McLean Chanceの「Love Cry」アルバムレビュー vol.6
The RH Factor『Hard Groove』(verve)
Personnel;
Roy Hargrove(tp, flh, vo, p, perc, arr),
Keith Anderson(as),
Jacques Schwarz Bart(ts, as, fl, g)
Bernard Wright(keys),
Bobby Sprks(clavinet, Rhodes, Arp ),
Spanky(g),
Reggie Washington(b),
Jason Thomas(drms),
Daniel Moreno(perc)
Common(vo), Q-Tip(vo),
Erykah Badu(vo),
Anthony Hamilton(vo),
D’Angelo(vo, Wurlitzer),
Anthony Hamilton(vo),
Stephanie McKay(vo),
Shelby Johnson(vo),
Renee Neufville(vo),
Steve Coleman(as),
Keith Loftis(ts),
Karl Denson(fl),
Tony Suggs(org),
James Poyser(el-p, keys, vo),
Tony Suggs(org),
Marc Cary(Wurlitzer),
Cornell Dupree(g),
Pino Palladino(b),
Meshell Ndegeocello(b),
Willie Jones lll(drms),
Gene Lake(drms),
Dontae Winslow(vo, MPC drum machine, finger snaps),
Maurice Brown(vo), Butter(vo, virtual drums, MPC drum machine),
Kwaku Obeng(perc)
Recorded at Electric Lady Studios, New York City in January-February, 2002
Additional recording March and September, 2002
正直に申し上げると、ロイ・ハーグローブには余りよい印象は持ってませんでした。
恐らく、ヴァーヴから出ていたアルバムだったと思いますが、聴いてみて、何か線が細くて、弱々しい印象が強かったです。
後から思えば、彼の吹き方は、明らかに意図的に狙ったものである事がわかるのですけども、トランペットに気合と根性をつい求めてしまうジャズ体質が、ハーグローブへの理解を妨げてしまった感は否めません(とはいえ、ジャズという音楽は気合いと根性の音楽であるのは、ある程度今でも言えますけどね)。
本作は、ハーグローブがホントにやりたかった事をようやく吐き出した作品ですね。
パーソネルの莫大さには驚きますが、そのメンツを見ますと、とりわけゲスト陣にジャズメンはほとんどいないですよね。
コーネル・デュプリーのような大ベテランの参加も驚きますけども(スティーヴ・コールマンまでいますよ!)、ラッパーのQ-Tipやコモン、エリカ・バドゥやディアンジェロウ、ピノ・パラディノ、ミシェル・ンデゲオチェロ、ジェームズ・ポイザーなどの参加がやはり目を引きます。
コレは、いわゆるネオソウルと呼ばれる人々の一群であり、簡単に言ってしまうと、1990年代にヒップホップとR&Bを結びつける事に成功させた人々なんです。
実は、ロイ・ハーグローブは、このネオソウルのムーヴメントに深く関わっており、「ソウル・クエリアンズ」という集団の一員でした。
ハーグローブの仕事として一番際立っているのは、ディアンジェロウのアルバム『Voodoo』での演奏&ホーンアレンジですが、そこでのアレンジを彷彿とさせる、恐らくは一人で多重録したと思われるホーンアレンジが本作でも聴けます。
ピノ・パラディノもディアンジェロウのもとでの活躍が素晴らしいですしね。
とにかく、本作のベースとなっているのは、いわゆるジャズではなくて、ネオソウルなんですよね。
ものすごく端的に言うと、ハーグローブは、ジャズとネオソウルを融合する事で、ジャズ、ヒップホップ、R&Bを結びつけたかったわけです。
ハーグローブは1990年代に、あらゆるジャズジャイアントと共演をするほどの名手でしたが、私は彼のやりたかった事はやっぱりそこにはなかったのではないのか。と、本作を改めて聴いて痛感します。
ハーグローブは1969年生まれですから、物心ついた時にモダンジャズが周りに流れていた。という事は考えにくいですよね。
ファンクやソウル、そして新興勢力であるヒップホップが生活の中で普通にかかっていていたのであって、ハードバップは意識的に選びとらないとなかなか入ってこないでしょう。
ハーグローブは、ジャズというものが、特定の演奏形式を指すものではない事にある段階で気がついていたと思います。
過去の演奏をなぞったり、特定の演奏形式を守る事に意味を見出してはいなかったのではないでしょうか。
しかし、彼の中にある、ブラックミュージックとジャズの融合がそんなに簡単な事ではないのも、よくわかっていたんだと思います。
そこに、ヒップホップの、とりわけ、コンシャス系と呼ばれる人々とソウルの融合が、「ネオソウル」という形で成し遂げられた動きに彼が引き寄せられていったのは、ある意味必然だったのでしょう。
ジャズっぽいリズムなど一切放棄し、新たなスムースさ、アーバンさ、そしてブラックネスを獲得したサウンドは、今聴いてもホントに素晴らしく、ハーグローブのトランペットが曲想に見事にハマり、彼の中にはこういうサウンドが鳴っていて、そのためのソフトな奏法であった事がとてもわかります。
しかし、発売当時、本作の素晴らしさを正確にとらえていたジャズファンは余り多くなかったのではないでしょうか。
私も先に述べた理由から、当時は聴いてもいませんでした。
しかし、ディアンジェロウ『Voodoo』をたまたま聴くと、非常に印象的なホーンアレンジが入っていて、それがハーグローブである事を後に知り、彼に対する考え方が変わり、そうこうするうちに、ロバート・グラスパーがグラミー賞を取った、『Black Radio』以降のジャズシーンの変化を見るにつれて、このアルバムの重要性にようやく気がついてきました。
そこで改めて聴いてみると、コレは、音楽集団「ソウル・クエリアンズ」による、ジャズ方面の作品である事がわかり、この集団の全盛期を記録したものである事がようやくわかってきたんですね。
しかし、この事に気がついた時には、残念なことに、2018年にハーグローブが亡くなってしまったんですね。。
コレから、RH Factorの活動の再評価が進んで、ハーグローブの評価も高まっていくであろう時であったと思うのですけども、ホントに残念でなりません。
2000年代のジャズが非常に混迷していた時期に、現在のジャズに直結する傑作が生み出されていた事をまだ聴いた事ない方は、是非とも聴いてみて下さい。
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