運動会の保護者リレーでお父さんは なぜ“こける”のか
子供が小学生のとき、運動会の役員に頼まれて保護者リレーに出たことがある。
10年以上前のことだが、田舎の小学校だったので、保護者リレーをする習慣はまだあった。
子供が小学校を卒業した後に保護者リレーは参加者が集まらないので中止になったという話を聞いた。
それも時代の流れだろう。
走るのが遅い人や運動が苦手な人にとってはこれほど嫌なものはない。
しかし、ここで速く走ることができれば、子供に「かっこいいお父さん」を見せることができる。
出場する人は、自ら志願した人、頼まれた人、いろいろだが、基本的には運動不足の人が多いのは否めない。
ここで気を付けなければいけないのは、まず怪我をしないことである。
準備運動(アップ)もしないで、いきなり全力で走り始める。
自分はまだ若いので大丈夫と思っていても体は悲鳴をあげている。
実際に肉離れを起こしてバトンが渡らなくなった人を見たことがある。
直線の100mを走るだけであればまだよいのだが、小学校の校庭は大人にとっては思ったよりも狭く、そこに描かれたトラックのカーブはかなりきつい。
このカーブをそれなりのスピードで走ると体には遠心力が作用し、その力を抑えるために直線を走る以上に足の力を使ってしまう。
体重が重い大人には子供以上に遠心力が作用するので走りにくい。
また、カーブはきつく直線が短いため、前の人を抜こうと思っても走力に大きな差がなければ抜くこともできない。
実際、3回保護者リレーを走ったが、前の人を抜いたことはない。抜かれたこともないが。
走ることには自信があったが、小学校のトラックは意外に走りにくいことがよくわかった。
私は中学、高校、大学と陸上部に所属し、短距離を専門としていた。
30年以上も昔のことであり、当時は、顧問の先生に出されたメニューを淡々とこなすだけで、走るメカニズムについて学んだことはなかった。
最近は、走りの理論がだんだんと解明されてきており、多くの本が出版され、ネット上では多くの動画を見ることができる。
昔はこのようなものはなかった。
ただ、今は走りに対するいろいろな考え方があり、どれを選択すればいいのか迷ってしまうくらいだ。
人によって体形は異なり、それぞれの部位の筋力、柔軟性も異なるため、その人に合った走り方がある。
一流選手の見た目の走り方が異なるのも、その人にとって速く走ることのできるイメージを追求した結果なのだろう。
さて、本題のなぜ“こける”のかについてだが、
まずは筋力、筋肉のスピードが不足しているのはいうまでもない。
“こける”ということは、自分の重心より後ろに足をついている(接地している)からである。
厳密に言えば、自分の重心の真下でも”こけ”てしまう。
人は自分の重心のほんの少し前に足を着いて、少しブレーキをかけてバランスを保ちながら走っている。
これはトップスピードに達して以降の等速あるいは若干減速するときの話で、スタートから加速しているときには、自分の重心の後ろに足をついても、加速力によって体は起こされようとするので“こける”ことはない。あまりにも後ろに着き過ぎるとつまずいてしまうが。
では、なぜ、自分の重心より後ろに足をついてしまうのかというと、地面を蹴り上げようという意識が強く(意識というか地面からの反発が得られてないので自然と体が反応した結果)、
その結果、足が後ろに流れ、後ろ側の足を前にもってくる(スイングする)タイミングが遅くなってしまうからである。
スピードが速くなると、足の回転(ピッチ)も速くなり、足を前にもってくることが追いつかなくなる。
また、競走なので前に行こうとする意識が高くなりすぎると、体が前傾することにより重心が前方にずれてしまうため、結果的に接地位置は後方にずれてしまう。
この状態を回避するためには、逆に重心を後方にずらしてしまえばいいのだが、これでは”こけ”はしないが速く走ることはできない。
体をのけぞって、アゴを上げて走る人がいるが、これは本能的に重心を後方にずらし、”こけ”ないようにしているのだと思う。
競走で「勝ちたいという気持ち」と「こけたくないという本能」との間で「勝ちたいという気持ちが強い人」がこけてしまうのではないかと思う。
では、どうしたらいいのかということになるが、まずは、筋力を強化をすることが必要である。
年をとると上半身の筋力より下半身の筋力のほうが低下しやすいらしい。
走るということは、両足が地面から離れ体が空中にいる時間がある。
そこから片足を着いたときには、体重の3~4倍の力がかかるそうだから、その力に耐える筋力が必要になる。
また、足を素早く前にもってくるにも筋力が必要になる。
筋トレというとベンチプレスなど上半身の筋力強化を思い浮かべる人も多いと思う。あるレベル以上になるとそれも大事だが、まずはスクワットなどの足の筋トレが必要だ。
また、接地時の衝撃に耐える、接地時間を短くする、という面では、ただ走るのではなく、スキップやケンケンが効果的なトレーニングである。
まずは、30mのスキップくらいから始めて、徐々に距離を伸ばしスピードを上げていく。
スキップは片足で2回ジャンプし反対側の足を着くことになるが、片足で2回ジャンプしている間に反対の足が前に戻ってくる時間的余裕があるので、足を前に戻す感覚も養うことができる。
ジャンプするという意味では縄跳びもいい。
保育園の参観日に子供と一緒に縄跳びをしたことがあるが、50回くらい飛ぶと足が動かなくなったことがある。
それだけ体は衰えているということだ。
運動会の保護者リレーはなくなっていくかもしれないが、万が一引き受けなければならなくなったときには少し試してみてはどうだろうか。
くれぐれもやりすぎは注意。
怪我はしないように。