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心拍数

 暗く深い海に潜って、心臓をゆっくりと動かす。
 ──こ゜くん──
 ──こ゜くん──
 一分間に2回しか動かない心臓は、止まりそうなほど必死にゆっくりと血液を動かしている。

 寝る前に消し忘れていたアラームの音で目を覚ました。
 今日は休日だったのにもったいないことをしたな、と体を起こしながら思った。
 朝食を食べながら新聞を読んでいると、ウミガメの心拍数に関する記事が載っていた。

『ウミガメが潜水すると急激に心拍数が少なくなり、水深140メートルを超えると1分間で2回になることもあったとの研究結果を、東京大のチームが発表した。チームによると、クジラやペンギンでは、呼吸を止めて潜水している時の心拍数が深さによって変わることが分かっていたが、ウミガメも同様と分かったことで、肺で呼吸する動物が海で生きていくための仕組みの理解につながるとしている。』

 水の中を主な活動場所にしていない我々人間なら、140メートルも潜らなくても心拍数をぐっと減らすことができるんだろうか。
 たとえば、お風呂くらいの水深でも、ずっと息を止めていたら心臓の動きはゆっくりになっていくのだろうか。
 あの人の心臓も水の底でゆっくり動いているのかもしれない。
 食事を終えて、私は顔を洗うついでに、お風呂場に行く。
「ねぇ、あなたの心臓も本当は動いているんじゃない?たった数時間前に潜ったばかりだし。ねぇ?」
 湯船に沈んだ彼氏は、水の中から私を見つめる。
「そんなに見つめないで。髪はボサボサですっぴんなんだから。出たくなったら出ていいからね」
 彼氏の服に隠れていた空気が、返事をするようにふわりと浮かんで、こ゜くんと弾けた。



七緒よう

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