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精巣捻転に対する精巣摘出症例には可逆的な損傷が10%含まれている
"Retrospective histological evaluation of orchiectomy specimens following testicular torsion reveals a 10% incidence of reversible injury. Is it time for a change of strategy?"
https://doi.org/10.1111/andr.13368
Andrology, 2022
前々回に引き続き、精巣捻転の論文です!
精巣捻転で摘除した精巣の中には、まだ組織学的にダメージが可逆的であったものがどれくらいあったか、という研究です。
改めて、精巣捻転は緊急手術が必要で、組織形態学的変化としてMikuzらは下のような3グレードに分類しています。
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Grade2:間質のライディッヒ細胞は壊死。精細管は萎縮。germ cellの大部分が脱落。一部のセルトリ細胞と精粗細胞は保たれているが一部は壊死している。
Grade3:精巣実質は完全に出血性梗塞。精粗細胞を含むすべてのgerm cellが壊死。
一般的に、精巣捻転の術中、整復による温存を試みますが、精巣が救済不可能と判断した場合は精巣摘出が推奨されています。一般的には症状の持続時間は精巣が無事かどうかの絶対的指標ではなく、その他の因子が複合的に関与しています。
しかし、実際のところは術者の裁量・経験に左右されます。
この研究は、精巣捻転後に摘出した患者の病理組織から、摘出の判断が本当に正しかったかをレトロに検討した研究です。
対象と方法
2001〜2021年に精巣捻転で手術した患者を後ろ向きに検討し、術中に捻転が確認された患者のみを対象としました。精巣捻転後に摘出となった患者の精巣標本をMikuzグレーディングしました(Grade1〜3)。
結果
精巣捻転が疑われ、手術を行った217件のうち、実際に捻転が確認されたのは136名(63%)でした。(残り81名は捻転以外が原因か、自然整復された可能性)
・年齢中央値は17歳
・左側が43%、右側が57%
・精巣固定後に捻転再発は3例(2%)
・捻転発生時期は冬がやや多く(33%)その他はほぼ同じ
・鞘膜内捻転・鞘膜外捻転かは不明
捻転していた患者のうち、35%(48/136例)で精巣摘出を行いました。
精巣摘出の基準は
・術者の主観的判断と
・術中、精巣の不可逆的損傷の主観的観測でした。
精巣がレスキューされた群は症状出現から手術まで4.5時間に対し、精巣摘出を行った群は48時間でした(p<0.01)。症状が出現してから12時間までの精巣レスキュー率は94%、その後の12時間では30%まで低下しました。
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摘出した48例を、病理医によってMikuzグレーディングしてもらったところ、5例(10.4%)がGrade1、17例(35.4%)がGrade2、26例(54.2%)がGrade3でした。
症状出現から手術までの時間の中央値はGrade1が15.7時間、Grade2が48時間、Grade3が72時間でありました。
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B)精細管は無事で、間質に出血・鬱血あり
C)強拡大(x400) 正常の精子形成あり
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考察
今回の結果は、先行研究とほぼ同じ結果でした(Grade1: 6%, Aworanti | 9.7%, Kuzu)。Grade2に関しては組織の部分的なレスキューが可能なのかどうか、どの程度可能かは不明です。Grade2変化の精巣の予後に関する研究はなく、今後さらなる検討が望まれます。Grade3は精巣摘出を正当化する唯一の根拠となります。
今回の結果は、精巣捻転の、germ cellに与える影響は症状の持続時間だけに依存しておらず、時間だけを理由に摘出するか固定するかを判断するのはもはや正当化できません。
しかし、夜間緊急手術などで24時間体制で病理医を確保することが難しいので、実際には術者の裁量と経験に依存します。
結論
結論からすると、摘出を行った症例のうち、可逆的損傷は10.4%であり、摘出した症例の一部にレスキュー可能であった精巣が存在している(=レトロで見ると精巣摘出の判断は正しくなかった)可能性があります。
コメント
Mikuzグレード、知りませんでした。。。現在よく「ゴールデンタイム」と呼ばれる時間は6時間であり、発症から6時間以内に外科的修復を行うのが一般的です。捻転解除してみて、精巣の血色が戻るかを観察して、固定するか摘出するかを判断します。その際に病理学的な評価ができれば残すか摘出するか判断できて良いですね!実際には主観で判断しますが・・・。
肝に銘じながら判断していきましょう♪