映画「図鑑に載ってない虫」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第28回
取り返しのつかないことのきっかけはつまんないことなのよ
2007年公開映画「図鑑に載ってない虫」
文・みねこ美根(2019年8月19日連載公開)
初めてのワンマンライブを終え、酸っぱいおにぎりも腐っていたわけではなかったことがわかり、さて指輪をつくろうじゃないか。この暑い夏にぴったりなムシムシじめっとした映画です。
この間、朝5:30くらいに外を歩いていたら、セミが空から落ちてきて「ミッ」と鳴いて目の前で息絶えた。あんなに急に力が抜けて重力で地面に叩き付けられてしまうものなのかしら。昔、自由研究でセミの羽化を観察したことがある。白くて柔らかく伸びていく羽を思い出した。
ドラマ「時効警察」が好きで、シーズン2の最終回はセリフを覚えてしまうほど見た。唐突でかなり個人的な、でもなんとなく思ってたこと、信じてること、みたいな話が、話の本筋には関係なく展開されるのが好き。いかがわしくて、日本だけどそうじゃないような、不思議な世界。カニとか塩辛とかカップヌードルの肉、ティーバッグ、煙草、エレキバンの集合体。アル中のオルゴール職人とか、強すぎる肩書。松尾スズキが演じる遠藤は「時効警察」でもでてきたし、チュッパチャップスさんは「熱海の捜査官」に出てきてたりと、そういう楽しみ方もあるけど、特に気にしなくても、なんかずっと笑っていられる。
売れないライター「俺」(伊勢谷友介)が、死後の世界についての調査を命じられ、友人のエンドー(松尾スズキ)と、自殺願望のある元SM嬢のサヨコ、ヤクザの目玉のおっちゃん(岩松了)、舎弟のチョロリ(ふせえり)とともに、臨死体験ができるという「死ニモドキ」を探すという話。
水野美紀演じる美人編集長が最初っからぶっ飛ばしてくるインパクト。「あのさ、ちょっと悪いんだけど、一回死んでくれない?」いきなりこの世界に連れて行かれる。アル中のエンドーが自分の吐瀉物に火をつけて「俺のゲロ燃えるぞ!」ていうシーンとか、さよこのリストカットで硬くなった皮膚でわさびをすったりとか、5000札にぐっと寄りで撮るカメラとか、くだらない細やかさに、笑っちゃう。でも「海の家の人は冬は何してんの?」とか「白玉食ってるやつ見ると魂抜けてるように見えない?」とか、なんでそこ?ていう内容のセリフではあるんだけど、こういうことを普段の生活の中で意識するとなるとなかなかの労力なのよね。「常識だから」ではなく、「そう感じるから」というのは論理的でなさそうでいて何にも代え難い一番の理由だから、信じていたいのよねェ。
生きてるのか死んでるのか、私たちはどちらかの側にしか居られないから、いつだって生きてるんだって言い張らないといけない。8月8日は、生きてたね、私たちはあの場所で確実に。まだまだこっち側でやることがあんのよ、たくさん。この暑さも乗り越えていけそうだぞ。
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モチーフ:死ニモドキ、チュッパチャップスさんのチュッパチャップス、ゼリー藤尾、死ニモドキの液、鯉を利用した人魚、猿の手、YES NOランプ、エンドーのゲロ、ティーバッグ、エレキバン
音楽:坂口修 図鑑に載ってない虫サウンドトラック「海とアイスとお母さん」 オルゴールver.cover