見出し画像

「怪しげな店@天文館 ~ 15年前の元気なエピソード」

 来春には69歳になるという現在、健康に気遣いながら慎ましい生活を送っているが、15年前だとかなり様子が違ってた。健康上の不安も感じていなかったし、現在は経っているアルコールも、好きなだけ飲んでいた。

 その当時の、気ままな夜遊びの様子がチラリと日記に書き残してあり、なんとも懐かしい気分で読み返した。

 店選びを失敗したという、マヌケな失敗談に過ぎないのだが、過ぎ去った事として第三者的に見れば、馬鹿々々しくも面白い。
 
     ***  ***  ***

  2010年01月10日 日曜日
 あまり街では飲まないが、正月ぐらいはいいかな? というノリで,
連休初日の昨日9日、「南九州随一の繁華」天文館に出た。

 一旦夜の街に出てしまうと、くたびれ果てるまでハシゴを続ける習性がある。
 最近体調もよく、この夜も、困ったことに全く疲れることもなくメチャメチャ元気。飲んでいた店が終了すると、開いている店を探して彷徨うという行動が続いた。

 深夜2時ごろ、某ビル7階(だったかな?)のバーにふらりと入ると、第一声が、

「どんな店だかご存知ですか?」

「いや、全然知らない。ふらっと入っただけ」

「1時間半で9000円なんですけど、いいですか?」

「うん、いいよ。飲んでく」

 カウンター席に通され、若い女の子がやってきた。

 開口一番。

「きれいな女の子がそばにいると気分いいでしょ?」

そういって顔を近づけてきたが、

「・・・・・・」

 返す言葉がみつからない。

 まあ、容貌だけが全てというわけではない。気立ての良さやお喋で楽しませてくれればそれでよい。
 そう思って、その娘の出方を待つことにした。

 面白い話の一つや二つは、いつでも提供できるつもりではいる。
 しかし・・・、

 ぶっちゃけ、全然タイプじゃないから、わざわざこちらからアプローチする気にならんのだ。主役は客であるこちら。無理してまでホスト役に回るなんぞ面倒でしかない。

 ところが、


 この女の子、

 いっこうに話題を振ってこない。
 そればかりか、ふらふらとその場を離れてしまった。

 完全に待ちの構えでいるこちらに対して、話の振り方が分からないのかも知れない。
 プロとして失格だと思った。

 店の男の子に
 
 「これって職場放棄じゃん?」

 と言ってみたところ、小さく頷きながら困ったような苦笑い。
 その後、離席状態が続いた。

 金を払ったうえ、我慢して放置状態に堪え続ける必要などさらさらない。店は他にいくらでもあるのだ。

 レジの男の子に詰め寄って金を返してもらい、店を後にした。

 すると自分の背中をめがけて、なにやら凄んだ声が聞こえてきた。
振り返ると、

 般若のような険しい表情を浮かべた骨太の女性が立っていた。

 さっきの、サービス放棄のお嬢さんだ。

 「只飲みする気? 警察を呼ぶよ」

 「放置してるだけじゃん! それで金取るのか?」

 「あんたが面白くないからだよ」

 「それ、こっちのセリフだよ。 放置して、それがサービスと言えるか? 馬鹿馬鹿しくて金なんか払えないよ」

 「水割り飲んだじゃない?」

 「飲んでない」

 「飲んだのよ」

 「あ・・・、ちょっとだけ口を付けたか・・・。あんまりつまんないから飲んだことさえ忘れてたよ。いくら払えばいい?」

 「9千円」

 「9千円って・・・、10分もそこにいなかったんだぞ」

 「うちはそういう店なのよ」

 お嬢さんは、引き連れてきた店の男の子を責め始めた。

 「あんた、なんでお金返したりしたのよ!」

 男の子は、困って背中を丸めている。

 「じゃあ、千円だけ払おう」

 そう言って、若い女傑の手のひらに、千円札を捻じ込んだ。

 「9千円払ってよ」

 「水割り一杯で9千円って、そんな馬鹿な話があるもんか、警察を呼べ!」

 相手側から発せられた「警察」の二文字を、今度はこちらから返した。

 実質的な言葉のやり取りはこれで終了。

 「貧乏人! ここは、あんたみたいな貧乏人の来るところじゃないのよ!」

 そう言われてもねぇ・・・。

 「言われるとおり、俺は貧乏人だよ。
 仰せの通り、ここは俺の来るところじゃないと思ったよ。
 だから、店を出たんじゃないか。引き止めないでね。もちろん二度と来ないよ。それでいいだろう? バイバイ!」

    ** 

 この顛末は、次に入った店で、話のネタとして使わせてもらった。

 「ひどいですねぇ・・・、そんな店があるから困るんですよ。貧乏人なんて、お客さんに言うなんて失礼だし、それって、ただの負け犬の遠吠えですよ」

 カウンターで、僕の横にいた若い女性客。

 「ここは、そんなお店じゃないですよ」

 その笑顔に嘘のないことはすぐに分かった。

 聞くと、その小柄なお嬢さんの職業は介護福祉士(当方、現在介護の勉強中)。

 そんなわけで、その後は楽しいひと時を過ごせたのでありました。


いいなと思ったら応援しよう!