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小池都知事に学ぶ自己言及のパラドックス 〜"公約達成ゼロ”という公約は達成可能か?〜

※この記事には政治的な意見や思想は含まれていません。そうした方向での期待はなさらぬよう願います。

公約達成ゼロという公約は達成可能か?

就任して約4年が経ちそろそろ公約の達成状況を有権者から追及される段階となった、小池百合子 東京都知事。その内容は満員電車ゼロ、待機児童ゼロなど、都民が常日頃不満に思っている事を”ゼロ”にするという項目で構成されていた。そしてどれも多くの都民が求めるもので、達成できれば有権者から絶大なる支持を得られること間違いなしだろう。

しかし本記事執筆時点では、私個人の考える限りではあるが、どれも達成できていない。つまり今のところ、達成が”ゼロ”なのである。

 就任時に掲げられた12の公約

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こんな公約があれば達成できていたかも??

クリーンなイメージや、はっきりした物言いなどから期待感を持たれて就任した小池都知事。だがこのままでは公約ゼロで任期満了となりかねない。これは、一都民として少し寂しい気がする(個人的に彼女を支持する/しないは関係なく)。
そこでこんなことを考えてみた。
もしあの公約の一覧の中に、”公約の達成ゼロ”という項目が掲げられていれば、達成できていたのでは?と。公約が事実一つも達成出来なかったのであれば、この公約は達成されているのではないだろうか?
この事について少し検証してみたい。

問題の定義
検証する上での前提として、下記のように本問題を定義しておく。
【1】13番目の公約として、”公約の達成ゼロ”も掲げていた
【2】”公約の達成ゼロ”の条件は、掲げた全ての公約が達成されていないこと
【3】掲げられた12個の公約はいずれも達成されなかった
【4】このとき、13番目の公約は達成できたと言えるのだろうか?

公約は達成されたと考えてみる
まず仮に、13番目の公約が達成できていると仮定しよう。つまり上記【2】の条件、”掲げた全ての公約が達成されていないこと”が満たされているという事である。もうお気付きかとは思うが、これは明らかに矛盾している。13番目の公約が達成されていると仮定している時点で、【2】の条件は満たされるはずが無い。
よって、この公約が達成されたという仮定は成立しないようだ。

公約は達成されなかったと考えてみる
では、公約は達成されなかったと仮定してみよう。12個の公約は全て達成されていないという前提があるため、13番目も達成されていないとなると、掲げていた全ての公約は達成されていないということになる。つまり、上記【2】の条件が満たされることになる。ここでおかしな事が起こる。【2】が満たされるということは、”公約の達成ゼロ”という公約は達成されていることになってしまうのだ。

結局達成できたの?できていないの?
以上から、この公約は達成された/されていない のどちらと考えても矛盾を含んでしまう。では結局答えはどちらなのか?
結論を書くと、この公約は「達成できたとも、できていないとも、どちらとも言えない」が正解になる。つまりこの公約は掲げられた時点で、誰も判定のできない、鶏卵論争のごとき悪魔のような問いかけを都民1,400万に突き付ける存在となってしまうのだ。

登場する自己言及のパラドックス

なぜこの公約がこのような悪魔を生んでしまったのだろうか?
実はこの公約は、ゲーデルの不完全性定理という、論理学上の重要な定理において登場する”自己言及のパラドックス”の一実例なのである。
自己言及のパラドックスとは、簡単にいうと(簡単とは言っていない)、それ自身の正しさ/間違いに言及した命題は、論理的には正しいとも間違っているとも言えなくなってしまうという状況を指す言葉だ。

よく分からないと思うので、有名な例として、クレタ人のパラドックスというものを紹介しよう。ご存知の方もいらっしゃると思うが。

クレタ人が「クレタ人は嘘つきだ」と言ったとき、その発言は本当か?嘘か?という話である。これもやはり、よく考えると分かるのだが、正しいとも間違っているとも言えない。
※前提として、”嘘つき”は、いついかなる時も嘘をつき、それ以外の者はいついかなるときも真実を話すと仮定。

仮にクレタ人が本当に嘘つきだとすると、「クレタ人は嘘つきだ」という言葉は真実のため、クレタ人が嘘つきだということに矛盾してしまう。逆に、クレタ人は本当は正直者だとすると、この発言は嘘となってしまい、これまた正直者だということに矛盾してしまう。

このように、自己の正しさ自体に言及してしまった命題は、正しいとも間違っているとも言えなくなってしまうのだ。

結局、”公約達成ゼロ”という公約は達成可能なのか?

以上から、小池百合子都知事が”公約達成ゼロ”という公約を掲げても、それは達成することもしないことも出来ない、困ったさんな存在になってしまう。
しかしそうなると、小池氏はこのまま何も達成できなかった都知事になってしまうのだろうか?それはやはり少し寂しい。そこで少しだけ工夫して、この公約を達成可能なものに改変したいと思う。
その方法は実にシンプルである。”以上の公約の達成ゼロ”と書き換えれば良いのだ。
つまり、13番目の公約より上に書かれた12個の公約の達成についてのみ、言及する形にすれば良いのである。これによって、この公約は自己について言及せず、パラドックスから解放されるのである。
これで晴れて、小池百合子都知事は”公約の達成ゼロ”という不名誉な状況を回避し、都民の期待に応えられる政治家になったわけである。

都知事になった時はこの公約を掲げよう

もし何かまかり間違ってあなたが都知事になってしまったら、一つも公約を達成できないとあまりにも寂しいし、都民だけでなく家族からも冷たくされそうなので、必ず達成できる公約を一つは掲げたいと思うことだろう。
そんな時に最強のカードとなるのがこの、”改変版13番目の公約”なのである。
もしマトモな公約が一つも達成出来なかったとしても、この公約は必ず達成され、達成無しという事態は回避される。逆にマトモな公約を一つでも達成できたなら、それは胸を張って実績と言えるので、娘に洗濯物を別とされる心配も無いだろう。

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