体的な吐き気や寒気は共通しているものの、幻覚の内容につきましては個人差があります。
ここに書いてある事と全く同じ体験をされる方も、全く違う体験をされる方もいらっしゃるかと思います。
この様な幻覚剤は個人の精神状態に大きく左右されるものですので、幻覚の内容につきましては「あくまで個人の主観による説明」である事をご了承ください。
追記2:現時点で行われているアヤワスカ裁判の判決が決定するまで、アヤワスカ関連の物は手放しております。
その為、材料等の譲渡は出来ません。