季節外れのサンタさん

ドイツの伝統的な菓子にはどれもこれも伝統的なバターが伝統的に塗り込められている。さらには必ずと言っていいほど伝統的な粉砂糖がかかっている。その魅惑的な白い姿に騙されて、俺はドイツの伝統的な菓子を買う。死ぬまでに俺の伝統になるだろう。

飽きるほど通ってるコンビニからの帰り道、俺が側を通ったら電灯が消えた。いつもより暗い道を帰った。部屋について食べる菓子は、やはりモサモサしている。いつもそうだ。悪態を飲み込んだ。舌の根が乾く。

急いでいろはすの2リットルの封を開けてドイツの伝統を流し込んだ。粉砂糖が廊下をデコレーションしている。そう、俺は廊下で飯を食う。部屋が汚れるのが嫌だから。部屋を掃除する気はないから。みっともない。でも誰が俺の部屋なんか見る?生活を見る?そして、最期を看取る?

俯くのを止め、廊下に現れた雪道を蹴散らし、風呂場で足裏を洗う。風呂の床は常に濡れているので水道代はかからない。鏡を見ると無精髭が雪化粧をしており、ふてぶてしい顔のせいもあり、肥満の老人のようだった。

なんで見た目のいい菓子を、なぜわざわざ、買ったんだ?誰に見せたかったんだ?なあ、この顔ソーシャルメディアに上げたらみんな見てくれるかな?俺は醤油パックを開けるときにしか使わないハサミを取り出してきた。髭を切った。ザクザクと無差別に。顎の通り魔事件だ。

季節外れのサンタは上裸にパンツ一丁だった。鏡にはマダラになった白い髭面。目には涙があったろうか。景色は滲んで溺れていた。なあ、お前は目を開けながら現実から目を背けられるんだな。つくづく自分の卑しさが嫌になるけど、涙にも水道代はかからないんだよな。

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