隕石が落ちてくる
北極にでも住んでない限り朝は明るくて夜は暗い。明るい空を朝と呼び、暗い方を夜と呼んでいるから。
しかしこの頃は四六時中空が明るい。空の色は赤、赤、たまに白くて基本赤だ。夜なんてなくなってパーティ状態だが夜と呼んでいた時間帯にはみんな寝てる。寝ないと死ぬから。寝たって死ぬんだろうけど。
とんでもなくデカい隕石が空からこっちをジッと見ている。月には兎が見えるが、この新顔はパッとせず、ゴツゴツとした往年のメジャーリーガーみたいな顔をしている。控えめに言ってブサイクで3割打てなくなったら解雇って顔だ。
こんな奴に見張られながら俺はパンを焼いている。パンを食べないと死ぬから。焼いても死ぬんだけど。
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糞みたいな奴らがパンを焼いていた。職人気質だかなんだか知らないがやたらと人を小突き、気難しく窯に火を入れ、なんだかこねて、突っつき回し、出来上がったパンはさっぱり売れない。
糞が挽き、糞がコネて、糞が焼き、ヒリ出されたパサパサな小麦塊買うモノ好きのケツから糞になって下水に流れる。小麦と窯と糞の手を介して糞食物連鎖茶番がブたれていた。
俺は暇なのでレジで鼻くそをほじったり糞したりパン掴むアレをカチカチしたりソシャゲをインストールしたりアンインストールしたりしていた。糞はトイレでした。流さなかった。
だから、待ち焦がれていた。こんな糞が店ごと焼き上がるのを。窯は空から降ってくるらしい。
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空では相変わらずブサイクな顔が打率3割をキープしている。アバタだらけの顔に各国の保有する核爆弾がふんだんに散りばめられ、さらにアバタを作り、破片が降り注いでキレイで、願い事を3回唱えても隕石はブサイクで、放射線と日差しとブサイク隕石光が降り注いでおり、大地の小麦も困惑しており、来年のパンは不作が予想されるも来年なんてないことが予想されていた。
テレビはこの期におよんでツマらないし、フェイクニュースやらフェイクバラエティやらフェイクCMだったりフェイクお笑いコンテストに勤しんでいた。結構なことだったが連日「ブサイクな隕石が落ちてきたら地球が3等分されます」とか言われても困るから、これはこれでいいのかもしれない。
シャツが出てるぞと小突かれて殴り返したら糞は怒っていた。ありったけの焼き立てマズパンと、役に立たないかもしれない日本円をバッグに入れて店を出た。はみ出しっぱなしのシャツの端が夜風にたなびいて侘びしかった。強盗を働いたのに警察すら来なくて、赤々とした街灯の消えた夜の街で一人だった。人はみんな狂ってて、あるいは元々狂ってて、きっと服を脱いでいて、酒を飲んでいないるか、飲んでなくても酔っていた。みっともないのでシャツを小麦で白けたパンツにしまった。
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角打ちとやらをしてみた。支払いには日本銀行券が使えるらしいし、いざとなったらパンを掴むアレでレジ打ちを殺して店を出るつもりだった。なんか、まわりの客はどっかのパニック映画みたいなことを言ってた。「こんなとこいられるか俺はこんな星出ていくぞ」とか、みんな笑ってた。映画が見たくなり、家に帰ったらなるべく安っぽいのを見るぞと決意して店を出た。
安酒片手に色々なコンテンツを漁るがピンとこない。こういうのには「未来」がある。「発展」がある。今の俺らに圧倒的にないものだ。こいつらは空にブサイクが浮かんでないからこんなことになるほど発展できたんだなと思う。
発展、外に延びていけないなら内にこもるしかない。芸術がいいな。なんか偉そうなやつ。もう作ったやつが死んでる古いやつ。昔々の弾き語りとか、格調高い劇場でやるやつとか。
壁をぶち抜き隣人を殺してTVを2台とスピーカーをいくつか用意した。戦前(2つ前の)ブルーズ、クラシック、能、チャックベリーとかピエール瀧とかを全部一気に流した。
ごちゃごちゃでよく分かんなくて、視界の端から紫煙がちらついて、画面が全部ピンクになった。悪寒がするし目の後ろと脳の後ろに虫が這いずり回ってる。モヤモヤがピンクに変わって散り散りになった。俺は狂い、すなわち踊り、五月雨に降る桜を掻き集めた、もったいなくてすべて食べた。石膏の味がして吐きそうだったがケツから出すと決意して飲み込んだ。目から涙が出ると悪い目薬は洗い流されて真実が見えてきた。
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空は赤く、あらゆるパン工場とバキュームカーは爆破され、高高度で爆発した核爆弾が電磁パルスを突き刺し、TVもステレオも爆発した。ディジタル便所も爆発して糞が溢れた。
街にはイデオロギー、ビラ、プロパガンダ、クソにあふれていた。ちょうど新聞販売店と八百屋が焼けていたのでさつまいもを燃え上がる新聞紙の山に突っ込んで、焼き上がるのを待っていた。
夜空は何も包み隠せずに相変わらず醜かった。