ソラを見上げて #22 ソラトビラ
―都内某所・病院―
(梅澤以外のメンバーを乗せた車が病院を離れていく)
別れ際に山下が必死に何か言っていた、気がする。今の私の体には何も残ってない。状況を判断する目も、声を聞く耳も、希望も、話したかった笑い話も、相談したかった乃木坂の未来も。全部、病室に落っことしてきた。
見えない何かが音を立てて崩れていった。空っぽになった体を引きずるように病院内をただ、歩いた。つい昨日まで笑いあっていた記憶は私が見た夢、幻だったのか。
梅:……
宛てもなくさまよい続けた先にあった階段。更にその先にあった鉄の扉。何故開けたのかは分からない。コンクリートの地面に足を踏み入れた瞬間、目の前にはおびただしい量の光と溺れてしまいそうな程の青い世界が広がっていた。
病院の屋上だった。降り注ぐ光の強さに目がくらみ、その場に倒れこむ。咄嗟に突いた掌に感じる痛み。それと共に伝わってくる熱が、私を徐々に現実に引き戻す。錆びついた部品を動かすように首を動かし、見上げる。
梅:なにが、青空だ……
(体制を保てず、仰向けで倒れる梅澤)
梅:未来があるはず?
次第に意識が鮮明になると同時に、怒りがこみ上げてくる。
梅:じゃあ久保の未来は? 私達の希望は?
梅:こんな……こんな時に晴れてんじゃねー!
(梅澤の叫びは青空に吸い込まれ、消える)
梅:久保の未来を奪って、なにが……空扉だ。返せ! 久保を返せ! 返して、よぉ。お願いだから……
梅:うぁぁぁぁぁ!
(屋上に響き渡る梅澤の慟哭)
この空には、夢も希望も 未来もない。
空扉なんて、存在しないんだ。
ーつづくー
【おまけ】