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「気になる空間“やきもち屋” ~ 16年前の日記より」(その1)

 ふと通りかかって目にしたある場所のある光景が、目に焼き付いて離れない。

 最初にその前を通りかかったとき、外と繋がったその無防備な店構えに好奇心をそそられ、それと同時に、見ているだけで心がほぐれるのを感じていた。

 ― こんな店があったのか・・・。

 初老のご夫婦が開店の準備をしていて、二言三言の言葉を交わした。

 一旦記憶の底に沈みかけていたのだが、昨日、ふたたびその前を通って、心がふわりと揺れた。

 その店は、表通りから一筋入り、車一台通るのがやっとという狭い道沿いにある。
 表通りは片側三車線。マンションや銀行、不動産、お洒落なヘアー・カットの店などが建ち並んでいる現代的な佇まい。それとは対照的に、木造の古い家並が残っている一角に、僕がこれまで目にしたことのない小さな空間があった。

 どんな場なのか・・・。それを説明しようとして、少々頭を悩ませている。間違いなく“店舗”であり、営業区分的には“飲食店”なのだが、そんな言葉は似合わない。6畳間ぐらいの小さな開けっぴろげの一部屋。通りからその中の全部が見える。入り口も出口も無く、狭い道路側には、壁がまったくない。真ん中にテーブルが置いてあって、昔の駄菓子屋みたいな空間のようでもあり、縁台将棋の場を少し広げたようでもあり。

 まだ、昼の2時過ぎだったが、お客が4~5人いた。ご近所の御隠居さんたちだろうか。皆の顔が微笑んでいた。何を話しているのかまでは聞き取れなかったが、ゆったりとした昔ながらの鹿児島弁で語らい、笑いが起こっていた。

 ― この光景、写真に収めたい。

 そう思って、ショルダーバッグの中を見たら、この日に限って、忘れてきているではないか!

 残念だったなぁ。


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