【医学部生向け】初期研修の病院の選び方
はじめに
初期研修の病院選び、結局何がポイントなんだろう…という人のために、いろんな研修医の人に聞いてきた「研修病院を選ぶポイント」をまとめておきます。
よく聞くテーマを思いついたままに書き並べているので、興味のある所を読んでいただけると幸いです。
まず何を重視するのか
初期研修選びにおいて、大きな分岐はまず、ハイポ病院かハイパー病院かでしょう。ハイポとは「低い状態」を示す言葉で、初期研修の文脈においては研修医が暇なことを指します。ハイパーはその逆で「高い状態」、研修医が忙しいことを表します。
ライフワークバランスを重視する人はハイポ病院を、技術の研鑽を重視する人はハイパー病院を選びましょう。
ハイポ病院を推す意見としては、結局専門性が大切で、どこの研修病院であっても10年後には大差ない、というものがあります。一方、ハイパー病院を推す意見としては、鑑別疾患を充分に上げられることや基本的な手技などの「医師としての基礎体力」は初期研修のうちにしか身につかない、というものがあります。
この「基礎体力」は大きく分けて知識と手技に二分されると考えられています。知識面に関しては、救急でいろんな症例を診ることが重要で、病棟業務はそれほど重要でない(施設間の差が大きいため)という意見を聞きましたが、手技に関してはかけた時間だけ身に付くものなので、分かりやすい中庸はなさそうです。
自分の人生で何が大切かを考え、まずは自分がハイポ寄りなのか、ハイパー寄りなのかから考えてみましょう。
給与に関して
ハイポでもハイパーでも、給与は多いに越したことはないと思います。
少しでも給与の高い病院を探したいという人もいるかもしれませんが、給与に関する重要な情報として、公開されている情報はほぼすべて概算というものがあります。具体的には、ボーナスや時間外手当も含めたトータルの値が「年収」として表記されています。例えば、当直・日直の回数が多かったり、時間外労働が多かったり、いくら高額でもなお労働時間に見合っていない給料である可能性もあります。
基本給(時間外給与などを除いた「定時での給料」のこと)を明記しないことは厳密には違法であり、今後是正されてゆくでしょうが、今のところは正確な情報を手に入れるには一次情報、つまりは研修医の人に聞くしかないようです。
給与は見た目が分かりやすい反面、落とし穴も多いです。十分に注意しましょう。
研修プログラムに関して
初期研修の枠組み自体が実は病院によって違います。具体的には、何科をどれくらいの期間回るのかは、病院によって多少異なります。
まず、厚生労働省の定めた必須の科・期間が存在します。これが合計でおよそ1年弱になります。
残りの期間は病院の裁量になっており、さらに細かく回る科を指定している病院もあれば、必修以外は研修医が回りたいところを自由に決めて回れるという病院もあります。
すでに専門にしたい科が決まっている人はその科を多く回れる病院がいいでしょう。
ちなみに、地域医療研修が必修として含まれており、どこへ行くのかは病院によって異なります。沖縄や長崎などの離島へ行く病院もあるそうなので、これを研修医の先生に聞いてみるのも面白いかもしれません。
医局とシーリング制度について
医局やシーリングについては、初期研修ではあまり関係ありませんが、その後の専攻医になるときに重要になります。長いパートになるので、興味がない人は飛ばしてください。先を見据えて病院選びをしたい人は読んでみてください。
首都圏では影響力が弱くなってきたとも聞きますが、「医局」は依然として残っています。
医局制度とはざっくりいうと、各大学の各診療科(の教授)がそれぞれ人事権を持ち、後期研修医や所属する「医員(専門医)」を勢力下の病院に派遣するシステムのことです。このシステムは大学病院には権力をもたらし、その他病院にとっては安定した人材をもたらすので、地域によっては今でも「○○君、来年から△△で働いてね。」ということが行われているそうです。
この「医局の力」を弱めるために厚生労働省が採用したのが、現在の研修医プログラムです。病院ごとに研修医・専攻医を採用させることで、医局の人事権を奪いに行ったのです。しかし、こうなるとわざわざ田舎に就職をしようとする人がいなくなってしまいました。
そこで医師の地域偏在をなくすため、シーリング制度というものが考案されました。これは、ある診療科の医師がある都道府県で多い場合、その都道府県でその診療科の専門医プログラムの募集人数に上限を設けよう、という仕組みのことです。例えば、東京では精神科の医師が多いので来年の東京の精神科専攻医募集は全部で○○人に絞ろう、ということが決められます。
前置きが長くなりましたが、これが研修病院選びにどう関係するのかというと、専攻医になる際に再度大変な「就活」をしなくて済むようにすることができます。
専攻医の募集は各病院が行っていますが、やはりどの病院も自分の病院で初期研修をやっていた人を優先して採用しているそうです。シーリング制度によって専攻医での「就活」が難しくなりそうな人(首都圏などで働きたい人)は初期研修から専攻医をやりたい病院を研修病院に選ぶというのも一つの選択肢かもしれません。
病院の「強い科」は大切
ここの病院は○○科が強い、というのはなんとなく聞いたことがあるかもしれませんがそれがなぜ大切なのかはあまり知られていないです。
当然ですが、「強い科」は人数が多く、症例も多い傾向にあります。人手があると研修医に色々教える余裕がありますし、症例が多いと希少疾患を診ることのできる可能性も上がります。
また、様々な先生のキャリアを見ることができるのも大きなメリットです。子育てをしている人、研究をしている人、臨床を極めている人、他科から転向してきた人、さまざまなキャリアを見ることで自分のキャリアプランについてより深く考えることができるようになります。
内科か外科かの方向性がある程度はっきりしている人は「強い科」で絞り込んでもいいかもしれません。
意外と大切なこと
最後に、大きく項目を作るほどではないけど意外と大事なことについてまとめました。
①病院によっては当直代が出ない
「働き方改革」により残業ではなく残業代が無くなった病院が存在しています。少し上の先生だと変更を知らない可能性もあるので、必ず研修医の先生に聞いてみましょう。
②病院の診療科には注意
専門にしたい科がぼんやりとでも決まっている人はそのイメージの診療科が本当に存在しているのか確認をしましょう。小児科で手術をしたかったけど小児外科の先生がいなかった、大動脈解離を診たかったけど手術はほとんどがバイパス手術だった、など、診療科のイメージとその病院の診療科の得意分野が違う場合があります。もちろん病院見学に行けば分かりますが、事前に調べて分かるならその方がいいでしょう。
③研修医の人数
多すぎると団結感が薄まりますが、少ないと「おかしな人」がいた場合のストレスが大きいです。
10人前後がベストとの声が大きかったですが、個人差も大きいと思うので参考にしてください。
最後に
今回の記事では、初期研修病院を選ぶ様々なポイントについてまとめました。皆さんもぜひ、自分の価値観・人生設計にマッチした病院を探してみてください。
他にも医学部生向けに医師のキャリアについての記事を書いています。よかったら見てみてください。