貧民街の入口
ひび割れた鈍色の道路を真っ白なスニーカーで踏み越えた時に、ここは半袖で来る場所ではないと悟った。逃げるようにして帰ったが少し悔しくなってグーグルマップで調べると、わざわざ「商店街(跡地)」と煽られるくらいには寂れた地区らしかった。
やはり、あそこを探索するのには相応の準備が居るだろうか。十分な食料、水、それと長袖を持って再び訪れることにした。家を出るとき、三階の住人がいつも扉に掛けているレインコートが床に横たわっていた。かれこれ数日そうなので家を長らく空けていることを意味していた。時節柄だろうか、最近このアパートには人が少ない。
再び訪れると、街宣車、レッカー移動を辞さないという警告文、低い屋根に落書きの嵐が灰色の商店街跡地を鈍く彩っていた。剥き出しのコンクリを踏みつけると、おろしたてのスニーカーはけたたましく鳴った。あまりにうるさく響くので、空から足音が聞こえる始末だった。
自分の足音を空から聞きながら貧民街を流した。すべてのコンクリートは壁でも床でも風化し、塗装の痕跡すらなかった。人の気配がないのに屎尿の臭いだけあり、運転席のない車がススキと共に朽ちていた。
唯一、真新しい物体があった。治安組織の建てた看板であり、警告文だった。
「違法風俗摘発にご協力を!」
正しくここは貧民街の入口だった。この街のどこかに深みを見出した瞬間だった。ススキの空き地に分け入り、さらなる貧困を求めた。
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