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「カラスの鳴き声について」



 小学校3、4年のとき、同級生に敷根君というカラスの声を真似るのが上手な男の子がいた。
 口に少量の水を含んで、うがいをするように声を出すのだが、本当によくカラスの声によく似ていて、皆が感心していた。担任の男の先生にも聞かせると、彼もやはり「上手いもんだ」と言って喜んだ。

 その後二十数年が経過。

 30代になった僕は、長野県上田市に住んでいた。
 カラスの声が聞こえると、たまに敷根君の顏が思い浮かんだ。

 だが、記憶の中の鳴き真似と実際のカラスの声は、どうも似ていない。

 敷根君の声は、トレモロがかかったような濁った「ガー」という声で、昔は似ていると思っていたのだが、果たして本当にカラスはそんな鳴き方をするのだろうか?
 そう思ったのも、ほんの一瞬のこと。それ以上こだわることもなく、調べてみることもなく時は流れた。

 鹿児島にUターンしてからのこと。上田にいた頃は一度も耳にしたことが無かったトレモロのかかったカラスの声を、何十年ぶりかで聞いた。

  ― 鹿児島のカラスと上田のカラスは、鳴き方が違うのだ! ―

  敷根君の顏が浮かび、深い感慨が押し寄せてきた。。

 やはり彼はカラスの鳴きまね名人だったんだ。それが実証されて、ちょっと説明の付かない嬉しさを感じた。

 それでも尚且つ鳴き声が違う原因について、よく考えようとはせず、単なる個体差だろう、くらいに軽く考えていた。まあ、鳥がどう鳴こうが、日々の暮らしに何の影響があるでなし・・・

 それからほどなく、カーラジオのスイッチを入れた時だった。ちょうどカラスに関する話をしている最中で、耳を傾けているうちに、長年感じ続けていたかすかな疑問が、すっきりと晴れることとなった。

 「ガー」と濁った鳴き方をするカラスと「カー」と澄んだ声を出すカラスは種類が違うのだ。

 濁った声で鳴くカラスは、都会では絶滅してしまったとのこと。何となく気なく見ているカラスに複数種があることなど、考えたこともなかった。

 「カー」と鳴くのが体の大きなハシブトガラスで、「ガー」と鳴くのがやや小ぶりのハシボソガラス。

 ハシブトガラスのほうが人に対する警戒心が強く、より凶暴。もともと森林部に生息していたが、近代化に伴い都市部に進出、急激に個体数を増やし、ハシボソガラスの生息地を脅かしているのだそう。

 その2種類のカラス。頭部写真を見比べると、気のせいか、凶暴なハシブトガラスよりハシボソガラスのほうが、可愛げのある顔付きに見える。

ハシブトガラス
ハシボソガラス


    ***  ***  ***


 最後に、動画を1本貼っておきます。

 15年前、夕方の空を撮影したもので、偶然2種類のカラスの鳴き声が録音されています。

 ①1分48秒からハシボソガラス、
 ②2分38秒からハシブトガラスの鳴き声が聞こえます。

 ③そして、2分45秒からカラスが飛び去って行く様子が映っています。
  ハシブトガラスに追い払われたハシボソガラスでしょうか?


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