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短歌12首|足りないものは

第70回角川短歌賞(角川『短歌』2024年11月号)にて予選通過した一連について、選考座談会で引いていただいた12首をまとめました。

滞納をしているひとの財布からはみ出している献血カード

ワクチンは役所(ここ)では接種できないと伝える 膝をついて何度も

しゃぼん玉に触れるみたいに滞納をしていたひとの遺族と話す

保険証まだあたたかくお悔やみのことばはそっと喉に戻した

遅滞なく死亡届は処理されてからだは土に土地は遺産に

そこに詩を書くなら無効票になる紙を一枚ずつ出す機械

うららかな春の真昼に配られる爆破予告の対処マニュアル

苦情主に氏名を控えられるとき旧姓は捨て垢に似ていた

市道(いちどう)のひとつひとつにほんとうは名前があってハルジオン咲く

公務員 ではなくきっと街だったわたしのなりたかったものは

いま都市の気持ちがわかる街路樹のように正しく薬を飲めば

振り向けば同期の謝罪 人間はときに角度で誠意を測る

「足りないものは」吉村のぞみ
角川『短歌』2024年11月号 p.90-92

伝えたかったことを選考座談会の中で丁寧に言葉にしていただきたいへん嬉しいです。ありがとうございました。
わたしはもう転職してしまったけれど、職業に関わらずすべてのひとが不当に傷つけられずに働くことができる社会を願っています。

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