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手鏡 おひや
2021年11月21日 02:01
後朝、菊乃は政之助を大門まで送り届けていた。政之助さん、どうぞ又来ておくんなんし……と甘い言葉と腕を絡められ、政之助は満足気であった。「なあ、お菊。お前、こんな所――颯々と出て行っちまいたくねエかい」こんな所、で妓楼を仰ぎ見、政之助は尋ねた。「何を……おっしゃいんす、政之助さん。わっちは籠の中の鳥――外を夢見るなんて、疾うの昔に諦めてござりんす」眼を伏せ、本の少し力ない笑顔を向ける。其