短歌30首連作|インフラを脱ぐ 27 おもち 2024年8月13日 18:19 「塔」2024年6月号にて、塔新人賞候補作に選んでいただきました。ありがとうございました。品番のようなものとは知りながら旧姓で呼ばれる心地よさ人間は濡れるとすこしくさくなる雨の電車に靴湿らせて役職の重き軽きにかかわらずひとしく傘をふるわせる朝市役所を区役所と呼ぶひとのいて政令指定都市の横顔二十九の冬を越すには頼りない上着まるっと捨ててしまえりつくり手の顔の見えない土嚢にもつくり手 コンビニのパンがすきあどけない土嚢を載せて猫車こどもがいれば抱くのか、これを人柱として現場に立っている苦情がいつか凪になるまで八つ当たりをしていいひとと思われてこころの淵で堤を燃やすフロッピーディスクのように存(ながら)えることがこわくて爪を見ていた心にはさわれないから末席でひとりしずかに枝毛をさがす同期とも話したくない朝がありイヤホンこれはわたしの被膜好きな街から好きだった街になる川面に猫背ゆらめく午後に使命感なんてまぼろし空腹を白湯で満たせばもうあたたかいてきとうに描いた眉毛のうるわしく真面目なことは長所だろうか市役所を辞めると母に打ち明けてああゆで卵茹ですぎてゆくハンドベルひとり抜けてもこの曲はふたり抜けてもきよしこの夜聞き役に回れば母の言語野にわたしにはない墓園あかるい傍(かたわら)の窓をあければ隣人のペペロンチーノふと香りくるめりめりとインフラを脱ぐようにして作業着たたむ女子更衣室ずいぶんと染まっていたな作業着を三度洗えばこんなに青く川は血のようにわたしを脈々とこめかみをくるぶしを流れる読み返す詩集のように好きだったひとのうなじのかたちを思うあと何度雨が降っても会いに行く理由はなくて皮膚科の帰りあのひとの喪主にならずに生きてゆくわたしはわたしを選んだひとと初恋が夫よあなたでないことをほくろのように受け入れてゆく作業着をすべて職場に返しても翼をもらえるわけではなくてアスファルト影のとおりに濡れていて昨夜の雨のかたちと思う蛞蝓にそれぞれ進路のあることがうれしい雨後のブロック塀につくるものからそこに在るものになる都市計画課を離れれば 道塔 2024年7月号p.44インフラを脱ぐ/吉村のぞみ ダウンロード copy #短歌 #塔短歌会 27 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート