回復期リハ病棟で歩く練習したらすぐ息切れする対象者。あれはなぜ?どのぐらい歩かせて良いの?
1.回復期リハ病棟って皆、息切れしているの?
タイトルにもありますが、回復期で歩く練習は誰もが1日1回は行ないます。
1日6人前後のリハビリの対象者の方々の中には、部屋からリハビリ室まで行くと「はぁはぁ」と息切れしている方もおられます。距離にして100m程度でしょうか。そして血圧を測ってみると、150とか180の数値で「一度横になりましょう」と声をかけていませんか?本当にそれで良いのでしょうか?
私は長く急性期で勤務していました。回復期はまだ4年目ですが、なぜか息切れの方々をよく目にします。それも大腿骨頸部骨折の骨折だけの方や脳卒中の方と様々。急性期に所属している時はそんな事なかった記憶。なぜこれ程にまで息切れの方々をリハビリする事が増えたのか?それは回復期リハビリ病棟というシステムや環境の問題もありそう。でもその話はいつかまた。
さて、回復期リハ病棟入院中の対象者が『体を動かすと呼吸が苦しい』と訴えています。どのようなリハビリテーションを提供していますか??既往歴にはCOPDと記載あります。疾患は大腿骨頸部骨折、人工骨頭置換術後にします。通常、運動器リハビリをしなければなりません。しかし息切れが阻害因子でなかなか歩行練習が進みません。どうやって運動器リハビリに工夫を入れますか?
・腹式呼吸練習
・頸部や肩甲帯の筋リラクゼーション
・口すぼめ呼吸
たぶん間違えではなく、標準的なアプローチと考えます。では効果判定はどうやって行ないますか?
・Borgスケールが下がった
・バイタルサインが安定した
・僧帽筋上部線維の筋緊張が改善した
・腹式呼吸になった
アウトカムをしっかり評価する事は、当たり前ですが、考えていた結果になりましたか?
どの疾患、リハビリテーション、医療を行なう上で全て通ずることになるので、しっかり評価を行いましょう。
2.COPDは正常とは違うこと
リハビリテーション対象者のメジャーなところは、運動器と言われる整形外科疾患(骨折など)と脳血管と言われる脳卒中疾患がある。
運動器は骨折して、人工関節に置換する。
既にお分かりかと思いますが、我々の下肢と違い、人工物が入っているということ。それによる関節可動域制限や脱臼のリスクがある事は、容易に想像できる。
脳血管は脳内の血管が詰まる、もしくは破れる事で中枢神経を破壊する。我々の脳とは違い、上手く機能しなくなる。そして麻痺や高次脳機能障害が出現する。
これらから、COPDを置き換えるとどうなるのでしょうか?
・横隔膜下位で平坦化
・円背など姿勢アライメント不良
・呼吸補助筋の過緊張
このように肺がすでに過膨張し、息を吸う余裕がない特徴ある対象者に、腹式呼吸の指導やリラクゼーションは、本当に効果あるアプローチなのでしょうか??
極端に言うなら
人工関節を入れた患肢を正常範囲まで関節可動域を拡大させる
脳卒中で障害された麻痺手を反対と同じように動かす
どちらも必要なアプローチですが、リスクを伴ったり、経験的に難しい事もわかります。
COPDの対象者に対するリハビリテーションも一緒で、やるべきであるアプローチで、1番に考えることは👇
*呼吸がしんどくない範囲で運動を行う
*呼吸かしんどくなる前まで運動を行う
この背景には一度破壊された肺胞は再生できない事である。これも脳損傷と類似するところがありますね。神経細胞は可塑性もありますが、肺胞はご存じの通り可塑性は明らかでありません。
ただし、この考え方も臨床上、難しい事を経験します。
・バイタルサインはまったく変動ないのに、なぜか息切れ
・自覚症状なく、平静な表情されているのに、バイタルサインが変動
例えば歩行練習を継続するか、中止するか本当に悩みます。私は悩んだ時点で、運動負荷が高かったと判断しています。まずはリスク回避。上記記載しました、自覚症状や他覚症状が出現する前までの運動を繰り返し行う事が重要と考えます。もちろんいつまでも低負荷高頻度で行なっていても、回復期リハ病棟は、退院というGOALがあるので、どこかのタイミングでまた評価していかなければなりません。
大事なのは、1次障害で起こる換気能力障害よりも2次障害で起こる不活動による廃用症候群をいかに断ち切るかが、呼吸リハビリテーションの基本と考える。
3.呼吸リハビリテーションのアウトカム
今後記載予定
4.呼吸リハビリテーションの実際
前項で述べたようにまずは2次障害を断ち切る事が優先される。そこで何をするかと言うと、運動療法や生活指導になり、原点に戻るということになります。
結論から述べると
呼吸(息切れ)に慣れる
です。
体育会系の根性リハビリになる。
(1)筋力増強練習
①筋収縮様式
(求心、遠心、等尺、等張、CKC、OKCなど)
②運動速度
(経験的にこれができていない対象者、そして指導者が多いのでポイント)
③栄養
(昨今のリハ栄養がクローズアップされ、エビデンスにもなっているが、運動には必須)
④運動強度と質と頻度
(低負荷高頻度がベーシックも高負荷低頻度もエビデンスが構築してきており、対象者によって区別すべき。臨床上、高齢者も多く、低負荷高頻度から開始する事が多い。ただお互いに満足感が低く、継続性は乏しい。)
なぜCOPDの対象者に筋力増強練習が必要なのかは、こちらを参照👇
Hugh Jones分類で進行する程、筋力低下は明らか。
(横山仁志他:慢性肺疾患患者の下肢筋力水準.平成16年度 高知リハビリテーション学院紀要 第6巻:1-5,2004.)
筋力が2倍増えると、下肢と呼吸の努力は25〜30%の減少と仕事能力の1.4〜1.6倍の増加に関連。
(Hamilton AL, Killian KJ, Summers E, Jones NL. Muscle strength, symptom intensity, and exercise capacity in patients with cardiorespiratory disorders. Am J Respir Crit Care Med. 1995 Dec;152(6 Pt 1):2021-31. )
このように運動療法を行なって、筋力や体力をつけて、息切れになれる。
そして、最終的に日常生活動作や活動性が増え、息切れという不安を払拭するのが、リハビリテーションと思います。
出来るだけ『自ら進んで運動して外へ出る』といった行動まで変容できるようにしたいですが、臨床上ここが一番難しいですね。
いかにモチベーションを保てておくかが鍵です。
(2)横隔膜呼吸
これやったら分かるんですけど、我々も完璧に習得できてる?というぐらい解剖学や運動学の知識、また自分に意識を向ける注意力が必要で、正直臨床上、かなり認識が良い対象者の方(軽症、安定期、ボディーワークが好きなど)しか上手くできないのが経験である。
効果として👇
・1回換気量増大し、呼吸数が減少
・呼吸効率改善
・呼吸補助筋の筋活動減少
・呼吸困難改善
と様々な良い効果が報告されていますが、エビデンスとして強い結果がある訳ではないので、やはり対象者を含めた選択は必要である。
(3)口すぼめ呼吸
どちらかといえば、臨床上こちらを指導する事が多い。
横隔膜呼吸と違い、比較的再現性が高くできる。
効果も横隔膜呼吸と同じように報告されているが、こちらもエビデンスとして、強い結果がある訳ではないので、やはり対象者を含めた選択は必要である。
<方法>
鼻から息を吸う→口をすぼめて息を吐く→徐々に吐くほうを長くし、吸う2倍の時間を意識する
👍ポイント👍
呼吸だけでないが、急性と慢性のものがある。
一番わかりやすいのは、急性心不全と慢性心不全。
急性心不全は救急で命に関わる増悪な状況で、慢性は入退院を繰り返して増悪と緩徐な状況です。
呼吸リハビリテーションに至っても、ここは外せない。
急性呼吸不全の対象者に呼吸リハビリテーションやここまでに記載した内容を行なうことはリスクである。
きちんとフィジカルアセスメント(評価)が優先である。
急性呼吸不全:元の状態に戻す
慢性呼吸不全:悪くなるスピードを遅くさせる
5.まとめ
今回は、息切れをクローズアップさせ、COPDに繋げて記載してきました。息切れの原因はこれだけでない為、もっと視野を広げないといけません。例えば有名どころは、心不全ですね。これも社会問題に発展している為、これから回復期リハ病棟に入院してくる対象者の中には、既往歴にある可能性も高いと考えられます。またこのお話も記載していきます。
それでも結局のところ、息切れひどいから歩く練習ができないというよりも、息切れしない範囲で歩く練習をする。それが理学療法士や作業療法士が歩く距離、歩く時間、休息時間などをしっかりハンドリングしてあげる。これが最も重要ですね。これが専門職としてのスキルかと考えます。