算数と国語と恋の問題「恋する2人がもう一度出会うまで」
たかしの夏
たかしは商店街を歩いて神社に向かっていた。
どこかで鳴り響く太鼓の音と赤く輝くちょうちんの光とは不釣り合いな表情で。
「結局、いつもと同じ夏か」
たかしはそう呟きながら歩く。
神社に特に用はない。
「祭りの日に家にずっといるのは寂しい」という理由だけでふらっと神社に足を運ぶ。
商店街に軒を連ねる屋台で何かを買うこともない。ただ神社に行って何もせずに家に帰ってくる。毎年その繰り返しだった。
でも、この年は違った。
「チョコバナナクレープ一つ」
足を止めてクレープを買ったのだ。
それはバイトでお小遣いに余裕があったからではない、ここまできたら悲しみの底まで、落ちるところまで落ちようと自暴自棄になっていたからだ。
たかしはクレープを一口かじる。
クレープの甘い香りがバイト先のアイツの事を思い出させて複雑な気持ちだ。
「本当は一緒に食べるつもりだったのになあ…」
「神社まで800m」と書かれた看板の隣でたかしは俯いていたが、またすぐに夜空を見上げることになった。
ドン!
そこには、いまにも降ってきそうな満天の花火がキラキラと輝いていた。
「花火でも見ながらゆっくり歩くか」
たかしは16分後に神社に到着するペースでゆっくり歩くことにした。
しょうこの夏
神社で恋みくじを引いた。
【大吉】とあった。
そんなのウソだ。今日は散々だった。
たまたま今日はアイツとバイトをあがる時間が同じだった。
いつものように着替えながら仲良く喋っていたけど些細な事で喧嘩になった。
「お前は何も分かってない!」
そう言ってアイツがタイムカードを切って出て行った瞬間がお互いの心が完全にすれ違った瞬間だった。
タイムカードには新たに17:15の文字が記されていたのを覚えている。
たぶん私はアイツの事が好きで、アイツもたぶん私の事が好きだ。
本当は今日、気持ちを確かめてみたかったのに…。
ドン!
そっか…花火が上がったって事はもう20時か。
そろそろ商店街を戻るか。1人で花火を見ても悲しくなるだけだし…。帰りにチョコバナナクレープでも買って帰ろう。
しょうこは分速110mの小走りで商店街を戻り始めた。
Q.2人がもう一度出会うのは2人の心が完全にすれ違ったあの時から何分後でしょうか。
A.170分後
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