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映画「トゥルーマン・ショー」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第44回

あなたの気持ちはいつだって本物
1998年公開映画「トゥルーマン・ショー(The Truman Show)」
文・みねこ美根(2020年12月21日連載公開)

2020年もあと10日で終わる。過去の連載を読み返すと一昨年の12月は、大学の卒論に追われながら「アナスタシア」と「グレムリン」を、昨年は大掃除をしながら「キッチンストーリー」の指輪を作っていた(ちなみにこの回に書いてある棚は無事に立てられた)。さて、たくさんのやりたいことといろんな締め切りにドワー!となりながら、今年の締めくくりはこの映画です。

私はドッキリ番組が好きじゃない。人の善意に付け込んで、だましたり困らせたりするのは、見ていて嫌だなぁと思ってチャンネルを変えてしまう。突然のプレゼント!とかの突発的サプライズは好きだけれど、例えばその前にわざと怒らせたり泣かせたりするのは、可愛そうだよね。なんかこれコントになりそう。めちゃめちゃ怒られて泣かされた後で「サプラーイズ!さっきのは嘘だよー!」って言われるけど、泣かされたときの言葉がその人の本音に思えてパーティー楽しめない、みたいな。今回の映画「トゥルーマン・ショー」は、盛大なドッキリ、それも種明かしなしのドッキリだ。

シーヘブンという島の保険会社で真面目に働くトゥルーマン。妻と二人暮らし、幸せに暮らしていたが、幼いころに海で父親を亡くしたショックから、海にトラウマがあり、この島を出たことがなかった。ある日、いつもの通り朝出勤していると、ある男とすれ違う。それは死んだはずの父親だった。「パパ?」とつぶやいた途端、通行人たちが突然その父親らしき人を強引に連れ去っていってしまった。妻の言動、忘れられない人の忠告、謎の無線、まるで自分中心に世界が回っているような違和感を抱き始めるトゥルーマン。実は、彼のいる世界、彼の人生は、リアリティ番組として世界中に放送されていて、彼以外の人間は全て俳優、なにもかもが作り物だったのだ…。

この設定を知った時「面白そう!」と「ひどい!」が同居するなんとも不思議な気持ちになった。でも、見終わった時、嫌悪とも、感動とも違う、“妙に納得する気持ち”になった。

一歩間違えたらSFホラーになりかねないこの設定。しかしながら、トゥルーマンが抱く違和感が巧妙に描かれているため、パズルのピースがはまっていくような感覚でどんどん引き込まれていく。そして主人公演じるジム・キャリーが、これまで何となく感じていた違和感が確信に変わっていくトゥルーマンの胸中を、非日常的設定においてごく自然に演じている。「頑張れ、トゥルーマン!」と、いつのまにか私たちも、この“トゥルーマン・ショー”の観客になっているのだ。ちなみにトゥルーマンという名前。“真実”のTrueかと思っていたが、普通にトゥルーマン(Truman)という名前でした、びっくり。

この映画、細かいこだわりがたくさんある。一度見終わったら、もう一度最初から見直してみて欲しい。一つお教えするなら、CMシーン。トゥルーマンの妻や友人が会話の中で突然CMのようなセリフをぶち込んでくるのだ。これは、トゥルーマン・ショーがCM無し24時間放送のため、トゥルーマンの生活の中に広告を入れ込んでいる、というわけ。見直せば、最初は気が付かなかった隠れCMが見つかるはず。あなたの友達が突然、一点を見つめ「そんなときにはハ○キルーペ!」と叫んだら、あなたの生活が少なくとも日本では放送されていることは間違いないだろう。

この映画を見て、嫌悪とも感動とも違う気持ちになったのは、壮大な風刺映画に思えたからだ。一人の人生を見続ける、世界の人々。会ったこともないのに、トゥルーマンに同情したり、あきれたり、応援したりして、彼のすべてを知っている気でいる。これって今で言う、芸能人を応援したり、SNSを覗いたり、映画やドラマで登場する人に感情移入したりする、そういうことに似ている。私たちは、良くも悪くも他人の人生をエンタメとして楽しんでいる。「あの俳優さんは、若い時こんな風に苦労したんだって、応援したくなっちゃうね」「あのタレントさん、子どものころ貧乏だったらしいよ、テレビで言ってたエピソードマジ笑った~」とかね。それが良い悪いではなく、私たちは誰もが一度は他人の人生をエンタメとして楽しんだことがあるわけで、この映画で「この設定酷い、トゥルーマンが可愛そうだよ!」と思ってた人にも、「でも君もトゥルーマンを“見て”るよね?」とリアルタイムで私たちを風刺してくるのだ。見る側と見られる側の究極形がこの映画の設定かもしれない。アングルも実際のリアリティショーのようで、私たちは否が応でも彼の生活を覗いているような気持ちにさせられる。

その「1人 対 世界」という図式の他に、「子 対 親」の図式も感じられた。最後の方の場面、番組プロデューサーのクリストフが画面越しのトゥルーマンにある動作をする。映画の中盤で番組スタッフも、眠るトゥルーマンの映像に同じことをしている。ぜひ見てみて欲しい。エンタメとして搾取しようとする気持ちだけではなくなっていることが垣間見える。外に行かないように、なんとか思いとどまらせたり、「君の性格は分かっている、これを選ぶはずがない」と諭したり。トゥルーマンはどんな選択をしていくのか、あなたの目で確かめて欲しい。

自分がトゥルーマンだったら、どうするだろう。ショックで発狂しちゃうかも。今までの人生、一喜一憂した日々も偽物だったのかなって思っちゃうと思う。でも、少し考えてみて、感情は偽物ではないな、と思った。出来事が偽物だったとしても、抱いた感情は、自分の心から純粋に湧き出るものだから。トゥルーマンにもそうやって思って欲しいな。

ところで、トゥルーマンは大人になるまで、違和感を抱きつつも、自分の世界を疑わなかった。巧妙に操作されていたからだ。…さて、私たちの世界が、誰にも操られていない保障はあるのだろうか?操られるというのは大げさでも、情報や伝統、文化、教育、といった名前で隠された、“公平さに欠ける知識や考え方”を見逃してはいけないね。情報が溢れかえる今、誰か任せにするんじゃなくて、自分の頭で「どうすればよりよくなるのか」を考えなきゃいけない。そして、情報を得ただけで、人や物事を丸ごと分かった気にならないことも大事。世界も人間も思っている以上に複雑で奥深い。

今年も一年ありがとうございました!来年も、いろんな気持ちや出来事、映画に本に音楽に、そしてまだ見ぬたくさんのあなたに出会える一年になりますように。私と歩んでくれているみんなをいろんな場所に連れていけるように、私たち一緒に物語を紡いでいこう。「傷跡」配信リリースも待ち遠しいな、クリスマスイブのプレゼントです。たくさん聞いてね。

ではトゥルーマンの挨拶にならって「おはよう!そして会えない時のために、こんにちは、こんばんは、おやすみ!」。

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モチーフ:作り物の空と海、トゥルーマンの船、スタジオのライト、雑誌を切り貼りして作ったローレンの顔、ローレンのカーディガン、ローレンのブレスレット、モココアの缶とカップ、芝刈り機、万能ナイフ、ビール6本
音楽:「It’s a Life」Burkhard dallwitz オルゴールcover ver.

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