【医学生が経営を考える場に参加できたら】病院って赤字で大丈夫?若手医師・医学生が考えてみた[ペアMTG じろう×ぎょうざちゃん]
本記事は「病院って赤字で大丈夫?若手医師・医学生が考えてみた」というテーマに対して、じろうとぎょうざちゃんがペアMTGを行い、それで得た発見や感想をまとめたものです。
テーマ設定の背景や目的を先に読んでいただけるとより楽しめると思います。
「42の国立大学病院のうち32病院が赤字見込み」―――この衝撃的な数字から、今回の座談会は盛り上がりました。医学生にとって馴染みのない話って語りあう意味はあるの?そんな疑問から始まります。
医学教育における経営視点の欠如
私たち医学生の日常は、解剖学、生理学、薬理学など、膨大な医学知識の習得に追われています。臨床実習が始まれば、診察手技の習得や症例の勉強に没頭する毎日です。カリキュラムは過密を極め、国家試験の合格という大きな目標に向かって、ひたすら医学の勉強に特化した生活を送っています。
そんな中で、「病院経営」や「医療経済」について学ぶ機会は、カリキュラムの中にほとんど組み込まれていません。時折、外来実習中に診療報酬点数や病院経営について触れてくださる指導医の先生がいらっしゃいますが、正直なところ、「医業損益」「診療単価」「不採算地区病院」といった専門用語は、私たち医学生にとってはあまりにも縁遠い世界の言葉です。専門用語を使うゆえに、その専門用語を使えない医学生はよりそのテーマから距離を置いてしまう、これはいろんな専門領域で起きていることで、教育の観点からはすごく勿体無いことを専門家はしているのかもしれません。
経営の話って何を語り合えばいいか?
病院経営について考えることは、「医業損益」や「診療単価」といった専門用語で語られる財務の話だけではありません。確かに、経営という言葉を聞くと、ともすれば単なるコスト削減や収益増加の手段として捉えられがちです。実際、経営改善の名の下に、必要な医療サービスが制限されたり、医療スタッフの負担が増加したりするケースも見受けられます。
しかし、本来の経営とは、限られた資源を最適に配分し、組織の理念を実現していくための重要な営みのはずです。経営について考えることで、私たちは「良い医療」の定義を広げることができます。そのために例えば以下のような話題も上がると思います
医療者が心身ともに健康に働き続けられる環境づくり
患者さんの経済的負担も考慮した適切な医療の選択
地域の医療ニーズに合わせた効率的な医療資源の配分
持続可能な形で質の高い医療を提供し続けるための仕組み
立場によって取り上げたいと思えるテーマや改善してほしいと思うテーマも違うわけで、医療者、経営側、患者側、地域側、それぞれの立場で願うことは違います。それらの一致点はどこか?多様なテーマから見つけていく中で、その地域における「あるべき医療の姿」を考える貴重な機会となります。
医学生からはじめる新しい対話
では、まだ臨床現場に出ていない私たち医学生に何ができるのでしょうか。先ほど述べた通り、立場によって取り上げたいと思えるテーマ、改善してほしいと思うテーマは違います。
現場の医療者の声:日々の診療で感じる課題や改善点
患者さんの視点:医療の質と負担のバランス
地域住民の意見:地域に必要な医療機能の優先順位
経営側の視点:持続可能性を確保するための方策
若手医療者や学生の意見:次世代の医療を担う立場からの提案
そのため、様々な立場からの対話と合意形成が不可欠です。
私たち医学生にもできることがあるとしたら、日々の実習の中で、単に医学的な視点だけでなく、「なぜこの治療法が選択されたのか」「この医療資源の使い方は効率的なのか」といった専門に偏っていない立場から率直に感じた感想を元に意見交換をしていくことは挙げられます。指導医の先生方との対話を通じて、「この診療科ではどのような工夫で働き方改革を進めているのですか?」「地域医療を守るために、どのような取り組みをされていますか?」といった質問を投げかけ、医療現場の実態をより深く理解することもできます。
おわりに
75%以上の国立大学病院が赤字という現実は、医療界全体が直面している課題の深刻さを示しています。しかし、この危機は、医療現場の未来について、より広い視点から対話を始める機会にもなり得ます。
経営の視点を学ぶことは、単に収支を理解することではありません。それは、医療者、患者、地域住民など、様々な立場の人々が集まり、理想の医療の形について語り合うための共通言語を得ることでも可能です。
残念ながら、私たち若い世代がこの対話に積極的に参加する機会が乏しいですが、だからこそそういうテーマを取り上げて対話をする場の希少性は高まります。今回の座談会での学びもとても大きかったのも、医学教育でそういう場を作れていないことの裏返しとも考えられます。また違うテーマでも医学生が扱ったことのないテーマを話し合うことを積み重ねていきながら、私たちのなりたい医療者像を探求していきたいと思います
ぎょうざちゃんから記事への感想
医学生がなぜ病院経営から縁遠いのか、また教育現場においてどういう授業が求められるかなど、実際に医師として現場を見る医療者だからこその視点で記事を書かれていてとても参考になりました!
明日からの実習でも、病院経営の視点を少しでも加えて先生とコミュニケーションをとってみたいと思います。