「無邪気 ~ ブルグミュラー25の練習曲」について(おまけ)
※本編は、以前の投稿の付加事項になります。未読の方は、まずそちらからどうぞ。
「無邪気」の速度標語は Moderato(中ぐらいの速さで)となっていますが、楽譜の冒頭には grazioso (優雅に、気品を持って)の指示があります。
「25の練習曲」北村智恵氏校訂版では、1分間に100拍打つ速度が指定されています(ブルクミュラーの初版では112と、もっと速い)。
この速度は、私たち日本人が「優雅」という日本語から感じるイメージとは、ちょっと違うと思いませんか?
これは、やはり文化の違いというものでしょう。日本舞踊と舞踏会の違いと申し上げておきましょうか・・・。
「grazioso」というイタリア語を楽典教科書的に置き換えると「優雅に」という日本語になりますが、その他に「気品をもって、愛らしい」というニュアンスも含みます。
その語源は、ラテン語のグラーティアム 「gratiam」 で、「感謝、慈悲、慈愛」という意味。
graziosoという楽語で示される「優雅さ」を、もう少し詳しく表すとすれば、「愛情をもった優しく愛らしい優雅さ」といった感じでしょうか。
楽語の話をしたついでもう1つ、Andante についても述べておくことにしましょう。
Andante は「歩く速さで」と訳されますが、誰が歩く速さなのでしょう? 誰が歩くかによって、かなりイメージは違ってきます。5歳の幼児が歩くのと、体重100キロ超のお相撲さんが歩くのとでは、イメージも大きく異なります。
「Andante」という楽語で示されているのは、どんな人の歩き方なのでしょう?
その答えは、「ドレスを着た貴婦人」。
どのぐらいの速さなのか、具体的に思い出す方法として手っ取り早いのは、ビートルズの「Let It Be」を思い浮かべること。ほぼその速さです。
では、それに合わせて歩いてみてください(僕も歩いてみましたよ♪)。
現代人の忙しげな歩き方と違って、ドレスを着た女性が、ちょっと気取って歩いているみたいな感じが想像できると思います。