デッカチャンが何かを見つける度に、ですよ。は謝る

デッカチャンが何かを見つける度、我々は何かを失う。我々が何かを失う度、ですよ。が謝る。
今日もあの太鼓を叩きながらデッカチャンは笑う。
我々がすべてを失った時、デッカチャンが見出すのは、我々自身だろう。

この警告は"再掲"である。

デッカチャンはちんどん屋さん。太鼓をとんとんとんとん鳴らしながら、私の下半身を舐め回すように爪先から股下へ、臍から踵へと視線を移した。「見つけちゃった」満面の笑みで発見を喜ぶデッカチャン。

デッカチャンが私のパンツ、靴、靴下を見つけたため、それらはこの世界から失われた。引き裂かれる訳でも、溶ける訳でもなく消えて、私の太腿と足首は露わになった。デッカチャンの大きな口の端から涎が垂れる。

それを見たですよ。は燃えながら走ってる人に水をかけたらそれが聖火ランナーで、オリンピックが延期になったことについて謝罪してくれた。それはきみのせいじゃないよ。こんな状況ながら少し微笑ましくなる。正直、このデブの愚行を許せるのはですよ。のおかげである。

しかし、私が余裕を見せて微笑んだのが気に障ったのかデッカチャンの太鼓を叩く音は荒くなり、また、「ワーイワイ」とも言わなかった。代わりに再び私の下半身を見つめ「見つけちゃった」と吐き捨てる。

ふわっと浮いた感覚がした。腰から下の感覚がなくなり、体勢を崩した訳でもなくストンと下に転んだ。正確には爆破解体されてるアメリカのビルみたいに、上半身が地面に落ちた。

痛みは無いが血の気が引いた。第二の心臓とも言われる太腿とそこにあった血液が失われたため、急激に血圧が下がったのだ。恐らく目を下にやれば真っ赤な海に剥き出しの各種ホルモンが見えるだろう。冗談じゃない、これ以上血の気を失うことは出来ないので目を瞑りシャツを破き止血を試みた。ソーセージを結ぶみたいにはうまく行かず、ホルモンがグチャグチャになっていく感覚が手に残った。
ぼやける視界でテンションだだ下がりになりながらですよ。の謝罪に縋ろうとした。

息も絶え絶えに体感一時間は待ったが、ですよ。はいつまで経っても謝らない。謝ることばっかじゃなかったのかきみは。目を開けてもですよ。はどこにもいない。そこにはもうひとり分の血の海と、デッカチャンに覆いかぶさるような腕や足だけがあり、そして頭部と胸部は不自然に消えていた。

デッカチャンの太鼓がビチャビチャ鳴る。ですよ。の血液を顔中に浴び、デッカチャンは視界が悪くなっているようだった。デッカチャンはうっかり屋さん。おでこにですよ。の眼鏡を乗っけてる。それを掛け、デッカチャンの視力が左2.5右1.5になった時、私は見つけられ、全てを失うだろう。私は奇跡的に動く両手を新しい前足として、逃げ回った。そして、希望を、希を探した。


赤く分厚い布を視界の端に捉えた。レッドカーペットは扉の向こうへ続いており、そこでは二人の男が話し合っていた。正確には、片方が電話している時に、片方はそれに聞き耳を立てている。

間違いない、この二人は「すれ違って」いる。
大きく息を吸い込み、肺が残っていることを確信しながら叫ぶ「大嶋ぁ〜〜希はマグロだ!!!」トントントン…ピチャピチャピチャ「お前のようなグルメの舌には合わない!!!肉でも喰ってろマルチ便所野郎!!!」トントントン…ポタポタポタ「クソでも…」ピタッ

角から飛び出したデッカチャンの影は伸びきって千切れた成人の腸をすっぽり覆った。恐怖で飛び出しそうなほど鼓動する、本当に飛び出してしまった私の心臓を、それを包み守っていた肉付きの肋骨を、脳漿が漏れ出て、せっかちな蝿が集った脳みそを、見つけちゃった。

残った舌は最期の言葉が大嶋に伝わったのかが不安だとでも言いたげに独りでにうねっていた。

児島「渡部だよ!!!」


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