あまやどり

　なあなあ、暇かい？どうせ暇だろ？どっかに行くこともせずに、こうやってワタシの話を聞いているんだから。
　まあまあ、怒るなよ。え、お前がどっかに行けって？いや、そうは言ってもこの雨だぜ。雨が止むまでちょっと雨やどりさせてくれよ。何も取って食うつもりはないんだから。
　にしても、久しぶりの本格的な雨だよな。ん？雨は嫌いか？そっちのあんたもか？ワタシは結構好きなんだよ、雨。
　だって、雨が木々の葉っぱや地面に当たる音って独特だろ。それに、湿ってひんやりした空気が一面に広がっていて、なんだか毛先まで瑞々しくなるような新鮮な感じがするし。
　そりゃ、雨や土の匂いに満ちた空気よりも色んな香りが漂う晴れの日のほうが、色彩豊かだったり、そもそも濡れるのが嫌だったりもするんだけどな。ワタシはそれでも雨の方が好きだぜ。貴女とこうしてお近づきになれたのも、雨やどりしに来たおかげだしな。

　ところで、いきなり変な質問をするけど、貴女は一体何を生み出しているんだい？食べ物？道具？それとも、生き物？
　もちろん貴女が今仕事中なのは分かってるさ。その上で聞いているんだよ。だから、どんな価値を生み出しているか、と言い換えてもいい。美味しいこと？役に立つこと？それとも、あー、可愛いこととか。
　貴女自身の価値や役割でもいい。自分ではどう自覚しているのかと思ってね。ワタシはどうかって？ワタシは、ほら、エンタメを生み出しているんだよ。楽しいことをね。まー、たまに「騙された！」なんて怒るやつもいるけど、ある国ではワタシの石像なんかも作ってくれちゃったりしてるんだぜ。　　そう、こう見えても結構人気者なんだぜ。

　それにしても今日の雨は、ちょっと冷えるなあ。最近暖かかったから余計に気温差がね。てぶくろが欲しくなるくらい手先が冷えてるよ。今夜は鶏肉の鍋なんかでもいいかもな。
　おっと、失礼。
　全部雨のせいさ。雨の日は、つい思索にふけったり誰かが恋しくなったりしないか？
　そうか、しないのか。そりゃ残念。
　お、向こうの雲の切れ間から日が差してきたな。もうすぐ雨も止みそうだ。おしゃべりに付き合わせて悪かったよ。もう切り上げるさ。
　そうそう、何か言い残すことはあるかい？何にもないのか。ま、それも結構。
　なあ、知ってたか？ここ開いてるんだぜ。失礼するよ。おっと、悪く思うなよ。恨むなら飼い主を恨むんだな。
　おい、こら、暴れるなよ。一瞬だから。
　貴女はワタシの今日の夕飯なんだ。
　騙したなって？そりゃそうだろう。正直にワタシの夕飯になってくれって言っても、断るだろ？だいたい、ワタシはキツネだぜ。
　人間と同じで騙してなんぼの動物なんだ。ま、これも弱肉強食、食物連鎖。自然の循環ってことで納得してくれ。
　
　ふう、やっと大人しくなったか。それじゃ残った皆さん、ごきげんよう。
　また来るよ。人間どもがこの鶏舎の抜穴に気づくまでは、定期的にな。

七緒よう