「カラスウリの実」
かつて、鹿児島市の小野町に、ハッチョウトンボが生息する沼地があった。高校生の頃、友達がそのことを教えてくれて、誘い合って、まるでアブのように小さなトンボを見に行ったことがある。歩きにくい足もとを気にしながらようやく、その姿を見つけたときの感動は忘れられない。
鹿児島を離れてから、その場所がどこだったのか記憶も曖昧になり、ときたま夢にまで見るようになっていた。
一緒に行った友達も、同じく鹿児島から離れていたので、彼にとっても、まるで夢のような思い出の場所となっていた。
Uターンしてのち、その友だちが思い出の場所をついに探し当て、誘われて一緒に行ってみたのだが、今では沼地は水が抜けて普通の草地になっていた。背後には高速道路が通っていたが、当事の面影だけは残っていた。
ハッチョウトンボはもういなくなっていたが、偶然見つけたのがカラスウリ。九州以外にも四国や本州の野山に自生するらしいが、東京に住んでいたころも、長野県でも見たことがなかった。
東京では、単に野山に出かけることもなかったから見なかっただけなのか、長野県は高冷地だから自生していないのか・・・、ちゃんと調べたわけではないが、とにかく1度も見たことはなかった。
だから、カラスウリの実は、かつて山で遊んだ小学校時代のおぼろげな記憶の中に、思い出として仕舞い込まれていた。
その愛らしい姿に思いがけず出会えた時は、思わず声をあげてしまったよ。
※2006年8月28日の日記より