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「幌酔い」

まだ雪の残る寒い頃、深夜過ぎになってに飲み屋街にジャケットを羽織りホテルを出る。息はやはり白い。外は閑散としていたが、ビルの一角にあるテナントの店に入ると、中は賑やかだ。そこは『札幌』、流石だと改めて思わされた。店内は明るくもなく暗くもなく、若いお客さんが多いのだろうか、所々にアーティストの誰のポスターかは分からないが貼ってあったり、置物がある。店舗に入って暫く飲んでいたら、グループの一人の男が声を掛けてきた。「こっちで一緒に飲まないか?」。今はそんな気分ではなかった。多少なりとも気分屋の自覚はあったが、その時は本当にそんな気分ではなかった。そのままダイレクトに伝えようとしたが、それではあまりに武骨過ぎると思われ、軽く会釈をし、断る素振りをみせた。男は簡単に引いた。その後も朝まで飲み明かしても良かったのだが、そこは気分屋な所が働いたのか、すぐに帰路に着いた。
ピンコーンとスマホのLINEが鳴る。数少なく来る彼女からの連絡だ。また程良い感じの距離感の他愛も無いやり取りだ。添いもせず、離れもせず。またひと口ビールを流し込む。今日は向こうが機嫌が良いらしい。返信が早い。愛猫と愛犬の写メ付きである。どちらも毛並みが良く整えられていて端正である。もともと彼女は世話好きなのだと、それが二匹のも出ているのであろうと、ふと考えながら返信を返す。また連絡が途絶える。今日のニュースの大きな出来事のテレビの音だけが部屋に鳴り響いている。八月と言うのに、ビールを握る指先だけが冷たい。翌朝、散歩に出る。昨日の続きでなのか、天気は曇天だ。蒸し暑い。予定していたコースも短縮して帰路に着く。汗でお酒が抜けたらしい、気分は晴れ晴れしい。サッとシャワーを浴び簡単に済ませる。突然眠気が襲う、疲労が溜まっていたらしい。寝る前の一服に煙草を吸う。煙草は二十歳から吸っている。やはりメビウスに限る。シンプルで雑味が無い。肺に深く流し込む。重い。眠気が一段と増す。快眠であった。
祭りの季節である。なんだか街にも血が通ったの如く、いつもより活気が出ている感じさえする。そんなある日、花火大会があるとの事で、行きつけの店のママからの誘いがあった。何気なく一人で行ってみる。そこには、ママの他に知らない女性がいた。彼女とは違ったが、悪い感じは受けなかった。お酒が飲みたくなった。花火の打ち上げも終盤に差しっかかった頃、突然の雨。花火を見るの止めママの店へと急ぐ。少し雨で身体が濡れた。店に入ると直ぐに焼酎水割りを頼む。ほんのり身体が温かい。深夜深くなってくると、お客の入りも少ない。ママと二人きりになっても、ママは一段と明るい。自然と眠気は来ない。一方自分の方は、グラスに入った氷だけが静かに溶けていく。ゆっくりと煙草を吹かす。煙草の煙が燻る。彼女からの連絡は来ない。もう寝たのだろうか?その事だけが頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えする。

                 ーfinー
                   Merry

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